希望と再会。
大貴族の一件から、数日。
あれから、騎士団経由の依頼はゼロだ。平和だということだろう、いいことだ。
代わりに、私は他の冒険者と変わらず、地道に業務実績を積み重ねていた。
つまり下っ端の冒険者が行うような、雑務を任されている。
テナを連れて、街のとある喫茶店にやってきていた。
今回の依頼は、庭園の手入れ。一言で言えば草むしりである。
とはいえ草むしりなんぞ、引きこもっていた1000年で魔法を習得しているせいか、10分足らずで完了してしまった。
今はその報告をしに、店主を探している最中だ。
「おぉ、店主」
ちょうど店主を発見した。客につかまっている様子もなく、声をかけてもいいタイミングだろう。
「冒険者ちゃん! 調子はどう? 日も出てくるから、きちんと休んでね」
「終わったぞ」
「終わった!?」
店主は庭と私を交互に見ている。まぁ10分で終わる量ではないのは当然か。
庭園というだけあって、この喫茶店の庭は非常に広かった。
庭は店主の趣味も含んでいるが、広々と、手入れされた庭はピクニックにも適している。
寧ろそれを狙っているらしく、メニューにはピクニックセットもあるようだった。
そんなわけで庭というよりかは公園のような広さを持っており、10分程度で草むしりが終わる広さではないのである。
「……疑いたくはないんだけど、一応確認するね?」
「ああ」
「待ってる間、お店の中で休んでいて。注文はこっちで奢るよ」
おお、奢り。この場合は『家主や依頼主が提供してくれた料理』という判定でいいのだろうか。
不安を覚えた私は、チラリと見やる。視線の先には、弟子たるテナ。
テナは私のアイコンタクトを受け取ると、小さく微笑んだ。
「ありがとうございます、いただきます」
……大丈夫のようだ。
もう考えるのが面倒だし、こういうやり取りはテナに任せたほうがいいのではないだろうか……。
どうせソーマはいないし、テナにおんぶに抱っこでも問題ない気がしてきたぞ。
「じゃ、好きな席に座って。注文はスタッフの子にお願いね」
店主はそう言って、庭へと消えていった。
私達は言われた通り、店内の適当な席につく。
さてさて、何を食べようか。メニューを手に取りペラペラとめくっていく。
前回の貴族の報酬が手に入ったから、懐にも余裕がある。
奢りの限度は分からないが、不足分を支払うくらいは出来るぞ。
どれを食べたとしても構わないだろう。
「それにしても、本当にすごいですね。私も草むしりなどはやったことがありますが、ここまで早く終わったことはありません……」
「そうだろう」
弟子に褒められるのもいいな。
テナはブラムウェルとちがってネチョネチョしてないし、純粋な尊敬の念を感じられる。
今日は気分がいい。
「ほら、テナも選べ」
「はっ、はい!」
「これはどうだ。これも良いだろう」
「もう、落ち着いてください。自分で選べます」
おっと、怒られてしまった。ついつい若者には食べさせたくなるとはこのことか。
しかし思ったよりもダメージが大きい。
もしも、万が一、本当にありえないと思うが、テナが反抗期を迎えてしまったらどうしようか。
……いや、そんなグロテスクな未来を考えるのはやめよう。
テナに嫌がられないためにも、年寄りのような言動は気をつけなければな。
問題は1000年の間に染み付いたそれが、綺麗さっぱり落ちるかという話なんだが。
頭の中で、落ち込んだり反省したりと忙しい私を現実に引き戻すように、店のドアベルが賑やかに来客を知らせる。
何となくそちらを見てみれば、覚えの有る少女が立っていた。
あれは確か――ウィッシュだったか。
「あれ……?」
「おっ!」
「……」
おっと、見すぎて気付かれてしまったようだ。
ウィッシュの少女は、三者三様の反応を見せた。
何故いるのかと疑問に思う顔。また会ったなと喜びあふれる顔。
当たり前というのは悲しいものだが、あの私に文句を言ってきた少女は嫌そうに顔をしかめている。
しかし、目があってしまったからには、挨拶くらいはしておかねば。
そう思うよりも先に、嫌そうにしていた少女の方から声をかけてきた。
「へーえ。大魔法使いのお師匠様ともなると、人気のカフェで休憩ができるんですか」
「あ、ジュリー! やめなって……」
ジュリーとやらの少女は、未だに私を敵視しているらしい。
試験で舐め腐った態度をとっていたのは私だし、仕方がないか。若い人間から嫌われるのは、テナ同様に少しさみしいな。
これも老婆心の一種か。
「こちらの店舗での仕事を終えて、オーナー様に休んでいいと言われているのです。なんですか、その失礼な物言いは」
「お、おい? テナさん? 落ち着け?」
悪いのは私だし、900歳以上も下の赤子同然の少女に、反論したって仕方がない――と思っていた矢先。
あろうことか一緒のテーブルにいた、あのテナが声を上げた。
聞いたことのない冷たく刺すような声だった。
テナと長く過ごしてきたわけではないが、彼女の性格や人間性を何となく理解した気でいた。
気でいたからこそ、このテナの行動に驚いてしまった。
「ふ、ふんっ、あっそ」
「ご、ごめんなさい。仕事が終わらなくて、みんなカリカリしてるんです」
「ちょっと、クララ! なんで言っちゃうの!?」
「だっ、だって……」
クララと呼ばれた少女は、私の方へ目線を送った。
……あぁ、なるほど。手伝ってほしいのか。
仕事の進捗がどれほどかは知らないが、仲間がここまで毛嫌いしている私に言うくらいだ。相当まずい状況なのだろうな。
それに、自己主張の薄い少女だと思い込んでいたが、何が重要かを見極められる少女らしい。
「手伝ってやろうか」
「だっ、誰があなたなんかに!」
「えぇー!? 手伝ってもらえるのか!? 助かるよなぁ、クララ!」
「う、うんっ。アンナの言う通り。早く終わればいっぱい休めるもんっ」
「ぐっ……」
猛反対する少女を、2人で睨みつけている。2対1、圧倒的に反対派が不利だ。
仲のいい友人からの無言の訴えは効いているようで、少女は「うっ」だの「ぐっ」だの苦しそうな声を出している。
それに彼女は頭も切れる方だろう。
プライドと実力、気に入らない部分。様々なものを天秤にかけて、最良の決断を下せるはず。
「おねがい、します……」
結局、少女の敗北という結論が出たのだった。




