聞き込み。2
「どうした」
「探してるの?」
「何を」
「……あの、んと……」
子供は口での説明はせず、ジェスチャーのみで説明しようとしている。
その行動に、どうにも怪しさを覚えた。
年齢的に、10歳にも満たない子供だろう。
だがそこまでの年齢ともなれば、ある程度の会話が可能なはず。
教育を受けておらずとも、彼女の少ない知識のなかで説明ができるはずだ。
だがどうだろう。少女は、一言も説明となり得る言葉を発していない。
故に私はそのジェスチャーを、じっくりと観察する。
両方の肩の上で何かをつかみ、それを頭上にまで引っ張っている。
何かを――フードを被るような動作だ。
何度かそれを繰り返し、分かってくれと言わんばかりに瞳で訴える。
「……言えないのか」
少女は頷かなかった。
涙が溢れそうな大きな瞳が、ただじっと見ているだけだ。
……それで十分だ。
それから、私に通じたと分かった少女は、幾つかジェスチャーを見せてくれた。
苦しそうにする姿。首を切るような動作。
まるで寸劇が始まったようだった。
演技経験のない少女が、ここまでリアルな芝居をしている。
――いや、芝居ではなく、実際に見てきた光景を説明しているだけ、か。
ここまで来てようやっと分かった。
言葉に呪いがかかっている。発動条件は――
「男に関連することを言うと、死ぬ呪いだな」
またも少女は、頷かなかった。
真っ直ぐな瞳が助けを求めている、それが答えだ。
「分かった。いることだけ分かるならば、それでいい」
私は少女の前に、手を差し出した。
「手を」
少女は一切の警戒心を抱かず、その上に小さな手を乗せてくる。
……少しは考えるべきだな。呪われた原因が、少しわかったような気もする。
さて、乗せてもらえれば、あとは中を覗き見るあれだ。
……確かに呪いが染み付いている。
呪力が魔力に混ざり込んでいるようだ。臓器にまとわりついている。
確実に殺すための術式だろう。
生憎呪いには明るくないため、この魔法も知らない。
だが、そうだな――面白そうだ。
「これは貰ってもいいか」
「?」
「そうだな、意味がわからないよな」
だが貰ってしまおう。
呪いを奪い取ると、体の中に異質な空気が流れ込む。本来あるべきではない、異物だ。
ぶるりと震えを覚えた。気味の悪い寒気だ。
呪われているという確信を、私に抱かせてくれる。
「……よし。これで大丈夫だ。お前にかかっていた呪いは、私が引き継いだ」
「え……!?」
「だが念の為、全てが解決するまで黙っていろ。今まで通り、話題に出すな」
子供は首がちぎれんばかりに、頭を縦に振った。
何度も何度も頭を下げ、体全体で感謝を表している。
幾度もの礼を経て、彼女はスラムの街へとまた戻って行った。
「せ、先生、呪いを引き継いだって……!」
「ああ。見たことのない術だったからな、勉強も兼ねて」
「そうじゃなくって……!!」
「では何だ?」
まったく、よく分からん弟子だ。何を心配しているのか。
そもそも私は魔法はそれなりに得意だが、呪いは専門外。
魔法と似ているが、その邪悪さは果てしない。
どれ、試してみるか。
「禁忌魔法の使い手の、黒いフード男を探して、い、ル゛ッ」
言葉を発した瞬間、口から血が出た。
否、中身か弾けたのだ。その反動で血反吐が出た。
心臓が、肺がぎゅうぎゅうと痛い。攻撃魔法で肉体を切られ、焼かれ、千切られるような痛みとは違う。
内部の痛みだ。毒薬に近いのだろうか。
それだけじゃない。身体中が痛む。
節々も、骨も、肉も皮も、何もかもが痛い。
死の痛みとはこんなものだろうか。
「あだだだだっ、しぬっ、しぬしぬっ、イデデデ!!!」
「何しているんですか!?」
「呪い゛……、の、効果を、う、あぁあぁっ、確かめる……」
「本当に何しているんですか!?」
しばらくのたうち回った末に、私の回復力が上回り始めた。
呪力の効果が切れたのだろう。
じわじわと回復が広がり、潰れた内部も、折れたような手足の感覚も消え去っていく。
「……げほっ、ふう……。どうやら呪いよりも、私の方が強かったようだ。持続性も短く、つまらないな」
「……はあ……頭が痛いです……」
「どうした? 寝不足か?」
「…………」
なんだ、凄く睨んできて。怖いぞ。うら若い乙女がする顔じゃない。
テナは今日は表情が豊かで良いな。うむ。
私はふぅと息を整え、また再び口を開く。
「禁忌魔法の使い手の、黒いフード男を探してる」
「ちょ、ちょっと!」
「……ふむ、発動しないな」
「あれ?」
つまり、呪いの効果は一度きりということ。
つまらない、詰めが甘いな。
いや、むしろ――
「――何か、条件が? 一度きりなのか、一度死ねば終わるのか。相手の耐性や、蘇生を考慮されていないのか? 或いは私へ効果が移ったことで、効力が薄れている? そもそも持続時間も決まっているかもしれない。ふむ……」
「先生、釘を刺すようですが人間は基本的に一度しか死にません」
「おお」
目からウロコとはこういうことか。
いや、違うか。テナには死に慣れるなと言っておきながら、私は死なないことに慣れている。
人間はもろく死にやすいことを、思い出した。
「確かに言われてみればそうだ。今の痛みの箇所と持続時間を考慮すれば、人が死に至るには十二分だな」
「この前の貴族みたいに、呪いを返せば良かったのでは……」
「あれは知っている呪いだったからな。それにこの効果を返してしまえば、色々と尋ねる前に死んでしまうだろう」
まあ、死者の蘇生なんぞ容易いのだが――それ以前の問題がある。
倫理という問題もあるが――
「――スラムで死者を探すのは骨が折れる」
「それもそうでした……」
「しかし、これで追うことが出来るはずだ」
私の体には呪いの〝匂い〟が残っている。
あとは精霊の犬を呼びつけて、匂いから探してもらえばいいだけだ。
さて、魔法を使おうか――そう思った時だった。
ガタンッ、と激しい物音がする。道の隅に置かれていた荷物がガタガタと崩れ落ち、道端に広がった。
何事かとそちらを見遣れば、物陰には何者かが立っている。
フードを被った、青年が立っていたのだ。
「な、なんで生きて……」
私と青年の視線がかち合った。
互いに一瞬で顔色を変え、青年は一目散に走り出した。
――まずい、このまま逃走を許す訳にはいかない。
「待て!」




