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 数日前、教会を撮影場所として提供した時。

 明らかに顔色の悪い青年が目に留まり、華岡は声をかけた。

 君、最近変わったことがありましたか、と。赤髪の青年、高瀬は目を見開いた。

 教会に染み付いたオカルトの偏見は、こんな時に便利だ。そういった気配を感じると言えば簡単に話をしてくれた。

 実際、今回の生物は教会周りのものが苦手らしく、その場にはついて来ていなかったから、なんの気配もなかった。

 「交通事故でスタントマンを引退せざるを得なくなり、心残りだったようです」

 「え、ラビットライダーやってないの」

 「ラビットライダーは知りませんけど、スタントは一切できないんですって。 今はモデルの仕事をやっているみたいですよ」

 そう言われて、高瀬を探していた二人を思い出す。 なるほど、モデル仲間か。 どおりで。

 「事あるごとにスタントが出来る未来を囁かれ、疲弊していたみたいです。 教会には来れない妖精でしたので、心が決まるまでは教会に居てはどうかと提案しました」

 心が動かないと分かると、別の獲物を探しますから、と華岡は続ける。天音は大きく目を見開いた。

 「いやまって!? 私断ったのに襲われたんだけど!? 」

 「あのね、そりゃあ殺されかけたら強硬手段に出ますよ」

 華岡は呆れた顔で正当防衛ですよ、と言った。いやこっちが先に正当防衛で地面に叩きつけたんだけど。理不尽すぎないか。

 「一応と思って、麓まで高瀬くんの様子を見に行ったんですよ。 彼には妖精が寄り付く様子すらなかった。 だから思ったんです。 直ぐ近くにもっと扱いやすい獲物を見つけたんじゃないかって、それで」

 言葉を区切って、華岡は天音を白けた目で見る。

 「なんだよ」

 「いいえ、なんでも」

 華岡は目を伏せて紅茶を飲み干した。光で透けた睫毛がキラキラと輝く。カップを置いたと同時に、その輝きから空が覗く。

 その目にじっと見つめられて、反らせなくなる。

 あの教会の時と同じように、また。 惹き寄せられる。

 「さて、ここからが本題なんですが」

 視線はそのままに、華岡は指を組んでテーブルに置く。

 「貴女は、今まで化け物を見たことがないと言っていましたね」

 「おん」

 「恐らく、今からは見えるようになります」

 華岡が組んでいた指を解くと、小さな人形がちょっこりと座っていた。

 なんだ、と覗き込むと、その人形はとてとてと動いて天音のもみあげから伸びた長い髪を引っ張る。

 「いってー! なに!? 」

 「この教会に棲む妖精です、近いのは座敷わらしですかね」

 「えっ、こわいこわいこわい。 幽霊とか苦手なんだけど」

 「幽霊はまた別種で」

 「別種って何!?」

 人形はくるくるとした瞳で天音のもみあげを三つ編みにして遊んでいる。丁度掌くらいのサイズのそれは、楽しそうに天音を見上げた。

 「気に入られたみたいでよかったですね」

 「いやわかんねえよ」

 「この子が見えたなら、確実に妖精は見えます」

 良いものも悪いものも。と華岡は続ける。

 「そして、見えるようになると、あちらも認識しやすくなる。 化物は認識しやすいものから標的にしていきますから、そういうものに遭遇することも増えるでしょう」

 そう言われて、天音は眉を寄せる。 どうしようもない宣告をされた、気がする。 いや、された。 何も知らない内に同意書にサインさせられた気分だ。

 静寂のなか、三つ編みの本数だけが増えていく。

 「とりあえず、悪い妖精は聖職に関わるものが苦手なことが多いので、なにかあれば身につけておいてください。 信仰しているものはありますか」

 「無宗教」

 「だと思いました。 これ差し上げるので、付けておいてください」

 華岡は十字架のついたネックレスを渡す。 めっちゃいかにもなアイテムじゃん、と心で思いながらポケットに仕舞う。

 「それから遭遇しても攻撃しないでうまく躱して下さい、今回みたいなことになったら最悪人として生きられなくなりますよ」

 なにか困ったら連絡してください、と華岡は名刺を渡す。 名刺には、教会の住所と電話番号が書いてあった。 なんだか相談センターみたいだな、と思いながら名刺を受け取る。

両サイドのもみあげを全て三つ編みにした人形は、満足したようでどこかに駆けていった。

 「ねえ、こういう事が起きたときって、みんなに名刺渡してんの?」

 「そう、ですね。 やはり怪事件と呼ばれるものに巻き込まれやすくなりますから、僕で力になれればと思って」

 「ふーん」

 名刺をペラペラと鳴らしながら、天音は口の端を持ち上げた。

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