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さすがに1000年は飽きたから。~引きこもりを謳歌した最強魔女は、外に出てみることにした~  作者: ボヌ無音
第三章 魔女、禁忌と呪い。

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希望と再会。

 大貴族の一件から、数日。

 あれから、騎士団経由の依頼はゼロだ。平和だということだろう、いいことだ。

 代わりに、私は他の冒険者と変わらず、地道に業務実績を積み重ねていた。

 つまり下っ端の冒険者が行うような、雑務を任されている。


 テナを連れて、街のとある喫茶店にやってきていた。

 今回の依頼は、庭園の手入れ。一言で言えば草むしりである。

 とはいえ草むしりなんぞ、引きこもっていた1000年で魔法を習得しているせいか、10分足らずで完了してしまった。

 今はその報告をしに、店主を探している最中だ。


「おぉ、店主」


 ちょうど店主を発見した。客につかまっている様子もなく、声をかけてもいいタイミングだろう。


「冒険者ちゃん! 調子はどう? 日も出てくるから、きちんと休んでね」

「終わったぞ」

「終わった!?」


 店主は庭と私を交互に見ている。まぁ10分で終わる量ではないのは当然か。


 庭園というだけあって、この喫茶店の庭は非常に広かった。

 庭は店主の趣味も含んでいるが、広々と、手入れされた庭はピクニックにも適している。

 寧ろそれを狙っているらしく、メニューにはピクニックセットもあるようだった。


 そんなわけで庭というよりかは公園のような広さを持っており、10分程度で草むしりが終わる広さではないのである。


「……疑いたくはないんだけど、一応確認するね?」

「ああ」

「待ってる間、お店の中で休んでいて。注文はこっちで奢るよ」


 おお、奢り。この場合は『家主や依頼主が提供してくれた料理』という判定でいいのだろうか。

 不安を覚えた私は、チラリと見やる。視線の先には、弟子たるテナ。

 テナは私のアイコンタクトを受け取ると、小さく微笑んだ。


「ありがとうございます、いただきます」


 ……大丈夫のようだ。

 もう考えるのが面倒だし、こういうやり取りはテナに任せたほうがいいのではないだろうか……。

 どうせソーマはいないし、テナにおんぶに抱っこでも問題ない気がしてきたぞ。


「じゃ、好きな席に座って。注文はスタッフの子にお願いね」


 店主はそう言って、庭へと消えていった。

 私達は言われた通り、店内の適当な席につく。

 さてさて、何を食べようか。メニューを手に取りペラペラとめくっていく。


 前回の貴族の報酬が手に入ったから、懐にも余裕がある。

 奢りの限度は分からないが、不足分を支払うくらいは出来るぞ。

 どれを食べたとしても構わないだろう。


「それにしても、本当にすごいですね。私も草むしりなどはやったことがありますが、ここまで早く終わったことはありません……」

「そうだろう」


 弟子に褒められるのもいいな。

 テナはブラムウェルとちがってネチョネチョしてないし、純粋な尊敬の念を感じられる。

 今日は気分がいい。


「ほら、テナも選べ」

「はっ、はい!」

「これはどうだ。これも良いだろう」

「もう、落ち着いてください。自分で選べます」


 おっと、怒られてしまった。ついつい若者には食べさせたくなるとはこのことか。

 しかし思ったよりもダメージが大きい。

 もしも、万が一、本当にありえないと思うが、テナが反抗期を迎えてしまったらどうしようか。


 ……いや、そんなグロテスクな未来を考えるのはやめよう。

 テナに嫌がられないためにも、年寄りのような言動は気をつけなければな。

 問題は1000年の間に染み付いたそれが、綺麗さっぱり落ちるかという話なんだが。


 頭の中で、落ち込んだり反省したりと忙しい私を現実に引き戻すように、店のドアベルが賑やかに来客を知らせる。

 何となくそちらを見てみれば、覚えの有る少女が立っていた。

 あれは確か――ウィッシュだったか。


「あれ……?」

「おっ!」

「……」


 おっと、見すぎて気付かれてしまったようだ。

 ウィッシュの少女は、三者三様の反応を見せた。

 何故いるのかと疑問に思う顔。また会ったなと喜びあふれる顔。

 当たり前というのは悲しいものだが、あの私に文句を言ってきた少女は嫌そうに顔をしかめている。


 しかし、目があってしまったからには、挨拶くらいはしておかねば。

 そう思うよりも先に、嫌そうにしていた少女の方から声をかけてきた。


「へーえ。大魔法使いのお師匠様ともなると、人気のカフェで休憩ができるんですか」

「あ、ジュリー! やめなって……」


 ジュリーとやらの少女は、未だに私を敵視しているらしい。

 試験で舐め腐った態度をとっていたのは私だし、仕方がないか。若い人間から嫌われるのは、テナ同様に少しさみしいな。

 これも老婆心の一種か。


「こちらの店舗での仕事を終えて、オーナー様に休んでいいと言われているのです。なんですか、その失礼な物言いは」

「お、おい? テナさん? 落ち着け?」


 悪いのは私だし、900歳以上も下の赤子同然の少女に、反論したって仕方がない――と思っていた矢先。

 あろうことか一緒のテーブルにいた、あのテナが声を上げた。

 聞いたことのない冷たく刺すような声だった。


 テナと長く過ごしてきたわけではないが、彼女の性格や人間性を何となく理解した気でいた。

 気でいたからこそ、このテナの行動に驚いてしまった。


「ふ、ふんっ、あっそ」

「ご、ごめんなさい。仕事が終わらなくて、みんなカリカリしてるんです」

「ちょっと、クララ! なんで言っちゃうの!?」

「だっ、だって……」


 クララと呼ばれた少女は、私の方へ目線を送った。


 ……あぁ、なるほど。手伝ってほしいのか。

 仕事の進捗がどれほどかは知らないが、仲間がここまで毛嫌いしている私に言うくらいだ。相当まずい状況なのだろうな。

 それに、自己主張の薄い少女だと思い込んでいたが、何が重要かを見極められる少女らしい。


「手伝ってやろうか」

「だっ、誰があなたなんかに!」

「えぇー!? 手伝ってもらえるのか!? 助かるよなぁ、クララ!」

「う、うんっ。アンナの言う通り。早く終わればいっぱい休めるもんっ」

「ぐっ……」


 猛反対する少女を、2人で睨みつけている。2対1、圧倒的に反対派が不利だ。

 仲のいい友人からの無言の訴えは効いているようで、少女は「うっ」だの「ぐっ」だの苦しそうな声を出している。

 それに彼女は頭も切れる方だろう。

 プライドと実力、気に入らない部分。様々なものを天秤にかけて、最良の決断を下せるはず。


「おねがい、します……」


 結局、少女の敗北という結論が出たのだった。

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