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希望の物語  作者: よむよみ
第一部 私の地球(ほし)が消えちゃった

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第七話 化学者の気づき

 何度も何度も人類の挑戦を見ていて、ようやくホープ様がやっていることに気が付いた。

 ホープ様は途方もないくらいの大変な作業をこなしている。


 やはり、科学が発展した文明に直接、神の啓示を行うことはあきらめたようだ。

 科学が発展しすぎると、神様への信仰や夢の中のお告げは相手にされなくなる。

 だから、神の啓示は、その前の――科学がまだ未発達な人たちにお願いし、古文書を書かせた。

 そして、科学が発展した文明だけが到達できるようにその古文書を隠した。

 隠し場所が、簡単すぎると、卵への到達が早すぎて、卵の破壊をあきらめ、時代と共に忘れ去られてしまう。

 そして、難しすぎると、卵が見つからずドラゴンが孵化してしまう。とても絶妙なさじ加減が必要だ。


 多くの場合は、航空写真を一般大衆が目にするタイミングで古文書が見つかるようにしているみたいだ。

 ただ、人類の発展するスピードは、作物の豊作・凶作、偉人の誕生、戦争の有無などによって大きく変わる。

 その時々に合わせて、ホープ様は見つかるタイミングを変えているようだ。

 例えば、古文書の位置のヒントを砂漠に隠し、石油を探すタイミングで見つけさせたりした。

 ただ、そういう場合は大抵、文明の発展が遅れている。卵に傷つけることは難しかった。

 無理とはわかっていても、自らの運命に一度は挑戦してもらいたい、ホープ様はそう考えているのかもしれない。


 こんな事を可能にするには、人類の技術の発展の順序を把握し、未来を正確に予測するが必要ある。

 ホープ様は間違いなく、人類に対して膨大な研究をしている。


 それだけじゃない。人類に卵の存在を認識させるという他に、もう一つ障壁があった。

 古文書が見つかっても、卵を探そうとしない文明があった。古文書が信用されなかったのだ。

 だから、ホープ様は、古文書の内容についてもとても気を配っているようだ。

 しっかりと未来の人たちに伝わるように、信じてもらえるように。

 そのために、自身でたくさん推敲しているのだろう。

 どうやら、科学が発展した人たちに対しては、わかりやすくて正確な描写が信用されやすいようだ。

 その上で、用意した文章を古文書として、誰かに作成してもらわなければならない。


 幸い、どの地球にも、仙人と呼ばれる人がいた。俗世から離れ山にこもる人々だ。

 自身でつくった文章を、その仙人と呼ばれる人たちに書かせた。

 仙人からしたらもちろん、遥か未来の技術を書くことになる。

 そして、神の啓示自体は夢の中で行われる。夢の中の出来事を、起きてから思い出して書き記す。

 当人は文章の意味は全く分かっていないにもかかわらず、夢の中の出来事を書き記す。

 そんな状況では、当然、何度も何度も書き直しが発生していた。


 そうして出来上がった古文書を場所を指定し隠し、今度はその場所のヒントを用意する。

 途方もなく大変な作業だ。

 これを時間の巻き戻しのたびにホープ様はこなしている。


 正直、なんでこんなことをしているのか、私には理解ができない。

 あきらめて次の星を購入した方がいい、この地球にしても寄生虫の対応で十分だ、私はそう思っている。


 そろそろ、50回目ぐらいだろうか。もう何度目の挑戦か覚えていない。


 今度の星でも、そろそろ卵が孵化する時間だ。

 今回は、運がよく、古文書が見つかったみたいだ。


 私は、また、中心となる人物に焦点を当てて、執務室のモニターで確認していた。



 ◇ ◇ ◇



 私はミシェル。化学者をしている。


 近頃、世間がざわついている。

 かなり保存状態のよい古文書が見つかったらしい。


