表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
希望の物語  作者: よむよみ
第一部 私の地球(ほし)が消えちゃった

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/10

第三話 神の力

 地球ほしを元に戻してから、既におよそ2000年が経過した。

 大きなモニターの前に座って、地球ほしにある卵の様子を確認している。


「どうぞ」最近、ミカエルはコーヒーを用意してくれるようになった。

 真面目に仕事をしているとご褒美があるものらしい。

 ご褒美のコーヒーはとても上品でおいしかった。

 一口飲んで、ふっと一息つく。

 そろそろメルトドラゴンが孵化する時間だ。

 ミカエルも大きなモニターの前に座って、一緒になってモニターを見始めた。


 ――

 地中深く、静寂に包まれた広大な空洞。

 ところどころ、マグマが赤く光り、闇をそっと照らしている。

 空洞の中央付近に、ぽつんと置かれた卵。直径はおよそ50センチ。

 卵からは根のようなものが伸び、地面にしっかりと絡みついている。

 ――


「……あれ、人はいないみたいですね。今回は何もしなかったんですか?」

「あっ。えっと……そんなことないわ。地表を見てみて」

 ミカエルは素早くモニターを切り替えて地表を確認した。


 通常であれば、陸では風に揺れる草木、海では波の動きが見える。

 しかし、映し出された地表は一面、白銀の氷に覆われていた。


「えっ……もしかして…星がまるごと凍ってる?……」

「ええ。人はこの現象を全球凍結って呼ぶらしいわね。

 地球ほしを傾けたら、この現象が起きたの」


 私は、少しだけ得意な顔で、自分のモニターを大きいモニターの横に置いて、約2000年前の地球ほしの映像を映し出した。

 ただの青くて美しい地球が映っている。

 ミカエルは「いつもの星ですが何か?」ときょとんとしている。


 しばらくすると、不思議なピンク色の光に包まれた。

 光が消えると地球の向きが少し変わっていた。

「神の力ってこんなこともできるんですね」ミカエルはつぶやいた。

 そう、ミカエルの言葉の通り、私は神の力を地球に対して行使した。

地球ほし自体への力――時間操作や天災、天変地異――そういうのは神様の得意分野よ」

 自信満々に言い放った。ミカエルは初めて感心した顔を見せた。


「さすが、全知全能の神様。そんなこともできるのですね。

 でも、星の向きを変えると何か変わるんですか?」

 ミカエルの言葉に、私は映像を早送りにした。


 元の北極や南極にあった氷が縮小し始めると同時に、全体的に雪景色が増えていく。

「あー、なるほど。氷は寒さを蓄えていますからね。それが一斉に溶け始めた…。

 それが星全体を冷やし、さらに、太陽光も反射することになってしまったんですね。

 それで、星が冷えてしまった。こうなると増えた氷がさらに太陽光を反射して悪循環ですね」

 ミカエルの言葉に私は黙って頷いた。

 私は、結果を知っているだけで、なぜ地球が凍るかなんてよくわからない。

 けれど、頭のいいミカエルが言うのだからきっとそうなのだろう。


 しばらくすると地球全体が凍ってしまった。全球凍結だ。

「この通り。地球の傾きを変えると、大幅に気候に影響があるの」


「でも、地球ほしを暖めたり、冷やしたりしてみたんだけれど、地下深くの卵には効果はなさそうね。

 さすが、宇宙をさまようドラゴンの卵ってところね……」私は、卵の様子に切り替えてつぶやいた。

 卵からは、いつも通りの生命活動が感じられる。


「ただ、その代わりに地球ほしの気候を安定させる方法はみつけたわ」

「えっ、そんなこともできるんですか?」

「ちょっと見てて」

 その後も、地球の向きをさまざまに変えた時の映像が映し出された。

 そして、ある時、夏でも冬でも暑すぎず寒すぎず、多くの生命体が繁栄し始めた。

 地球の生命体にとってちょうどいいバランスのようだ。


