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さすがに1000年は飽きたから。~引きこもりを謳歌した最強魔女は、外に出てみることにした~  作者: ボヌ無音
第三章 魔女、禁忌と呪い。

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聞き込み。1

「では話を聞こう」


 ウィッシュの3人は、私達の使っていたテーブルについた。

 まずは受けている依頼の確認だ。どんな依頼であってもこなせる自信はあるが、自信と状況把握はまた別である。


 私が教えてくれと尋ねても、ウィッシュは口を閉じたままだ。

 真ん中に座る少女が、ぶすくれている状態。

 おおかた普段はこういった交渉や説明を、彼女が担っているのだろう。

 だから両隣の仲間は黙ったままなのだ。


 仲間の状態を思い出し、活発な少女が代わりに口を開いた。


「……オッケー! 知ってると思うけど、あたしらはウィッシュって言うの。今のツンツンっ子がジュリアナ・コーミー、あたしはアンナ・ドーン。で、ウサギみたいなのがクララ・ピペット」

「私はリサ・ソーヤマ。こっちが、養子兼弟子だ」

「テナ・ソーヤマです」


 改めて紹介を受けた。

 出会いこそは悪かったが、同期でもある。

 ジュリアナとクララはあの試験で会話していたが、アンナとは初めてだろう。


 にこにことした太陽のような表情。人目で活発な少女だと分かる。

 その割には試験において、狩人顔負けの腕前だった。

 太陽に負けず劣らずの赤い髪、ヘーゼルの瞳。チャームポイントとも言えるそばかす。

 ジュリアナとはまた違う部類の、美少女だろう。


 ウィッシュは幼馴染で構成されたチームらしい。

 明確にリーダーを作っておらず、普段は頭の切れるジュリアナを中心に話を進めているようだ。


「今は人探しの依頼中で、この店には聞き込みに来たんだ」

「人探し……」


 妙な話だ。

 人が行方不明になるのは、こうも多発するものなのだろうか。

 もちろん、元いた世界も年間で万単位の行方不明者がいる。

 そんな世界と治安も法律も、人間も能力も違う場所だからといって、こんな短いスパンで起こるものなのだろうか。

 何故か沸き起こるこの違和感は、何なのだろう。


「テナ。人探しの依頼は多いものなのか」

「どうでしょう……。あまり他チームとは関わりませんでしたから。ですが、スラムなど治安の悪い場所では、人身売買も横行していると聞きます」

「ふむ……」


 スラムに人身売買。発生件数が増える理由になり得る。

 調査するべきはスラム街だな。

 木を隠すなら森の中。犯罪を隠すならスラム街。そんなところだろう。


 しかし、人身売買と聞いた瞬間、少女達の顔がみるみるうちに曇っていく。

 冒険者になりたての少女にとっては、まだ恐ろしいものだろう。ここを調査させるのは、少しばかり可哀想だ。

 腕は悪くないが、初心者に任せるべきではないだろう。

 ……いや、冒険者歴で言えば私も初心者にあたるのだがな。


「では我々で、危険地帯の調査に行こう」

「……助かるよ」




 それから私とテナは、店主に貰ったまかないを食べた。

 テナも普通の食事が可能なまでに回復していたようで、量こそ少ないものの、同じような食事を完食していた。


 その後、ギルドへ仕事の完了報告をすませる。

 同時に、ウィッシュへの合流をすると。

 報告を終えれば、向かうはスラム街だ。





「テナ。ここからは無理はするな。適宜、学者を呼べ。学者とは言うが、この世界の生き物程度であれば相手も容易い」


 我々は今、スラム街にいる。

 いくらテナが冒険者として私よりも先輩だとはいえ、前のチームでの受けた傷などは完治していない。

 治安の悪いスラムで襲われたのなら、ひとたまりもないだろう。

 それに連続する行方不明者に、違和感が残ったままだ。これから、悪いことが起きそうな、そんな違和感。


「もしかすると、先の貴族の件と関わりがあるかもしれない」

「黒フードの人物ですか」


 静かに頷いた。

 ウィッシュが引き受けた依頼は、平民からのものだ。身分が明らかに違う分、全く同じ事件とは限らない。

 ギルドも、ただの行方不明として扱っている。

 ただの迷子ならばそれでいいのだが。


 そんな不安を抱えながら歩くスラムは、より一層不気味だ。

 元より、ここに住む者たちは余所者を好んでいない。

 私達の身なりは整えられているし、いい餌として観察されてもいる。

