ダメ出し王子 ーそれは致命的だな[女騎士の場合]ー
ダメ出し王子第3弾。前作を読まなくても大丈夫です。
■フレデリック第二王子
■サーバ・バッサ子爵令嬢
■バンカン・ドンカム伯爵令息
■ソーメイン伯爵令嬢 バンカンの婚約者
■モートン フレデリックの再従兄弟で学友
「それは致命的だな」
王侯貴族が通う学園には魔術・学術研究施設や巨大書庫、夜会用ホールや園遊会などが行われる庭園他、剣術や武術などの鍛錬を行う訓練場などもある。
本日も、騎士を目指す子女達が切磋琢磨する様子が見受けられる。
先ほどの台詞を放ったのは、学友のモートンと共に鍛錬していた第二王子フレデリック。
本日は生徒会の業務が休みのため、婚約者の公爵令嬢を誘い、流行りのカフェで寄り道デートでもしようと、ワクワクしていたのだが、生憎、婚約者の愛犬ジャクソン(雌)の出産があるとの事で断られてしまったのだ。
「ジャクソンの一大事なら仕方ないね。さあ、行って……あ、早いね、さすがだね」
「ぷぷー」
「モートン、今、笑った?」
「いえ、むせただけです」
「笑ったよね? ちょっと訓練場に付き合ってもらおうか」
「ええー」
仕方ないので、久しぶりに体を動かそうと、モートンと打ち合っていた合間に、声を掛けてきたのは、今期卒業予定の二名。
バンカン・ドンカム伯爵令息とサーバ・バッサ子爵令嬢だ。
二人は騎士を目指しているため、稀に訓練場で顔を合わす事があったが、フレデリックにとっては知人以下の存在である。だがフレデリックは、人当たりの良い雰囲気を放っているので、時折、気安い仲だと勘違いする者もいるのだ。
「私って、思った事、正直に口にしちゃうんですよね。それでご令嬢には、嫌われる事が多くって。けど、女同士の陰険な関係なんて、こっちがごめんなので、いつも男子生徒と一緒にいるんです」
「こいつ、見た目はこんなですけど、中身は男なんですよー。だけど、俺の婚約者が嫉妬深くて困るんですよねぇ」
勝手にベラベラと話しているのを要約すると、サーバ嬢は正直者なためご令嬢達から敬遠されている。そのため令息達と共に行動する事が多いが、令息達の婚約者、特にバンカン伯爵令息の婚約者ソーメイン嬢から誤解されて困っていると言う。
「君達は確か近衛騎士希望だったね?」
フレデリックが確認すると、二人は答えた。
「そうです、やはり騎士となるなら近衛騎士を目指さねば!」
「女性の近衛騎士は花形ですから」
「なるほどね」
近衛騎士は騎士団の中でも精鋭中の精鋭だ。また、女性騎士は数が少なく、近衛騎士の中でも重宝されている。
「はい、なので、フレデリック殿下には、是非、口添えを……」
「それは致命的だな」
二人の話を聞きつつ、打ち合っていたフレデリックはモートンの剣を叩き落とした。
「参った! 降参、降参。僕、休憩しまーす」
「なんだよ、モートン、もう終わりか?」
フレデリックとモートンは文官よりだと思われていたが、騎士候補生顔負けの剣技を披露していた。
「は?」
「え?」
その動きに気を取られてしまったが、今、第二王子はなんと言った? 記憶を辿るとはっきりと口にしていた。「致命的」だと。
モートンが休憩所へ歩いて行くのを見届けると、フレデリックはバンカンとサーバに微笑みかけた。
「女性騎士が重用されているのは、常に女性の王族や貴人に侍る事が出来るからだ。女性に嫌われる女性騎士なんて仕えられる方が拒絶するだろう。それに王宮には侍女や女官をはじめとした女性職員が多数いる。彼女達とまともな人間関係を築けない者など採用されないよ」
「いえ、で、でも、私は……」
サーバは、何か反論しようと、口を開くが、フレデリックに艶やかな笑みを向けられて、思わず顔を赤らめる。第二王子の微笑みは辛辣な発言と反比例するように麗しい。
