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さすがに1000年は飽きたから。  作者: ボヌ無音
第一章 魔女、外に出る。

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街に行く。2

 私は衛兵に連れられ、狭い部屋に通された。

 テーブルがひとつと、椅子が一つ。完全に異世界版取調室だ。


「ここでお待ち下さい」

「ハイ……」


 あの衛兵が尋問……質問しないあたり、誰か別の人を呼んでくるに違いない。

 たいていこういうのは、慣れた人がやるわけで。

 私みたいなアマチュアは、簡単に情報を抜き取られてしまうのだろう。


 最悪の場合は魔法で誤魔化すことも考えた。

 だけど普段はそういう緊急事態で使うことは少なく、咄嗟の判断で魔法が出せる自信がない。

 ……あぁ、禁忌魔法に時間停止が可能なものがあったな。

 それを使ってからじっくり考えるのでもいいか。


 そんな事を考えていると、トントンと部屋の扉がノックされる。

 一気に心臓が早く鳴る。何百年ぶりだ、この緊張感。


「失礼する」

「失礼します」


 そう言って入ってきたのは――二人の男。


 一人は青い短髪に青い瞳の男。

 シルバーの鎧を纏っていて、紋章らしきものも見える。

 書庫で世界の貴族やら派閥に関しても読んだが、どれも紋章は細かく、一度読んだだけで記憶に残っていない。

 名前を聞けばピンとくるのだろうか。

 騎士なのか鎧の上からでもわかる体格の良さ。うちにいる魔力人間にも騎士はいるが、彼ほどの筋肉はない。


 もう一人は学者のような男だ。

 長い緑色の髪の毛を一つで結んでおり、丸眼鏡に、黒目。

 騎士風の男とは違って体躯は比較的中肉中背であり、前に出て戦うよりも、本を読みペンを取るタイプに見える。


 異世界補正なのか二人とも顔はいい方だ。この世界の基準を知らないが、元の世界を考えるとイケメンの部類だろう。


「俺はアレックス・セブンウォール」

「私はブラムウェル・レイナーと申します」


 騎士の男がアレックスと名乗り、学者のような男はブラムウェルと名乗った。

 しかし残念だが〝セブンウォールの姓〟も〝レイナーの姓〟も、記憶にはない。


「私はリサ・ソーヤマだ」

「リサか。単刀直入に聞くが、衛兵の話では森の方面から来たらしいじゃないか。魔女の森から来たのか?」


 ――来た。

 アレックスの初対面の印象から、まどろっこしいことは嫌いそうだとは思っていた。

 まさかここまではっきり聞いてくるとは。


 さて、ここで私はどう出るか。

 もちろん、ここは素直に吐き出す。先程、真実を言うかやめようとしたのに、何故かって?

 後々誤魔化すのが面倒だから。

 私は非常に飽き性で、怠け者で、面倒なことは何としてでも回避したい。

 嘘をつき、相手を騙すというのは、頭を使うことだ。

 自分が何を言って、どういう設定でここに立っているのかを常に理解しなければならない。

 非常にめんどくさいのだ。


 それに私は、非常事態が巻き怒った際に何とか出来る力を持っている。

 彼等の記憶を消してもいいし、証明書を偽造してもいいし、なんなら街ごと消したっていい。……最後はしないつもりだが。


 だから私ははっきりと、正直に言う。


「私がその魔女だ」

「はあ? こっちは真面目に聞いてるんだぞ」


 こっちだって真面目通り越して、馬鹿正直に答えている。

 一つ間違えれば処刑沙汰なのに、『はい、私が犯人です』と自供しているも同然。


 ……まぁ、衛兵の言っていた逸話を聞けば、そんなことあり得ないと思うのかも知れない。


「調べてくれても構わない」

「……。もとよりそのつもりだ。規定だしな。――ブラムウェル」

「はい」


 何をするつもりなのだろうか。

 先程まで黙っていたブラムウェルが動いた。ブラムウェルは私の頭に手をかざす。


 何かを流し込むつもりなのか、はたまた思考でも読むつもりなのか。

 私の知る限りでは思考を読み取る魔法は、非常に高度な領域にあたる。

 文献では『人間が到達できるレベルギリギリのものは、微量な感情を判別するのみ』とされている。

 本当に考えていることをそのまま読むには、人ではなし得ない領域に踏み込む必要があるのだ。


 見た感じ、ブラムウェルは普通の人間。

 強力な魔力や、多くの魔力量を有しているようにも見えない。

 ではこの手は何を示しているのだろう。


「――ぐっ!? ゲホッ、ゴホッ!」

「ブラムウェル!? くそ、何をした!」


 色々と考えていると、ブラムウェルがいきなり膝をついて倒れた。

 そしてあろうことか口から血を吐き出している。

 いや、私は何もしていないが。


 当たり前だが仲間――恐らく――であるブラムウェルをかばい、アレックスは私に対して敵意を向けている。


「……こちらが聞きたい……。その人間は私に何をした」

「……ブラムウェルのスキルは〝鑑定〟だ」


 スキル。スキル、読んだことがある。

 魔法とは別で、特殊な能力のことだ。

 あいにく私にはそんな特殊能力はなく、関係ないからとあまり深く読み込まなかった。


 鑑定という名前からして、何かの情報を読み取っていたのだろう。

 確かに、私の中には1000年の情報が入っているわけで、この一瞬でそれを取り込んだとなると吐血沙汰になるのも頷ける。

 つまり私のせい、というわけだ。


「アレ……ス、大丈夫、です……私は……」

「喋るな! 今、治癒師を――」

「――〈英雄の癒やし(ヴァローズ・ヒール)〉」


 私のせいというならば、私が責任を持って治すべきだろう。

 こんな性格の女だが、人を見殺しにするほど愚かじゃない。


 〈英雄の癒やし(ヴァローズ・ヒール)〉をブラムウェルにかけると、一瞬にして体調が改善される。

 明らかに青白くなっていた顔色も、元の健康的な色に戻っていった。


「こ、これは……」

「治療した。私が悪かったようだから」

「……やはり、お前……」

「アレックス。少し黙ってください」

「ブラムウェル?」


 アレックスが鬼の形相で私を睨んでいたとき、ブラムウェルが起き上がってはっきりとそう言った。

 あろうことかブラムウェルは、アレックスを押しのけて私に近づく。

 アレックスは何とかして遠ざけようとしているが、ブラムウェルは意外にも力が強いようで。


「す、素晴らしい! 君は完成された魔力、魔法使いです! 血を吐き、死の淵を見たあの瞬間が褒美にも思えるほどです!」

「ブラムウェル?」

「一瞬であろうとも、あの頂きを見れた……、あぁ何と美しく甘美な……」

「おい、本当にお前は何をしたんだ」


 すまない。その部分に関しては、ノータッチだ。

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