貰いもの。1
「そんなに欲しいならやるよ」
「俺達はオネーサンのほうと契約したいかも~」
「というか、オネーサンに契約魔法が解けるかな? ぎゃははは」
「ではお言葉に甘えて」
ぱちん、と指を鳴らした。
別に意味はない。無詠唱で魔法は扱えるが、何かの起点があったほうが格好いいだろう?
私が指を鳴らすと、少女の首にあった契約紋が消え去った。
上級魔法というのを聞いておいてよかった。調べることも出来たが、余計な手間を省けるのは非常に助かる。
私は面倒くさがり屋だからな。
ついでじゃないが、傷だらけの体も一瞬で癒やしてあげた。
ボロボロの少女をそのままにしておけるほど、鬼畜ではない。
当の少女は急に健康体に戻ったことで、非常に驚いているようだ。細い体をぺたぺたと触り、自分の体を確認している。
「ブラムウェル。ギルドに行くのは後だ」
「リサ様の決定でしたら、全て従いますよ」
「助かる」
まずはこの少女を安全な場所に移動しなければ。
奴隷契約が解除できて、治療も終わったといえ――このまま放置するわけにはいかない。
奴隷が金品を持っているわけではないし、今まで飼い殺されていた者が、ではこれから自分で生きていけます、という者などいないだろう。
私が少女を抱き上げると、折れてしまいそうな細い体が腕の中に収まる。
もちろんだがその細さ同様、風で飛びそうなほど軽い。
「お、おい!」
「なんで解けた!」
「上級魔法だぞ……もしかしてあの奴隷商人、騙しやがったのか」
なんだ。自分で解けたら持っていって良いような言い振りで、今更後出しで何かを言うつもりか。
まぁ上級魔法を覚えていれば敵無し、人生安泰とも言われている高度な魔法だ。
私のような超絶美女には解けると思わなかったようだな。
それに奴隷商人に疑いの目が向いてしまっているが、きっとその商人は間違いなく仕事をした。
ブラムウェルの言う通り付与されていたのは上級魔法であった。
たまたま私がその魔法を解除出来ただけで、運が悪かったのはこのチンピラの方だ。
「お、おい、待て……。あれって、ブラムウェル・レイナーじゃねぇか……?」
「マジだ!」
「……ブラムウェルが……が付き従ってる人……?」
ここでもブラムウェルの名声が役に立つようだ。
持つべきものは顔の知れた魔法オタクというわけである。
……とはいえ、ブラムウェルの名声はあまりにも高すぎた。
チンピラの注目はおろか、今まで無視や回避を貫いていた民ですらこちらに目を向け始めた。
長居は危険だ。
「……ブラムウェル、行くぞ。宿でもどこでも案内しろ」
「こちらへ」
民衆が集まりだした往来から抜け、私とブラムウェル、そして強引につれてきた少女は、とあるホテルへと来ていた。
目利きもできない私ですら理解できる。ここは超を付けてもいいほどの、高級ホテルだ。
ホテルの敷地に入る前から、あの通りに比べて人の質が違っていた。
明らかに金を持った者達が多く、豪華絢爛という四字熟語がよく似合う馬車が通っていく。
頼んでおきながら、場違いなのではないかと不安になってきた。
ブラムウェルはずんずんと迷いなく進み、これまた豪華な扉を通ってエントランスに入った。
追い返されたりしないだろうかとヒヤヒヤしながらも、私は黙ってブラムウェルを信じて、その後を追う。
「ようこそいらっしゃいました、レイナー様」
エントランスにあった受付に顔を出すと、そこに立っていた男は開口一番にそう言った。
そうして今度は、深々と頭を下げた。
従業員と顔見知りというだけでも、少しだけホッとする。
「ここは私のホテルです」
「へえ、お前、ホテルのオーナーやってるのか」
「はい。好きにお使いください。各ホテルに通達しておきますから」
ほーう。これは良い。最も安心できるベッドは我が家にあるが、出先の、しかも高級ホテルのベッドには少しそそられる。
旅に出ればどうしても帰れない日も出るだろうし、こうして宿を確保できたのは大きいかもしれない。
それにどうせ旅費はブラムウェルが持ってくれるだろうし。
むふふ、と旅に思いを馳せていると、従業員からの冷たい視線に気付く。
じっと人を見つめている――あれは人を疑う時の目だ。
貴婦人を見慣れているエントランスの従業員にとって、私のこの見た目は疑う対象になり得るようだ。
意外とこの見た目を気に入っているんだが、美女と威張るのはやめにするか……。
「そちらの麗人は?」
「ああ。私の師匠になる予定の方です」
「れ……レイナー様程の方が、師匠を取られるのですか!?」
懐疑の目から、今度は品定めするような目に変わった。
――このような女が、あのレイナー様の?
そんな声が聞こえてくる。こんな高級ホテルの従業員で、そこまで目線に意味を孕んでいていいものなのか。
いや、普通の客人に対しては仕事の笑顔を見せるのかもしれないが。
とりあえず関係性は否定しておくか。
「違うぞー」
「そんなこと言わずに是非お願いします」
「だったら黙って案内して」
「失礼致しました。こちらへどうぞ」




