聞き込み。1
「では話を聞こう」
ウィッシュの3人は、私達の使っていたテーブルについた。
まずは受けている依頼の確認だ。どんな依頼であってもこなせる自信はあるが、自信と状況把握はまた別である。
私が教えてくれと尋ねても、ウィッシュは口を閉じたままだ。
真ん中に座る少女が、ぶすくれている状態。
おおかた普段はこういった交渉や説明を、彼女が担っているのだろう。
だから両隣の仲間は黙ったままなのだ。
仲間の状態を思い出し、活発な少女が代わりに口を開いた。
「……オッケー! 知ってると思うけど、あたしらはウィッシュって言うの。今のツンツンっ子がジュリアナ・コーミー、あたしはアンナ・ドーン。で、ウサギみたいなのがクララ・ピペット」
「私はリサ・ソーヤマ。こっちが、養子兼弟子だ」
「テナ・ソーヤマです」
改めて紹介を受けた。
出会いこそは悪かったが、同期でもある。
ジュリアナとクララはあの試験で会話していたが、アンナとは初めてだろう。
にこにことした太陽のような表情。人目で活発な少女だと分かる。
その割には試験において、狩人顔負けの腕前だった。
太陽に負けず劣らずの赤い髪、ヘーゼルの瞳。チャームポイントとも言えるそばかす。
ジュリアナとはまた違う部類の、美少女だろう。
ウィッシュは幼馴染で構成されたチームらしい。
明確にリーダーを作っておらず、普段は頭の切れるジュリアナを中心に話を進めているようだ。
「今は人探しの依頼中で、この店には聞き込みに来たんだ」
「人探し……」
妙な話だ。
人が行方不明になるのは、こうも多発するものなのだろうか。
もちろん、元いた世界も年間で万単位の行方不明者がいる。
そんな世界と治安も法律も、人間も能力も違う場所だからといって、こんな短いスパンで起こるものなのだろうか。
何故か沸き起こるこの違和感は、何なのだろう。
「テナ。人探しの依頼は多いものなのか」
「どうでしょう……。あまり他チームとは関わりませんでしたから。ですが、スラムなど治安の悪い場所では、人身売買も横行していると聞きます」
「ふむ……」
スラムに人身売買。発生件数が増える理由になり得る。
調査するべきはスラム街だな。
木を隠すなら森の中。犯罪を隠すならスラム街。そんなところだろう。
しかし、人身売買と聞いた瞬間、少女達の顔がみるみるうちに曇っていく。
冒険者になりたての少女にとっては、まだ恐ろしいものだろう。ここを調査させるのは、少しばかり可哀想だ。
腕は悪くないが、初心者に任せるべきではないだろう。
……いや、冒険者歴で言えば私も初心者にあたるのだがな。
「では我々で、危険地帯の調査に行こう」
「……助かるよ」
それから私とテナは、店主に貰ったまかないを食べた。
テナも普通の食事が可能なまでに回復していたようで、量こそ少ないものの、同じような食事を完食していた。
その後、ギルドへ仕事の完了報告をすませる。
同時に、ウィッシュへの合流をすると。
報告を終えれば、向かうはスラム街だ。
「テナ。ここからは無理はするな。適宜、学者を呼べ。学者とは言うが、この世界の生き物程度であれば相手も容易い」
我々は今、スラム街にいる。
いくらテナが冒険者として私よりも先輩だとはいえ、前のチームでの受けた傷などは完治していない。
治安の悪いスラムで襲われたのなら、ひとたまりもないだろう。
それに連続する行方不明者に、違和感が残ったままだ。これから、悪いことが起きそうな、そんな違和感。
「もしかすると、先の貴族の件と関わりがあるかもしれない」
「黒フードの人物ですか」
静かに頷いた。
ウィッシュが引き受けた依頼は、平民からのものだ。身分が明らかに違う分、全く同じ事件とは限らない。
ギルドも、ただの行方不明として扱っている。
ただの迷子ならばそれでいいのだが。
そんな不安を抱えながら歩くスラムは、より一層不気味だ。
元より、ここに住む者たちは余所者を好んでいない。
私達の身なりは整えられているし、いい餌として観察されてもいる。
向けられる視線は、心地よいものではなかった。
「しかし……依頼者から私物を借りられれば、一番良かったんだがな……」
