街に来た。
「……と、言うわけで。改めて、リサ・ソーヤマだ。禁忌の森に住んでいる魔女、となる」
「……なるほどな」
「魔女だなんてとんでもない。あなた様は女神です」
「ブラムウェル、黙っていてくれ」
アレックスが人の話を聞いてくれるようになったため、私はざっくりと説明をした。
本当に魔女の森から来たこと。
実際にあの森に住んでいる魔法使いであること。
ざっと1000年ほど生きていること。
面倒なので『日本に住んでいて、異世界転生にした』ということは黙っていた。
ただただあの森で住んで、生きて、魔法を研究し、長い時間を過ごした魔女とだけ。
「まずは、数々の非礼を詫びよう。今までの伝承や忌み嫌ってきた事も含めて」
「別に気にしない」
引きこもりたかったのは事実。
森一帯を破壊したのも事実。
他の悪い噂は置いといて、誰にも干渉されず、ぐうたら出来たのは有り難かった。
アレックスがあれだけ警戒していたのは、彼が騎士団の副団長であり、この街を守る騎士だからだそうだ。
何にも、『七つの盾の騎士団』に所属しているらしい。
『七つの盾の騎士団』はセブンウォール公爵家が代々運営している、由緒正しい騎士団だそうだ。
数百年前の古い文献にさえ載っている、名のある騎士様だったわけである。
残念ながら私の屋敷の書物には、記載されていなかった。1000年以上の歴史はないようだ。
彼はそんな騎士団の副団長であり、セブンウォール公爵家の長男様だった。
だから彼の責任感と、警戒心は必要なもの。
それに、滅多に森方面から人が来ないため、街や国の安全を考慮して仕方のない対応とも言える。
「さて……。証明書がないと言っていたな」
「……あ」
そうだった。それとこれとはまた別の話だ。
どうしよう、お金もない。街の守護騎士様に、国に突き出されたら終わってしまう。
公爵様の一言によっては、即帰還になってしまう。
せっかく和解のようなところまで持ってこれたのに、振り出しに戻るだなんて。
「今回は俺が処理をしておく、街に入ると良い」
「いいのか?」
そんなにあっさり解決するものなのか。
鑑定士だか知らないが、血を吐いた人がいるというのに。
目の前にいるのが、例の怪しい魔女だって言うのに。
タダより高いものはない――無職適性がありながらも、生きるために働いていた私ならわかる。
「中央に冒険者ギルドがあるから、冒険者登録をしてくれ。今後はそれを使うように」
「怪しいな、こうも簡単に通すとは」
「罰金代わりと言ってはなんだが、俺もしくは騎士団から依頼が行くだろう」
――やはり。
いや、むしろ安心した。遥か懐かしい日本とはルールの違うこの世界で、見返りも求めずに優しくされたら困ってしまう。
「勿論、私の魔法研究に関しても――」
「ブラムウェル~……?」
ブラムウェルさんはおもしろ男枠、なのだろうか。
私の魔法が気になるのは分かるが、そろそろ本気でアレックスが怒りそうだから落ち着いてほしいところだ。
それに魔法研究のお手伝いなら、別に難しくないだろうし協力したって良い。
お詫びも兼ねて。
だけど処理をしてくれるのは、アレックスだ。
まずはそちらの用件を聞くほうが先と言えるだろう。
「私で事足りる用件ならば、引き受けよう」
「感謝する。客室に移動しよう。尋問室で客人と話すべきではない」
あ、ここ尋問室だったのか。
今度通された部屋は、先程の尋問室とは打って変わって広々とした豪華な部屋。
私の住んでいる屋敷も十分広いが、あそこは黒基調で暗い雰囲気がある。
だから光の十分に入り込んだ明るい雰囲気のこの部屋は、なんとも新鮮なもの。
ふかふかのソファに腰掛けると、どこからかメイドがぞろぞろとやって来て、あれやこれやと茶と菓子を用意する。
一貫して無表情だが、その手慣れたもてなしはプロと言えるだろう。
サリアも腕は良いのだが、どうにもやかましすぎる。
「さて、リサ。まずここは、ミ・メイナという国の一部だ」
「ミ・メイナ? ミイナ王国の何かか?」
「……驚いた。それはミ・メイナの前身であり、1000年以上前の歴史だぞ」
おっと、早速壁にぶち当たった。
私の読んでいた書籍達は、過去の遺物だったらしい。
ある程度の世界常識は把握したつもりだったけど、そりゃあそうだ。だって屋敷にずっと引きこもっていたんだ。
本来ならばガーデニングとか、魔法研究している時間を旅行に当てるべきだったのだ。
時間配分を間違えすぎた。
「本当に1000歳を超えているんだな」
「……ぐっ……」
前世でもまだ年齢をネタにされたことなど無かったのに、まさかオバサンやオバアサンを通り越して化物になるだなんて……。
異世界転生してから初めての屈辱とも言える。
「話を戻そう。ここはミイナ王国であったミ・メイナという国だ。そしてここはその5大都市の一つ、ミ・ノヴィア」
――それから、アレックスは詳しく説明をしてくれた。
ミ・メイナは主に、5つの主要都市から成る。
『ミ・ニルヴァ』――首都ではあるものの、政治都市というもので人口は少ないらしい。
『ミ・ナリー』――ここは最も栄えている都市。
『ミ・ヌーダ』――漁業が盛んで、大きな港があるようだ。
『ミ・ネッダ』――学業が盛んな都市らしい。
そして私が今いるのが――『ミ・ノヴィア』だ。
ミ・ノヴィアは最も『魔女の森』に近く、危険視されている都市だ。
重要都市でありながらも、まるでラスボス前のダンジョンさながらの緊張感があるという――これは私の解釈だが。
話を聞くだけでも、私の知っているミイナ王国から随分と大きくなった印象を受けた。
大陸が勝手に増えるなんてことはないため、私の知らない期間に多くのいざこざがあった事だろう。
その辺も追々、勉強することとしよう。
「――そんなわけで、ミ・ノヴィアは多くの冒険者や、猛者が多く集う街だ」
「へえ」
「……危機感を持て」
危機感、危機感ねえ。
だって、所詮人間。定命の者だろう?
何に対しての危機感を覚えればいいのだろう。
ああ、もしかして『何かやっちゃいました?』系の事だろうか。
一応どの程度の魔法が危険や、有り得ない領域なのかは理解している。
……と言いつつも、治癒魔法で強めの魔法を使ってしまったな。
確かに気を付けないと。
「大丈夫。ある程度の常識はある。下手に強い魔法は使わない」
「いや、そうではない。整った顔の女性が一人でいれば危険だし、腕も立てばプライドも高い奴も多い。下手に動けば刺激しかねない」
つまりアレックスは喧嘩をしないようにしろ、と言いたいのか。
言われてみれば、完全な対人戦闘は未経験だ。
うちの魔力人間と戦ったことはあるが、結局は身内で。稽古や訓練の域を出ない。
最悪の事態を回避するためにも、互いに無意識的に加減をしていただろうから。
私が人間を殺しかねないと心配しているのだろう。
流石は『七つの盾の騎士団』だ。
「問題ない。人を殺さないように気をつける」
「……そういうんじゃ、ないんだが……」
「何?」
「……何でもない」