 密閉――空気や微生物を遮断するという概念は、17世紀になって初めて理解され始めた。

 当時は顕微鏡などまだなく、空気や微生物など目に見えないものは、認識されていなかった。

 目に見えないものは無い、そういう認識だった。

 そんな中、一人の科学者がある実験を行った。

 瓶に入った肉を複数用意し、一つはそのまま、一つは布で覆う、一つは完全に密閉する。

 その実験によって、虫の自然発生説は否定され、密閉とはどういうことか理解されはじめた。

 ただ、これは科学としての密閉であり、技術としての密閉はさらに歴史が深い。

 古くから瓶や壺、樽を利用して密閉し食料品を保存してきた。

 エジプトのミイラだって密閉技術の一つと言えるだろう。

 保存状態の良い古文書自体は、世間をざわつかせるものではないはずだった。


 だから、世間をざわつかせたのは、その古文書に記載された通りの卵が見つかったことだった。

 興味本位で探した卵が見つかってしまったことで、世間がざわついたのだ。

 卵によって世界が終焉するという疑わしい古文書ではあったが、急に信じる人が増えてきた。


 どうせ卵は物理的に破壊するのだろう、私には関係ないと、化学者である私は考えていた。

 しかし、兵器では効果がないと古文書に記されていたようで、広く意見を求められることとなった。


 とりあえず、解読された古文書を読んでみる。

 兵器では傷一つ付けられていない。地球を消滅させた後宇宙をさまようのだろう、卵も、体も、頑丈なようだ。

 そんな、小さい卵からうまれた一匹のドラゴンが、地球を消滅させている……。

 地球の消滅、言葉ほど簡単な事ではない。とてつもないエネルギーが必要になる。

 そんなエネルギーを、一体どうやって確保しているのか。

 私は、古文書を何度も読み返した。

 間違いない、卵に生えている根だ。根から地球のエネルギーを吸収しているんだ。

 とするならば……。


 私は、毒の使用を提案してみることにした。


 ほどなくして、毒の使用が認めらた。

 兵器が無力である以上、多少環境に悪影響があるとしても毒を試すほか無いようだ。

 私は提案者として軍隊についていくことにした。



 ――

 地中深く、静寂に包まれた広大な空洞。

 ところどころ、マグマが赤く光り、闇をそっと照らしている。

 空洞の中央付近に、ぽつんと置かれた卵。直径はおよそ50センチ。

 卵からは根のようなものが伸び、地面にしっかりと絡みついている。

 ――


 古文書に記された通りの場所だった。


 私も含め、全員がガスマスクと防護服を着用している。

 あらゆる毒薬、化学兵器が次々と試されていく。

 効果があるのかないのかわからない…、時間ばかりすぎていく。


 ――

 やがて、卵の表面に細かなひびが入り、殻が静かに割れはじめる。

 中から現れたのは、小さなドラゴン。

 ――


 どうやら毒による効果はなかったようだ。私は少し落胆した。


 ――

 その幼い姿にはどこか愛らしさがあり、目はまだ閉じられている。

 体を伸ばしたり、ねじったり、ぎこちなく動かしている。

 やがて動きが落ち着き、そっと目を開く。白い瞳が、微かに光る。

 ――


 んっ?白い瞳…?古文書によれば瞳は紅かったはずだ。


 ――

 幼いドラゴンは目に映るものには興味がない様子で、辺りに息を吹きかける。

 ――


 ここも違う。ドラゴンはあくびをするはずだった。それにだんだん熱くなってきている。息は、熱風のようだ。


 近くの兵士が「熱すぎる」とガスマスクを外した。着用している防護服はあまり耐熱性能はないようだ。

 毒が充満しているこの洞窟で、すぐに毒の影響が出ると思ったが――意外にも、兵士は平然としている。


 もしかして――毒が、息によって中和されたのか?

 試しに少しだけ、ガスマスクを外してみる。……平気だ、やはり毒は中和されているようだ。

 なぜ中和する必要がある?もしかして、ドラゴンは地球の消滅が目的ではない?


