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さすがに1000年は飽きたから。  作者: ボヌ無音
第一章 魔女、外に出る。

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ギルドへ。

 それから幾つかの魔法を披露し、その都度ブラムウェルからの丁寧なレビューを貰った。

 ブラムウェルは納得したのか、それ以上は追求することはなかった。

 となれば本来の目的である、身分証明書――ギルド登録証を作りに行く。


『じゃあな、嬢ちゃん。また呼んでくれ。次は仕事をさせてくれよ』

「考えておく。付き合ってくれてありがとう」

『俺の方こそ、休憩時間をくれて助かったぜ』


 地獄の番人を地獄に送り返し、私はブラムウェルと一緒にギルドへ向かうことにした。




「冒険者ギルドってどんな感じ?」

「そうですね……」


 個人的な偏見も混じりますが、とブラムウェルは言ってから説明を続けた。


 冒険者ギルドとは、様々な貴族や団体の歴史を考慮すると、若造にあたる新しい組織だという。

 その浅い歴史から軽視されることも多く、場合によっては冷遇されることもあるらしい。

 しかしそれは古い文化や、長い歴史を持つ凝り固まった貴族達ばかりだそうだ。


 現在の冒険者ギルドは上質な人材が揃っており、貴族でも支払いが苦しいと言われるほどの熟練者が揃う。

 稀にだが国がそんな手練を雇うという噂もあり、着実にギルドへの印象は変わっている。


「あぁ、それと、依頼のランクにはお気をつけください」

「ランク」


 よくある話だ。冒険者にランクが設定されているかどうか、だろう。

 前世で流行っていた物語では、そういうのをよく聞いた。


「ええ。冒険者ギルドが独自で定めた『危険度ランク』がありまして、実績に伴わない任務は受けられない場合が多いです」

「冒険者ランクじゃないんだ」

「ええ。人にはランクはありません。ですので、まずは低ランクの仕事から引き受けて、実績を作る必要があります。リサ様ほどの方に、草むしりなどさせるのは腹立たしいですが……」


 なるほど。何事にも下積みを経て、経験値を稼がねばならぬというわけだ。

 数百年ぐうたらしていたのだから、きちんと下っ端から働けよと言われているようだ。

 こんなことならもう数百年ほど引きこもっているべきだったか。


 いや。ソーマに笑われることを思い出せ。

 一日で帰宅するなど言語道断。帰るなら寝る時、ご飯の時、お風呂の時!


 まぁそれに、どうせ身分証明書としてのギルド登録証が欲しいわけだ。

 依頼は別にこなさなくてもいい。もしやるとしても草むしりなら楽でいい。……もしや天職では?


「それとですね――」

「チッ、そこで死んどけ!」


 ウキウキとしながら私に説明をするブラムウェル――の声を阻んだのは、往来で大声を出していた男達。

 私の意識は一気にブラムウェルから、その男達に注がれた。


 見れば3名ほどの男が、道に倒れている人に対して罵詈雑言を浴びせている。

 横を通る人々はそのチンピラが恐ろしいのか、目すら合わせようとしない。足早に通り過ぎるばかりだ。


「足引っ張りやがって! お前のせいで、今回の依頼が未完了で終わったじゃねぇか!」

「うぐっ」


 どっ、と重く肉を蹴る音がする。

 間違いなく男は、その横たわっていた人間を思い切り蹴り上げていた。

 やはり民衆は見て見ぬ振りで、むしろすぐさまその場から離れようと更に急いでいる。


 魔法と剣の有る世界で、力を持つ人間は絶対だ。

 平凡である民は、こうして自分の身に火の粉がかからないように必死に生きている。

 だから彼等の対応は、間違っているとは言えない。


「……も、し……わけ……」


 倒れている者は、か細い声で謝罪の言葉を述べた。


 そんな弱々しい者がやられるのを、見て見ぬ振りをする――彼等の対応は、間違っていない。

 そう、力を持たぬものは、その対応で間違っていない。

 であれば力を持つものは?


「チッ、安モンだけあって、使えねぇな」

「クソが」

「混ざりものだから抱く気にもなれねぇしよ」

「おい」

「あ?」


 ――力を持つものは、見て見ぬ振りをしていいわけではない。

 少なくとも私はそうしない。


 彼等のもとに近づいて声をかけた。状況を理解するためにも、そばに寄ったほうが手っ取り早い。


 足元に転がっているのは浅黒い肌をした者だった。

 きっと手入れをきちんと行えば美しく輝くであろう金色の髪。だというのに、汚れて灰色にも見える。

 薄っすらと開けられた瞳は、生気を失った紫色をしていた。これに光が宿れば、どれだけ美しく輝くことか。


 少女というべきか、女というべきか。ちょうど学生くらいの、成長途中の背丈のものだ。

 薄汚れたぼろきれ――服とも言う――から覗く腕は非常に細く、同年代の子供たちと比べても発達が遅い。

 おそらく見た目の年齢よりも歳は高いだろうが、栄養が足りずに成長が乏しいように見えた。


「何をしている」

「はぁ?」

「何って……」

「別にいいだろ。こいつは俺等の奴隷なんだから」


 奴隷、奴隷か。そうだよな、ここは異世界だ。そういうシステムも存在するはずだ。

 いや、現世でも過去には存在していたが――あまりにも遠い存在で忘れていた。

 忘れるべき歴史ではないはずなのに。


 馴染みの薄い存在が、今こうして目の前にいる。

 そんな私の横に、ブラムウェルが追いついて、顔を出した。


「彼等のいうことは間違いではありません。あの奴隷には首に契約紋があります」


 おそらく上級魔法でしょう、というブラムウェルの話を横に、私は少女の首を見た。

 確かに紋が見える。

 魔法の印は隠せるものだが、奴隷だからあえて見せつけるようにしているのだろう。

 これがある意味で、奴隷達の身分証明書とも言えるのだ。


 この世界では特段、変わりのない文化。普通とも言える。それだというのにふつふつと怒りが沸き起こっている。


「……都合よく助ける自分にも、な」

「リサ様?」

「なんでもない」

「――なぁ、オネーサンさぁ!」


 チンピラは下卑た笑みを貼り付けながら、私に話しかけて来た。

 今は虫の居所が悪いんだ。下手に話しかけられては、殺しかねない。

 明らかに不機嫌を纏って顔を上げると、息の臭そうな下衆は口を開く。


「そんなに欲しいならやるよ」

「俺達はオネーサンのほうと契約したいかも~」

「というか、オネーサンに契約魔法が解けるかな? ぎゃははは」

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