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 伸ばした手をぐわっと広げ、天音は女の両側頭部を片手で握る。

 「ふざけろよ」

 静かな声と共に、女を道路に叩きつけた。

 「なんだお前。 いきなり出てきて気色悪い上に、私を馬鹿にしてるのか」

 這いつくばった女に跨るように立ち、天音は続ける。

 「私は私だ。 過去もひっくるめて全部な」

 見下ろす天音に、女は虚勢ね、と続ける。フィルムのような目がまだ、知らない自分を映している。

 かなり強く叩きつけたと思ったが、血一つ出ちゃいない。まじでなんなんだこいつは。天音はゾワゾワと肌が粟立つのを感じた。

ヒトではないくらいに細い四肢が、天音の脚に絡みつく。自分に嘘を付いているわ、お嬢さん。そんな声が脳髄から響く。見栄なんて捨てて、有りの儘に。そう囁いてくる。

 脚にへばり付く女を引き剥がそうとするが、全く離れない。それは植物のように、蔦となってグルグルと天音に巻き付く。

 「素直になって、お嬢さん」

 耳を這う蔦の先から声がした。

 「いやまじで本当にねえから‼︎ キモすぎるだろ‼︎」

 そう天音が叫ぶと同時に


 ゴーン ゴーン と


 教会から、音がした。

 大きな鐘の音だった。


 音がしたと同時に、女は金切り声をあげた。

ズルズルと天音の拘束を解き、影の中に戻っていく。

 とぷりと影が波打ったあと、その場には静寂が訪れた。

 「な、なんだ?」

 天音は恐る恐る自身の影を踏もうとした。するり、と影は逃げていく。何度も試みるが、全く踏むことができない。

 あ、そうか。自分の影って、普通踏めないのか。

 そんなことを考えていると、刑事さんと声をかけられた。

 真っ白な牧師が、肩で息をしながらこちらに走ってくる。

 「無事、そうですね。 珍妙なダンスしてましたけど」

 「は?」

 「ええと、何か見ましたか。 例えば、黒目がちな女、とか」

 そう尋ねられて、天音は先ほどの化物を思い出す。この牧師は、何か知っているのだろう。天音は華岡の問いに頷いた。

 華岡は、はぁと息を吐きだした。

 「すみません、少しお話できますか」

 あそこで、と華岡は丘の上の教会を指さした。

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