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希望の物語  作者: よむよみ
第一部 私の地球(ほし)が消えちゃった

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第二話 神の啓示

 私は、心を落ち着かせるため、執務室から一旦自室に戻る。

 戻るとはいっても、ここは、広大な天界の片隅にある小さな家。

 だから、家の中の移動はとっても簡単。執務室と自室はつながっている。


 ちなみに、私の小さい家は、球形に広がっていて、全面ガラス張り。

 幸いこの辺りは神がほとんど来ない。だから私のこだわりを優先できた。

 最も近い星でさえ程よく遠く、いつでも星空が部屋をやさしく照らしてくれる。

 いつだってふと見上げた夜空の星たちは、私を見守ってくれている。

 やっぱり最高に心地がいい。


 そして、部屋は三つ。執務室、自室、そしてお使いの天使用の部屋。

 神様としてはちょっと狭い家だけれど、まだみならいである私には天使は一柱までと決まっているし、今はこれで十分ね。


 家具は最低限。最近の天界では、それが神様の暮らし方として流行しているみたい。

 そもそも、光でも椅子でもソファーでも、原始的なものなら何でも自由に扱える神にとって、家具なんてただの飾り。

 無くても全く困らない。その場で作ってしまえばいいのだから。

 ……でも、本当は欲しい家具はたくさんある。

 まだみならいで自由に買えないってことは、内緒。

 私がもう少し成長して給料が増えてきたら、もう少し買い足していきたいと思ってる。

 自分で作るとどうしても簡易的なものになってしまうのよね。

 それに少しオシャレしようとするとなんか統一感がでない……。私ってセンスが無いのかしら?


 そういうわけで、執務室には、とってもシンプルな大きな白いテーブルが一つだけ。

 そのテーブルの上にはモニターが計三つ――私とミカエル用に小型のモニターが一つずつ、大型の共用モニターが一つ置いてある。

 椅子は、大型の共用モニターの前に二つと、個別の小型モニターの前に一つずつの計四つ用意した。

まだまだ、みならいらしい、とても質素で簡単な執務室。


 私はそんな執務室から、隣の自室に移動した。

 私の部屋はベッドが一つと、机に椅子、そして小さい本棚が一つ。うん。最低限って感じ。


 私は、神の力を使って即席でソファーを用意し、腰を下ろした。

「まずは、メルトドラゴンのおさらいね」

 天界の生命図鑑を本棚から取り出すと、該当のページを開いた。


 見た目はいわゆるドラゴン。

 成体のドラゴンは、星に卵を産み付ける。

 卵は植物のように根を張り、星に固定される。

 そして約2000年かけて孵化する。


 孵化したばかりのドラゴンは、まず星を無に帰し、それを食べて成長する。

 少しずつ食いちぎって食べるのが面倒だからって、一度粉々にしてしまうだなんて……。

 それに星を粉々にするバカげたエネルギーを、卵に生える根で寄生した星自身から吸い取っている。

 考えただけで、なんて大胆で凶悪な寄生生物なのかしら。


 でも、原因がわかったのであれば解決は簡単ね。卵を壊せばいい。

 幸いこの地球ほしには人がいる。人に啓示を与えて、卵を破壊してもらえばいい。


「人に啓示を与えるのなら、夢に入る準備が必要ね」

 どんな星にだって神様はいる。

 災害や飢饉が起こるとどの星の人々も、神様にお祈りを始めるから。

 もちろんこの地球ほしにだって信じられている神様はいた。

 その神様に似せて神の啓示した方が、効果的かしら。


 この星の神様といえば、多分偶然だけど、普段の私の格好によく似ていた。

 より印象に残るようにもう少しだけ演出してみた。

 いつもの白が基調のワンピースに、頭上に黄色く光るリング、手には分厚い本を用意して、最後に後光。

 後光で顔を隠したいわけじゃないの。私は神様の中でも、かなり美しい方だと思う、きっと。

 夢の中で話しかけるのだから、少しぐらい影があった方が信じてもらいやすいの……たぶん。


 若い女性の夢の中に入り、そっと啓示を与える。


「日沈む方角、洞窟奥深く、根をはる災厄の卵眠る。

 その卵はこの世界を崩壊へと導くだろう。

 卵を砕き、星を救いたまへ」


 あまりの滑稽な様子に、ミカエルは苦笑いしているようだった。

 自室を薄暗くし、黄色いリングを頭上にぶら下げ、旧時代風の白い服をまとい、

 神様のマニュアル本を手に、後ろから弱い白光をあてながら、

 ぶつぶつと啓示を唱える私――もし私自身がそんな光景の目撃者だったら大爆笑していたわ。


 神の啓示ごっこはこの辺で終わり。もう十分に伝わったはず。


 そして、2000年の歳月が流れた。

 文明は静かに進化し続けるかに見えた――


「うまくいかなかったようですね」

「ええ、失敗だわ」


 神の啓示が伝わらなかったわけではない。

 ただ、卵を壊すには文明が未熟すぎた。

 宇宙を飛び回る生物の卵には、木や鉄の道具では傷ひとつつけられなかった。


「これほど硬い物質は見たことが無い。それに卵一つで世界の崩壊なんてできないだろう。

 きっと、お告げが間違いで、この卵が我々を救ってくださるのだろう」

 あまりに壊せないため、卵は逆に信仰の対象となり、卵を破壊しようとする者を弾圧するようになった。

 やがて文明の発展とともに、卵を守る奇妙な宗教となり、文明とは隔離され洞窟で暮らすようになってしまった。


 私は、啓示が失敗したことに気付いてはいた。

 ただ、もはや啓示ではどうしようもないとも思っていた。

 啓示したとしても、きっと人々が争い始めるだけに違いない。もはや、手遅れだった。

 なんらかの奇跡が起きることを願って、私は最期まで見届けていた。


「最期、卵を見守っていた人たちの表情見た?」地球ほしが消滅し落胆した私は、ミカエルに同情を求めた。

「ええ。星が壊されるとも知らず、ついに自分たちの時代が来たと、心から喜んでいました」

「天界で解決策がないということを、甘く見ていたわ。簡単に片付く問題ではないということね」


 私は、自身の無力さを振り払うように、地球ほしの時間を戻すことにした。

 パチンッ。私の指が鳴ると、地球ほしは再び元の美しい青い星へと戻っていった。


 地球ごと消されてしまった人々の様子を思い浮かべて、胸が痛くなる。

 でも、大丈夫大丈夫。まだ始まったばかり。

 天界でもあきらめられている災害だ。簡単に片付くはずがない。

 わかっていたことだ。想定している通りのはずだ……。


 苦しい。早く解決したい。

 いけない、笑顔にならなきゃ。この地球ほしの神様はいつも笑顔なのだ。


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