「それから“思った事を正直に口にしてしまう”そうだが、近衛騎士は他国の要人警護にも当たるんだよ、失言などされたら、国際問題に発展しかねない」
優秀な女性近衛騎士は、友好国の王妃や姫君、要人の夫人達などの護衛に就くが、その際、他愛も無い会話を通して情報を求められる事が多々ある。勿論、女性近衛騎士も理解しており、円滑な外交関係を築くために必要な情報を伝えている。対応には非常に繊細な対話力が必要だ。
「ああ、それと、これは、男女関係ないけどね。頭の悪い人間は近衛どころか騎士にもなれない」
「なっ」
「そ、それは」
「近衛騎士は木偶のように突っ立っていれば良い訳はない。襲撃や暗殺の際に肉の壁として存在しているのではないんだよ、盾が必要なら、防御魔術を展開していれば良いのだからね。国内外の情勢、政治、各貴族家の内情や権力均衡を把握し、立ち回れる能力が必要だ」
フレデリックの話している事は理解できるが、まるでバンカンとサーバを愚か者と言っているようではないか。
「……おそれながら、我々は木偶ではありません」
怫然としたバンカンが不満を伝えた。
「そうかい? 少なくとも、婚約者としての交流に女性を連れて行くなど阿呆としか言えないけどね。勿論、同性の友人であっても非常識には変わりないし、ノコノコと付いて行く方も無分別と言わざるを得ないな」
バンカンとサーバは驚愕してフレデリックを見返した。
バンカンは婚約者のソーメイン嬢との約束にサーバを「男友達みたいなものだ」と言って何度となく同席させていた。その非常識な行動に戸惑うソーメイン嬢に対し、サーバは心が狭い、男の付き合いを理解していないなどと責め、挙げ句の果てに浮気されても文句は言えないなどと侮辱したという。
それはバンカンとソーメインとの婚約関係に亀裂をもたらすに十分な事件だった。しかし、何故、それをフレデリックが把握しているのか。
「王国騎士は品行方正、かつ、頭脳明晰である事、何より規律を遵守する事が求められる。君達はそれに当てはまらない」
王族に騎士失格という烙印を押されては、取り返しがつかない。賢いと言えない二人にもそれは分かるらしく、必死に反論した。
「……い、いいえ! 騎士に求められるは強さです!」
「そ、そうです! 最も重要なのは強くある事です!」
「それは、騎士の標準装備だよ、強くて当たり前だ」
「そうでしょう! 強さこそ正義です!」
「騎士は強さこそ全てですよ!」
得意気に言い募る二人に、フレデリックは肩をすくめてみせる。
「でも、君達、私の婚約者に負けたじゃないか」
フレデリックの言葉はバンカンとサーバを硬直させ、かつ、打ち砕いた。
バンカンとサーバはフレデリックの婚約者の公爵令嬢に負かされている。
***
遡る事、一週間前、バンカンとソーメインとの軋轢は限界に達していた。
サーバは原因の大部分を占めているにも関わらず、学園のサロンで行われたフレデリックの婚約者主催の茶会に呼ばれもしないのに、バンカンを伴って現れ、ソーメインを批判するという暴挙に出る。
本人曰く、正義感に駆られていてもたってもいられなかったそうだが、あまりにも非常識で不敬だった。
ソーメインは迷惑をかけまいと、バンカンとサーバを連れて茶会から退出しようとしたが、フレデリックの婚約者がそれを止めた。常識外れはバンカンとサーバなのだからと。
サーバはフレデリックの婚約者は部外者なのだから、口を挟まないで欲しいと言うが、バンカンの友人であるサーバが関わるのならば、ソーメインの友人である自分も関わる権利があると、フレデリックの婚約者は譲らない。
「バンカンと私にはご令嬢には理解できない騎士の友情があるんですよ」
