ギルドへ。
それから幾つかの魔法を披露し、その都度ブラムウェルからの丁寧なレビューを貰った。
ブラムウェルは納得したのか、それ以上は追求することはなかった。
となれば本来の目的である、身分証明書――ギルド登録証を作りに行く。
『じゃあな、嬢ちゃん。また呼んでくれ。次は仕事をさせてくれよ』
「考えておく。付き合ってくれてありがとう」
『俺の方こそ、休憩時間をくれて助かったぜ』
地獄の番人を地獄に送り返し、私はブラムウェルと一緒にギルドへ向かうことにした。
「冒険者ギルドってどんな感じ?」
「そうですね……」
個人的な偏見も混じりますが、とブラムウェルは言ってから説明を続けた。
冒険者ギルドとは、様々な貴族や団体の歴史を考慮すると、若造にあたる新しい組織だという。
その浅い歴史から軽視されることも多く、場合によっては冷遇されることもあるらしい。
しかしそれは古い文化や、長い歴史を持つ凝り固まった貴族達ばかりだそうだ。
現在の冒険者ギルドは上質な人材が揃っており、貴族でも支払いが苦しいと言われるほどの熟練者が揃う。
稀にだが国がそんな手練を雇うという噂もあり、着実にギルドへの印象は変わっている。
「あぁ、それと、依頼のランクにはお気をつけください」
「ランク」
よくある話だ。冒険者にランクが設定されているかどうか、だろう。
前世で流行っていた物語では、そういうのをよく聞いた。
「ええ。冒険者ギルドが独自で定めた『危険度ランク』がありまして、実績に伴わない任務は受けられない場合が多いです」
「冒険者ランクじゃないんだ」
「ええ。人にはランクはありません。ですので、まずは低ランクの仕事から引き受けて、実績を作る必要があります。リサ様ほどの方に、草むしりなどさせるのは腹立たしいですが……」
なるほど。何事にも下積みを経て、経験値を稼がねばならぬというわけだ。
数百年ぐうたらしていたのだから、きちんと下っ端から働けよと言われているようだ。
こんなことならもう数百年ほど引きこもっているべきだったか。
いや。ソーマに笑われることを思い出せ。
一日で帰宅するなど言語道断。帰るなら寝る時、ご飯の時、お風呂の時!
まぁそれに、どうせ身分証明書としてのギルド登録証が欲しいわけだ。
依頼は別にこなさなくてもいい。もしやるとしても草むしりなら楽でいい。……もしや天職では?
「それとですね――」
「チッ、そこで死んどけ!」
ウキウキとしながら私に説明をするブラムウェル――の声を阻んだのは、往来で大声を出していた男達。
私の意識は一気にブラムウェルから、その男達に注がれた。
見れば3名ほどの男が、道に倒れている人に対して罵詈雑言を浴びせている。
横を通る人々はそのチンピラが恐ろしいのか、目すら合わせようとしない。足早に通り過ぎるばかりだ。
「足引っ張りやがって! お前のせいで、今回の依頼が未完了で終わったじゃねぇか!」
「うぐっ」
どっ、と重く肉を蹴る音がする。
間違いなく男は、その横たわっていた人間を思い切り蹴り上げていた。
やはり民衆は見て見ぬ振りで、むしろすぐさまその場から離れようと更に急いでいる。
魔法と剣の有る世界で、力を持つ人間は絶対だ。
平凡である民は、こうして自分の身に火の粉がかからないように必死に生きている。
だから彼等の対応は、間違っているとは言えない。
「……も、し……わけ……」
倒れている者は、か細い声で謝罪の言葉を述べた。
そんな弱々しい者がやられるのを、見て見ぬ振りをする――彼等の対応は、間違っていない。
そう、力を持たぬものは、その対応で間違っていない。
であれば力を持つものは?
「チッ、安モンだけあって、使えねぇな」
「クソが」
「混ざりものだから抱く気にもなれねぇしよ」
「おい」
「あ?」
――力を持つものは、見て見ぬ振りをしていいわけではない。
少なくとも私はそうしない。
彼等のもとに近づいて声をかけた。状況を理解するためにも、そばに寄ったほうが手っ取り早い。
足元に転がっているのは浅黒い肌をした者だった。
きっと手入れをきちんと行えば美しく輝くであろう金色の髪。だというのに、汚れて灰色にも見える。
薄っすらと開けられた瞳は、生気を失った紫色をしていた。これに光が宿れば、どれだけ美しく輝くことか。
少女というべきか、女というべきか。ちょうど学生くらいの、成長途中の背丈のものだ。
薄汚れたぼろきれ――服とも言う――から覗く腕は非常に細く、同年代の子供たちと比べても発達が遅い。
おそらく見た目の年齢よりも歳は高いだろうが、栄養が足りずに成長が乏しいように見えた。
「何をしている」
「はぁ?」
「何って……」
「別にいいだろ。こいつは俺等の奴隷なんだから」
奴隷、奴隷か。そうだよな、ここは異世界だ。そういうシステムも存在するはずだ。
いや、現世でも過去には存在していたが――あまりにも遠い存在で忘れていた。
忘れるべき歴史ではないはずなのに。
馴染みの薄い存在が、今こうして目の前にいる。
そんな私の横に、ブラムウェルが追いついて、顔を出した。
「彼等のいうことは間違いではありません。あの奴隷には首に契約紋があります」
おそらく上級魔法でしょう、というブラムウェルの話を横に、私は少女の首を見た。
確かに紋が見える。
魔法の印は隠せるものだが、奴隷だからあえて見せつけるようにしているのだろう。
これがある意味で、奴隷達の身分証明書とも言えるのだ。
この世界では特段、変わりのない文化。普通とも言える。それだというのにふつふつと怒りが沸き起こっている。
「……都合よく助ける自分にも、な」
「リサ様?」
「なんでもない」
「――なぁ、オネーサンさぁ!」
チンピラは下卑た笑みを貼り付けながら、私に話しかけて来た。
今は虫の居所が悪いんだ。下手に話しかけられては、殺しかねない。
明らかに不機嫌を纏って顔を上げると、息の臭そうな下衆は口を開く。
「そんなに欲しいならやるよ」
「俺達はオネーサンのほうと契約したいかも~」
「というか、オネーサンに契約魔法が解けるかな? ぎゃははは」