あの犬は便利なんだ。匂いがあれば案内してくれて、この仕事も直ぐに終わったというのに。
「こういうときは、古くからのやり方に則るのが一番いいですよ」
テナはそういうと、近くにいたホームレスへと歩み寄った。
聞き込みというのは初歩的かつ、効果的なものだ。
仕方ない。今回は先輩に倣って、聞き込みをしようか。
「すみません」
「聞きたいことがある」
そうして、1人2人と話を聞いてみる。
声を掛けた時点で嫌な顔をされ、逃げられる。
「知らねえな」の一点張りで、きちんと会話しようともしない。
そんな人間ばかりだった。
情報と言えるものは仕入れられず、状況が進展することもなかった。
そもそも彼らはスラムより外の人間を、信用していない。
上等な服を着ている者たちに、タダで明け渡すとも考えられない。
それから、私とテナは根気強く2時間ほど聞き込みした。
結果は同じだった。
「手がかりは得られませんね……」
テナが申し訳なさそうにしている。
自分から提案していたから、という事もあるのだろう。
とはいえ私も悪くない案だとは思った。
魔法に頼りきりの人生で、会話で欲しいものを得るのは新鮮だから。
「……ふむ」
ふと、一つの考えが過ぎる。
今までは失踪した者を探していたが、別視点から考えてみてはどうか、と。
そう、当初考えていた〝貴族とこの失踪も、同じ事件〟ということ。
同じ事件であれば、背後にあの黒フードがいるはずだ。
――思い立ったが吉日。
私はすぐさま、足早に近くにいたホームレスを捕まえた。
「黒いフードの男を知っているか?」
ビクリ、と体が震えた。明らかに今までとは反応が違う。
本能からか、隠そうとしていても恐怖がそれを上回っているようだ。
ホームレス達は力のない者も多いはず。
あれだけの強大な魔法陣を知る魔法使いと対峙すれば、恐れてしまうのも頷ける。
そしてこの反応からして、当たりだ。
黒フードの男は、スラム街と何かしらの関係を持っている。
「……知るかよ」
「どこで見た?」
「知らねぇって言ってんだろ!」
「そうか。ではあの男がこれ以上人を殺しても、構わないと言うのだな」
――薄汚れた顔ですら、顔面蒼白になれば分かるのだな。
顔色が明らかに変わった男を見て、私はそう思った。
もう答えが出ているようなものだが、男は断固として口を開こうとしない。
何か、弱みでも握られているのか。
言ってはいけないような、大きな事情があるのか。
私はポンポン、とホームレスの肩を叩いてその場を離れた。
「先生、これって……」
「ああ。スラムならば騎士団も目をつけない。隠れるならばうってつけだ」
行方不明者に関しての、情報収集のしにくさ。
あからさまなフード男への恐怖。
物事を隠すには、あまりにもお粗末だ。絶対に見つからないと、確信しているのか。
それとも何も考えていない、自信家で、井の中の蛙なのか。
もしくは――
「相手が悪かっただけ、か」
「先生? どうかしました?」
「いや、気にするな」
私がはぐらかすと、テナはムッとした。
疑ってるなあ。何もするつもりはないんだが。
ソーマは一体、どんな教育をしているんだか……。
テナの視線から逃れようと目を背ければ、その先には1人の少女が立っていた。
私と目が合うなり顔を輝かせ、パタパタと近付いてきた。
「おばさん!」
「なっ、先生がおばさんですって!?」
「落ち着け、テナ。それは私の台詞だ」
おばさんどころかおばあさんすら通り越して、化け物の領域に入っている。
だから怒る理由にはならない。事実だからな。
むしろおばさんなんて、若く見られているようなものだ。
まあ、見た目から言えばまだ『お姉さん』くらいだと思っていたのだが、幼い子供にはおばさんに見えてしまうだろう。
私が子供だった時も、20代30代はオバサン扱いだったからな。
そんな話はどうでもいいんだ。せっかく向こうから声を掛けてくれたのだから、聞き込みをしよう。
「どうした」
「探してるの?」
「何を」
「……あの、んと……」
子供は要領を得ない。必死に手足でジェスチャーをしてみているが、言葉で説明がない。
……なんだ、これは。




