実力を見せる。2
私はブラムウェルに連れられ、研究室へやって来た。
研究室と言っても、資料や素材が置いてあるような場所だけではなく、実際に戦闘系の魔法を試せる試験場もあるようだ。
ブラムウェルにとって、強い冒険者や騎士が集まるこのミ・ノヴィアの地は、宝の宝庫らしい。
だが私の魔法を撃ってくれ、と言われたら……研究室が全壊してしまう。
上位の攻撃魔法を頼まれたら、部屋の保護から始めないとな。
「何か見たいのはあるか? 伝説とか神域でも、あれば見せられる」
「……というかどれ程の魔法をご存知なのですか?」
「さあ。私も聞いてみて試したら出来るかもしれない。全ては把握してない」
「なんと……。ではまず、召喚系をお願いしたいです。ええと、上位悪魔などは?」
「出来る。――〈地獄の番人〉」
これは文字通り、上位悪魔である地獄の番人を呼び出す召喚魔法だ。
階級は『伝説魔法』にあたる。
番人は人を選び、命や魂を取ることがある。運良く成功しても、番人が付き従ってくれるとは限らない。
私の場合は――
『よーう、嬢ちゃん! 久しぶりだな!』
「久しぶり。300年くらい?」
『最近呼んでくれねぇから暇だったぜ。なんだ、誰かを殺したくなったか?』
「いや。試しに魔法を使っただけ」
――私の場合は、〝マブダチ〟である。
番人は死者や悪魔、魔族に詳しい。暇していた頃に召喚成功させたこともあり、いい話し相手になってもらった。
他にも召喚に成功した者たちもいるが、一番話を分かってくれそうなのは番人くらい。
突然の召喚で焼け野原にしたり、人を殺されてもたまらないし。
まだ現世に近い存在のほうが、常識があるのだ。
『俺レベルを試し打ちたぁ、やるねぇ……』
「もう帰ってもいい」
『もう少し居させてくれよ! たまの休みってやつだ』
「分かった」
「り、リサ様……」
おっと、ブラムウェルを忘れるところだった。
「彼は地獄の番人。友人でもある」
「地獄の番人と友人!?」
「他の悪魔はここで出すのは危ないから、彼にした」
「ホカノアクマ!?」
キャパオーバーのようだ。何を言ってもオウム返しになっている。
まだ準備運動の段階なんだけど、この調子で色々魔法を見続けられるのだろうか。
「……分かりました。で、では次は、攻撃魔法を」
「あ、待って」
――〈盾の女神の抱擁〉。
最高位の防御魔法をかければ、私が何をしようがこの研究室は壊れないだろう。
何を注文されても対処出来る。
『嬢ちゃん、えげつねぇな……』
「壊れたら困る。私はお金が無い」
「え? 今、何かされたのですか?」
『無知な人間風情に教えてやろう。こいつは今、この部屋全体に防御魔法を掛けた。しかも神の領域のものを』
「なっ……!」
ブラムウェルが言いたげな言葉が、手に取るように分かる。
『何故言ってくださらないのですか』だ。
別に見せてやるとは言ったが、逐一報告する義務もないだろうに。
「何故言ってくださらないのですか!?」
「ハイハイ、次から言う言う」
さてさて、攻撃魔法か。的となる何かはないし、それも生成するべきだろうか。
どうしようかと視線をうろつかせていると、召喚したばかりの番人と目が合う。
番人は私を見るなりニタリと笑ってみせた。良い予感はしない。
『俺が相手してやろう』
「そういうと思った」
『……とはいえ、耐えられる攻撃にしてくれよ?』
「はいはい」
「ま、まさか、地獄の番人とリサ様の戦闘が見られるなんて……」
ま、人間相手にするよりかは、安全で楽だ。
それに的が相手でも加減は必要だ。調整を失敗すると部屋ごと吹き飛びかねない。
今は防御魔法を張っているからそれはないとしても、魔法の効果をきちんと発動する前に、的が消滅することだってあり得る。
……と、なるとあまり強い魔法は使えないと見た。
通常の魔法を、少し特殊な使い方で見せてやるとしよう。
「じゃあ行くぞ」
『おう』
「〈聖なる雨〉・十重」
『はっ!?』
〈聖なる雨〉・十重が発動されると、大量の光属性の矢が番人に向けて放たれた。
雨とは言っているが、結局は雨のような矢を表している。
もはや雨というよりも機関銃に近く、十倍にもなった大量の矢は神聖という名前すら恥に思える豪快さ。
これは通常の〈聖なる雨〉を十倍にした〈聖なる雨〉だ。
魔法の重ねがけは、魔法研究の際に生み出した自己流。
書庫の書籍には記載がなかったため、空白の期間に人間が開発しなければ、ある種の私のオリジナル魔法とも言える。
そしてそもそも、通常の〈聖なる雨〉は上級魔法だ。
威力も十分に戦っていける強さだが、それを十倍にしてみたわけだ。番人なら耐えられるとは思うけど――。
そう思って見てみると、なんとか耐えているようだ。
上級魔法とはいえ十倍はやりすぎたか。
『……くっ』
「おっ、耐えた」
『なんだありゃ! 殺す気か!?』
「これくらいでは死なないと思った」
『一回地獄の門が開いたわ!』
三途の川が見えた、みたいな言葉だろうか。
とはいえ普通の人間だったら遺体すら残らないほどの豪雨だった。
私の凄さの少しくらいは披露できただろう。
「リサ様、今のは一体……」
「〈聖なる雨〉・十重。〈聖なる雨〉を十倍にしたものだ」
「……十倍!? 同じ魔法で重ねて使えるのですか!?」
そう。通常の魔法では、『同一の魔法使いからの同じ魔法』は効果は一度まで。
同名の魔法を何度も使用したい場合、その分人数を集める必要がある。
例えば防御魔法を何重にもしたい場合、複数の魔法使いにかけてもらわねばならないのだ。
まぁそもそも、人間程度の魔力で複数の魔法を何度も展開する、という状況はめったに無いだろう。
それこそ命の危機に陥ったり、もう死んだっていいという決死の覚悟があるときだけだ。
私が何故この『魔法の重ねがけ』を開発したかと言うと。
単純明快――楽だから。
いちいち別の効果の魔法をわざわざ発動するよりも、同じ効果のものを何度も一気に出せれば楽じゃないか。
そう思ったから、時間と研究を重ねたすえに、この魔法を開発した。
「こ、今度ぜひ教えてください」
「気が向いたらな~」
人間向きに改良しないと教えられないし、ね……。