そして、サーバが小馬鹿にした笑みを浮かべた時だ。
「なら、騎士の作法に則りましょう」
フレデリックの婚約者は手袋をサーバとバンカンに投げ付けた。
「友人への侮辱は許しません」
こうして、フレデリックの婚約者とサーバとバンカンはソーメインの名誉を懸けて決闘する事となった。
無論、フレデリックはすぐさま駆け付けた。愛しの婚約者の勇姿、見逃す訳にはいかない。しかし、自分がグイグイと前に出てしまうと騒ぎが爆発的に大きくなってしまう。
仕方ない。
目立たないよう、後方にて腕組みをし、観戦する事にした。
そして……
サーバとバンカンはあっさりと敗北した。しかも、一本勝負のはずが、ああだ、こうだと、言い訳して、三本勝負に変更したものの、フレデリックの婚約者に一勝も出来なかった。
「当然だ」
公爵令嬢は強い。フレデリックが婚約者に勝てるようになったのは、成長期を迎えてからだ。フレデリックが彼女を守れるようになってからも、公爵令嬢は鍛錬を欠かさなかった。お淑やかな令嬢の見本と呼ばれているので、それを知る者は少ない。
「てか、何で、殿下が得意気な顔をしてるんですか」
モートンの呆れ顔を無視して、愛しの婚約者に片手を挙げて「頑張ったね!」と労うと、フレデリックに気が付いた公爵令嬢は恥ずかし気に微笑み返した。可愛過ぎる。
「美しくて、優しくて、聡明で、強く、凛々しい上に愛らしいとか」
私の婚約者は天使なの?
女神なの?
どっちなの?
フレデリックは悶え続けた。
***
「ともかくね。王国騎士団入団の審査は素行調査もされる。特に近衛騎士希望者の選抜は厳しいんだ」
呆然と立ちすくむバンカンとサーバは、フレデリックの話を聞いてるのか聞いてないのか。まあ、どちらでもいいか。
「ただね、私の婚約者との決闘に負けて焦っていたのだろうけど、それは無意味だよ。あの決闘の前にすでに王国騎士団の選抜結果は出ているからね」
「え、それじゃあ」
「良かったぁ、安心しました」
そう言うと、何故か胸を撫で下ろす二人。いや、話聞いてた?
「うん、今、合格通知が届いていないと言う事は不合格って事」
「そんな、嘘だ!」
「わ、私の父は中隊長ですよ!」
二人は父親が騎士団の隊長職であるため、コネ入団が許されると思っているようだ。騎士団の隊長職ともなれば、下位貴族でも無下にはされない。フレデリックの婚約者に太々しい態度を取ったのも、それが理由かと呆れてしまう。
「じゃあ、父君に確認してみるといい。特にバンカン令息はソーメイン令嬢との婚約解消が決まったのだから、今後の事を話し合う必要があるんじゃないか?」
「婚約解消!?」
元々、ソーメインの父はバンカンの振る舞いを知って、娘との婚約解消を申し出ていた。それを頼み込んで婚約の継続をしてもらっていたのはドンカム伯爵家の方だ。
バンカンの父は息子が王国騎士団へ入団できるほどの才覚がない事を理解していた。そのため、私設騎士団を所有するソーメインの家と縁を繋げ、バンカンを私設騎士団へ入団させてもらえるように取り計らっていた。そしてサーバの父も娘の実力では騎士は難しいと思っており、ドンカム伯爵を通じて、ソーメインの護衛騎士となれないか考えていた。
おそらく、バンカンとサーバは理解していなかったのだろう。己の馬鹿さで、二人の卒業後の進路は白紙となった。
「それじゃあ、失礼するよ。卒業したら会う事もないだろうな。お元気で」
休憩所へと行こうと歩き始めたが、フレデリックは振り返る。
「弱くて非常識で頭も悪い。「致命的」どころか、近衛にする理由はないな」
後方腕組王子。
エッセイ「短編の後書きとか解説とか」にて、人物紹介やサーバのその後を書いてますので、興味のある方はどうぞ。
明日、27日7時公開予定です。