 向けられる視線は、心地よいものではなかった。


「しかし……依頼者から私物を借りられれば、一番良かったんだがな……」


 あの犬は便利なんだ。匂いがあれば案内してくれて、この仕事も直ぐに終わったというのに。


「こういうときは、古くからのやり方に則るのが一番いいですよ」


 テナはそういうと、近くにいたホームレスへと歩み寄った。

 聞き込みというのは初歩的かつ、効果的なものだ。

 仕方ない。今回は先輩(テナ)に倣って、聞き込みをしようか。


「すみません」

「聞きたいことがある」


 そうして、1人2人と話を聞いてみる。

 声を掛けた時点で嫌な顔をされ、逃げられる。

 「知らねえな」の一点張りで、きちんと会話しようともしない。

 そんな人間ばかりだった。

 情報と言えるものは仕入れられず、状況が進展することもなかった。


 そもそも彼らはスラムより外の人間を、信用していない。

 上等な服を着ている者たちに、タダで明け渡すとも考えられない。


 それから、私とテナは根気強く2時間ほど聞き込みした。

 結果は同じだった。



「手がかりは得られませんね……」


 テナが申し訳なさそうにしている。

 自分から提案していたから、という事もあるのだろう。

 とはいえ私も悪くない案だとは思った。

 魔法に頼りきりの人生で、会話で欲しいものを得るのは新鮮だから。


「……ふむ」


 ふと、一つの考えが過ぎる。

 今までは失踪した者を探していたが、別視点から考えてみてはどうか、と。


 そう、当初考えていた〝貴族とこの失踪も、同じ事件〟ということ。

 同じ事件であれば、背後にあの黒フードがいるはずだ。

 ――思い立ったが吉日。

 私はすぐさま、足早に近くにいたホームレスを捕まえた。


「黒いフードの男を知っているか?」


 ビクリ、と体が震えた。明らかに今までとは反応が違う。

 本能からか、隠そうとしていても恐怖がそれを上回っているようだ。

 ホームレス達は力のない者も多いはず。

 あれだけの強大な魔法陣を知る魔法使いと対峙すれば、恐れてしまうのも頷ける。


 そしてこの反応からして、当たりだ。

 黒フードの男は、スラム街と何かしらの関係を持っている。


「……知るかよ」

「どこで見た?」

「知らねぇって言ってんだろ!」

「そうか。ではあの男がこれ以上人を殺しても、構わないと言うのだな」


 ――薄汚れた顔ですら、顔面蒼白になれば分かるのだな。

 顔色が明らかに変わった男を見て、私はそう思った。

 もう答えが出ているようなものだが、男は断固として口を開こうとしない。

 何か、弱みでも握られているのか。

 言ってはいけないような、大きな事情があるのか。


 私はポンポン、とホームレスの肩を叩いてその場を離れた。


「先生、これって……」

「ああ。スラムならば騎士団も目をつけない。隠れるならばうってつけだ」


 行方不明者に関しての、情報収集のしにくさ。

 あからさまなフード男への恐怖。

 物事を隠すには、あまりにもお粗末だ。絶対に見つからないと、確信しているのか。

 それとも何も考えていない、自信家で、井の中の蛙なのか。

 もしくは――


「相手が悪かっただけ、か」

「先生? どうかしました?」

「いや、気にするな」


 私がはぐらかすと、テナはムッとした。

 疑ってるなあ。何もするつもりはないんだが。

 ソーマは一体、どんな教育をしているんだか……。


 テナの視線から逃れようと目を背ければ、その先には1人の少女が立っていた。

 私と目が合うなり顔を輝かせ、パタパタと近付いてきた。


「おばさん!」

「なっ、先生がおばさんですって!?」

「落ち着け、テナ。それは私の台詞だ」


 おばさんどころかおばあさんすら通り越して、化け物の領域に入っている。

 だから怒る理由にはならない。事実だからな。

 むしろおばさんなんて、若く見られているようなものだ。


 まあ、見た目から言えばまだ『お姉さん』くらいだと思っていたのだが、幼い子供にはおばさんに見えてしまうだろう。

 私が子供だった時も、20代30代はオバサン扱いだったからな。


 そんな話はどうでもいいんだ。せっかく向こうから声を掛けてくれたのだから、聞き込みをしよう。


「どうした」

「探してるの?」

「何を」

「……あの、んと……」


 子供は要領を得ない。必死に手足でジェスチャーをしてみているが、言葉で説明がない。

 ……なんだ、これは。

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