「詳しくはわからないけれど、地軸が通る地帯――人の言葉では北極や南極ね――その片方を海に、もう片方を大陸にすると、気候が安定するみたいね。

 その後もいろいろ実験してみて、今の地球ほしは、たしか両方とも海となるように地軸を調整していたはずよ」

「海と陸で光の反射率や熱の蓄え方とかが違うはずだから…。えっと、もしかすると…。

 地軸の片方だけ大陸があることが、この星にとって、もっともバランスがいいってことなんですかね…?」

 ミカエルが難しい話を言っているが、私は、多分そうなんじゃないと、あいまいに頷くことしかできなかった。

 いろいろ試してみて、ようやくこの方法にたどり着いただけだ。私には細かい理屈はわからない。


「なるほど……。その方法を使えば気候が安定する。

 そして、気候が安定するってことは、文明も順調に育つってことですね!」

「そう!それが狙い!」

 さすが、ミカエル。とても優秀。

 お使いの天使というのは、神様の職業の一つであって、神様と能力的にはほとんど変わらない。

 星を持たず、星に対して大きな影響を与えられていないだけで、日常的な力は神様と同等だ。

 そしてミカエルは、事実からの考察が早く、おそらく神様の中でも地頭が抜群に良い。


 説明が一旦終わると、再び卵の映像に切り替えた。

 地上は極寒の氷だというのに、卵の中は少しずつ成長しているみたいだ。

「これぐらいの寒さでは、卵には効果ないよね……」私はそっとつぶやいた。

 卵に効果はなく、おそらく無駄だろうと思ってはいる……。

 それでも、つい何らかの奇跡を期待してしまう自分がいる…。


 ――

 やがて、卵の表面に細かなひびが入り、殻が静かに割れはじめる。

 中から現れたのは、小さなドラゴン。

 その幼い姿にはどこか愛らしさがあり、目はまだ閉じられている。

 体を伸ばしたり、ねじったり、ぎこちなく動かしている。

 やがて動きが落ち着き、そっと目を開く。紅い瞳が、微かに光る。

 目に映るものには興味がない様子で、かわいらしく欠伸をひとつ。

 姿勢を正し背筋を伸ばすと、体全体が淡く光を放ち始める。


 そして――次の瞬間、地球ほしは消滅した。

 ――


「うん。やっぱりこの方法だけでは卵には効果はないわね…」

 胸の前で祈るように組んでいた手をほどき、私は一言だけつぶやいた。


 でも、私は今回、新しく地軸の調整を思いついた。

 この方法を使えば、次の地球ほしでは、もっと高度な文明が育つに違いない。


 私は今まで、神の力は万能だと思っていた。

 神の力で何でもできたし、何一つ不自由は感じていなかった。

 でも違った。今回の事でそうではないことに気が付いた。

 解決できない問題があることに気が付いた。

 まるで人々と同じ。私は今、人々と同じ目線に立っている、そんな気がしている。


 今まで、人々が問題を解決していく様を、地球ほしの観察で何度も見ていた。

 でも…、見ていただけだったという事に、気が付いた。何もわかっていなかった。

 解決できない問題に初めて出会って、解決の難しさ、人々の偉大さに気が付いた。

 問題に向かい合う。それが解決できないと挫折しそうになる。たとえ不可能に見えても再度挑戦する。

 人々はそうやって何度も何度も、解決の困難な問題に向かい合って、そして一つずつ解決してきた。

 それは…、今まで気軽に眺めていたけれど…、とても尊い事だと感じられた。


 私は、今回、地軸の調整に思い至った。今、人々と同じように私自身が成長している。

 解決困難な問題を前に、私は初めて試行錯誤し、一つだけ新しい発見をした。

 まだまだ少しだけど、まだまだ足りないけれど、私には初めての一歩が少し嬉しく感じられた。


 私は再び地球ほしの時間を戻した。

 まだ私にはこの問題の解決方法はわからない。

 でも人々と同じように私自身も成長し、いつか解決したい、そんな事を思い描いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