 中和――これは、重要な気づきかもしれない。

 もし古文書の通り地球が繰り返しているのであれば、我々には解決できなかったが、未来に託す価値があるかもしれない。


 ――

 幼いドラゴンは姿勢を正し背筋を伸ばすと、体全体が淡く光を放ち始める。

 ――


 我々にはもう時間は残されていないようだ…。

 ミシェルは古文書に記載されていた神の存在に望みをかけ、両手をつなぎ祈りを捧げることにした。

「神様、このドラゴンは、意図的に毒の中和を行っております。このことを後世にお伝えください」


 最期の時、光の中に、うっすらと女神のような立ち姿が見える。

 両手を胸の前で祈るように握り、顔を伏せ、唇をかみしめている。

「後世には必ず伝えます。ありがとう。そしてごめんなさい」


 ――

 次の瞬間、地球は消滅した。

 ――



 ◇ ◇ ◇



 今回も失敗に終わった。


 今回は、通常より文明は発展していたはずだった。

 今までの中ではかなり高度な文明だったはずだった。


 地軸の調整により、気候は安定するようにはなったが、毎回同じように文明が育つわけではない。

 ちょっとしたことにより、不作になったり、偉人が育たなかったり、技術の発見が遅れたり、

 小さなすれ違いから戦争が起こったり、同じようにしていても大きな差がでてくる。

 それに、どんなにうまくいった文明だとしても、神の啓示が機能せず、卵を壊そうとしない文明だってある。


 今回は卵へ挑戦した。間違いなく当たりの文明だった。

 順調に文明が発展し、それに伴って技術も進化した。

 さらに、神の啓示が聞き入れられ、古文書として発見され、それがある程度信用され、卵を壊す行動をとった。

 ホープ様も大きな期待をよせていたに違いない。

 でも、結果は――いつも通りの失敗だった。

「今回はうまくいきそうかも!」そうつぶやいていたホープ様の自身の顔が思い浮かんでは消える。

 期待していた分、失敗した時の落胆も大きいに違いない。


 もう少なくとも50回以上は失敗している。そのたびに、星が消え、人々が消えている。

 そして、その様子をホープ様はずっと見ている。


 ホープ様が自室から顔だけ見せて言った。

「また、ダメだった。また、時間を戻さなきゃ」

 ホープ様はいつも笑顔で、気丈にふるまっているが、顔はどこか引きつっているし、声も震えている。

 誰が見ても、無理しているようしか見えないだろう……。


 ホープ様は、再度、今回の文明はどうだったか、神の啓示に問題なかったか、これからしばらくの間考え込むに違いない。

 ただ、まだその間の方が少しマシのようだった。

 卵の孵化が始まる時がまた近づくにつれて、ホープ様は再度不安に押しつぶされそうになっていく。

 その繰り返しが何度も続いている。


 確かに、もともとホープ様が始めたことだった。

 しかし、もうやめるにやめられなかった。

 ここであきらめてしまったら、今まで消えていった人々が報われない。

 それに、人々もまた、卵に挑戦し結果を残し、次の地球に託して消えていく。

 繰り返せば繰り返すほど、重責がどんどん重くのしかかり、ホープ様を苦しめていく。


 本当に終わりがあるのかわからない。

 ただ延々と失敗を繰り返すだけかもしれない。


 人々には申し訳ないが、私には星の事なんてどうでもよかった。

 私は、ただただ、ホープ様が心配だった。

 だから私は、笑顔が見たくていつも応援をする。


 でも、本当に応援することがが正しいのか、私にはわからなかった。

 もしかしたら、あきらめる方がいいのかもしれない。

 もともと天界があきらめるくらいの災厄なのだから。

 ホープ様はすでに解決策を見つけているのだから。

 あきらめたら、もうこんなホープ様の姿を見なくて済むかもしれない。


 心配でノックをしても返事が無い。様子を見るためホープ様の部屋に入る。

 ホープ様は机に突っ伏して眠っている。顔には涙の跡がある。

 以前とは比べられないほど、真剣で立派な姿のように感じられる。


 このまま応援を続けるべきか、それともあきらめさせるべきか。

 健気に気丈にふるまおうとするホープ様の様子が思い浮かぶ。

 どちらが正解かわからないまま、私はまた、そっと応援を続けている。


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