第十話 神は気まぐれ
「ふぁ~~」
ホープ様が目を覚ましたようだ。
自室から出てきて、いつもの日課のとおり執務室のモニターで星の観察を始めた。
「えっ、あれ?ミカエル、ミカエル!何が起きたの?もしかしてメルトドラゴンが何か悪さした?」
私は、冷静に事の顛末を説明した。
ホープ様が眠りについてから、星では300年ほど経過したこと、
250年ほど経過した頃、些細な争いから戦争が始まったこと、
徐々に戦争が拡大し世界大戦となり、わずか30年で人類が滅びたこと。
「ことの発端から最期まで、詳細にまとめてあります。ご覧になりますか?」
ホープ様は最初とまどった様子だったが、徐々に理解が追いつくと――急に笑い始めた。
「ふ、ふっ、ふぁー、はっはっはっ。
あ、ごめん、詳細はいいや。そういえば忘れてた。
人類は共通の目的を失うとこうなるんだった。
文明が発達しすぎて、自らを滅ぼしちゃったのねー。
どうせどうしようもないことから争いが始まってるんでしょう。
ふ、ふっ、ふぁー、はっはっはっ」
こんなに笑っているホープ様を見るのは初めて。
凶悪なメルトドラゴンを残していたことが気がかりだったのか、メルトドラゴンは無関係と知って、ちょっと安心したみたい。
もしかしたら、自滅の道を選んでしまった人類を見て、今まで何度も地球を消滅させてきた罪悪感が、少し和らいだのかもしれない。
ホープ様はしきりに「メルトドラゴン関係なくてよかったー」「今まで結構神経使ったのになー」と、つぶやいてた。
一時間程たって笑いつかれたのか少し落ち着くと、
「次はどうしよっかなー?
このまままた新しい文明が誕生するのを待っているのもいいけど、ちょっと退屈かしら。
メルトドラゴンは対処したうえで、はじめるのもいいかも。
いっそのこと、試練を増やしてはじめるのもスリリングかな!?」
「どれも楽しそうですね」
「どれがいいと思う?次はどんな文明が生まれるかな~」
ホープ様は少し吹っ切れたのかな。威厳のある神様のイメージが少しくずれてきた気がする。
まあ、多少すべてに寛容で、そして、鈍感なほうが、神様にはちょうどいいのかもしれない。
「もし新しい試練を増やすとしたら、どんな試練があるかなー?
天変地異とかだと文明の発展が遅れるだけでちょっと地味かな?
今回のメルトドラゴンは、なかなか試練として難易度高くてドキドキしたよねー。
でもメルトドラゴンはちょっと人類には対応が難しすぎるのよねー。何回も時を戻すのも、ちょっと大変だし」
「次は、メルトドラゴンは対処したうえで、ゆっくり文明の観察をしよう。
不確定要素の試練なんて何かしらたびたび起こるし、それでも十分観察になるよね」
そう言って、ホープ様は一番マイルドな案を採用し、生物の移動届に記載し始める。
お話しているうちに、私も次の文明が楽しみになってきた。
◇
「やっぱり、これはちょっと違うな」
ビリッ。ホープ様はまとめていた生物の移動届を破り捨てる。
「どうするんですか?」
「一度困難を乗り越えた今の人類に、一回だけチャンスを与えようと思う」
「あっ、なるほど。メルトドラゴンを解決した後、人類が滅びる前に戻すのですね。たしかにそういう選択肢もありですね」
「うん。何度も啓示あたえて、古文書を作って、災厄を回避したこの人類を、なかったことにするのは、少し寂しい。
それに困難を乗り越えた分、機会を与える方が――神っぽいよね」
「確かに、そうですね!」
そう言って、私もこれまでのこの星の出来事を思い返す。
何度も失敗しそのたびに時を戻し、次の世代のために挑戦し、結果を古文書としてつなぐ、
神様と人類が一体となって生まれた文明、確かにもう二度と生まれることはないだろう。
それにしても、ホープ様は随分と立派になられた。そのことが何よりうれしかった。
「だから、250年ほど時間を戻しってっと」
そう言って、ホープ様は指を鳴らし星の時を戻した。
「ただ戻すだけだと同じ未来をたどるだけよね。何か未来の啓示を与えた方がいいかしら。
でも、すでに文明は充分発展していて啓示の効果は薄いのよね。うーん……。あっ、そうだ」
そう言うと、最近買ったタブレットで仮想空間に潜り込み、文字を書き込みはじめた。
『
2026年2月。
第一部「私の地球がきえちゃった」
雲一つない青い空。
どこまでも続く青い海。
…
…
-----あとがき-----
人類は一度小さないがみ合いから、300年後には滅んでいます。
ですが、忘れないでください。
神ですら切り捨てていた災厄を乗り越えたことを。
恐ろしい苦難に立ち向かった勇気を。
試行錯誤で工夫した人類の知恵を。
今一度、立ち向かう機会を授けましょう。
』
「はい、これで投稿っと」
神の啓示としてはずいぶん気まぐれで雑なものだった。
こんな投稿では誰にも読まれないだろうし、読まれたところで何かが変わるとも思えなかった。
「これで何か変わりますでしょうか?」
「ん?ああ、いいのよ、ダメでも構わないわ。だって、一度すでに滅んでるですもの」
「まぁ、ずいぶんきままなんですね」
「いいのよ。なんてったって、私は――」
『神、全知全能なんだから!』
二人で口をそろえて言い放つと、私たちは長い間笑いあった。
別の作品を書いています……。
続きはもうしばらくお待ちください……。




