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さすがに1000年は飽きたから。~引きこもりを謳歌した最強魔女は、外に出てみることにした~  作者: ボヌ無音
第三章 魔女、禁忌と呪い。

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門。

「な、なるほど……そんなことになるのですね……」

「お前も無闇矢鱈に、禁忌魔法を使うなよ」

「使いませんよ。リサ様は、私を誰だと思っているのですか」


 魔法に取り憑かれた化け物かな、と言わずに黙っておいた。


 気づけば、外が夕焼けに染まっている。薄汚れたガラス越しに見る世界は、オレンジ色だ。

 まだ日の高い時間にやって来ていたから、相当長居してしまっている。

 テナはまだ本調子じゃない。そろそろ切り上げる時だろう。


『そういえば、出処は掴めたか?』

「いや。姿を完全に隠しての接触。呪術の一連と称して、呪術書を燃やして捨てるようにまでする程の徹底っぷりだ」

『確信犯だな』


 そう。悪しきものであるとわかっている者の犯行だ。

 本当にただの呪術書だと思っている可能性もあるが、もしもまだそれらを隠し持っているならば――早く取り上げねば。

 これは人間が持つには、強すぎる代物だからな。


「私の方でも注意しておきますね。そういった情報は、流れてきやすいですから」

「ああ、頼む」


 ブラムウェルが何を研究しているか知らないが、権力と権限があるのは確かだ。

 冒険者になったばかりの私と、既に高い地位にいるブラムウェルであれば、どちらが情報を得やすいかは一目瞭然。

 それに高い地位になれたとて、ブラムウェルと同じ情報が入るかはまた別の話。

 研究者と冒険者では、得られる情報は異なるはずだ。


『リサ、こいつは人間の権力者か何かか?』

「人間界では有名な魔法使いだ」

『ほう。通りで。いい眼鏡だな』

「私が硝子を埋め込んでやった」

『なんだ、つまらん。だが、まぁ……』


 学者の表情が、何やら楽しそうだ。ウズウズというかムズムズというか。

 言いたくて仕方のないことが、喉まで出かかっているかのようだ。

 ――当然、指導者には人間に対しての我慢など存在しない。

 学者は耐えることなどなく、口を開いた。


『ブラムウェル、契約をしないか』

「はい?」

『お前の肉体を〝門〟とすれば、俺はこの面白い出来事を何時でも見ることができる』


 ああ、あの〝ウズウズ〟は、彼の欲だったか。

 学者ならではの、知識欲だ。

 基本的な知識は他の指導者から得ているだろうが、人間のこういった『愚かで滑稽ないざこざ』は、彼にとっていい娯楽なのだろう。

 喚ばれない限りは人間界など滅多にこないはずで、そんなあまり来ない場所で面白い話を聞けば、彼も気になってしまう。


「……代償は」

『代わりにリサに払ってもらえ』

「ですが……」


 チラリ、とこちらを見てくる。金を代わりに払う許可だろうか。


「いいぞ」

『ほうら、リサもこう言っている』

「…………」


 おや、ブラムウェルの視線がやまない。

 では代金の許可ではないらしい。

 となるとただの救助要請だろう。いきなり上位存在に絡まれたとあれば、魔法に貪欲な彼でも引くというわけか。

 であれば師として助けてやろう。


「お前、本当のことを言え。ブラムウェルが困っているではないか。何がしたい」

『チッ……』


 何だこの舌打ちは。

 私に対して愛想が良いとは言えない学者だが、ここまであからさまに不快を表したことは滅多にない。

 それこそ、占い師に絡んでいる、ことくらい……。


 …………ああ、そうか。単純明快。

 知識欲なんて指導者らしい理由なぞ、最初からなかったわけだ。


「占い師だな? 最近人間界の菓子を気に入っていたからな」

『なっ、ななななっ、なんっ、違うが!? なんでそこで占い師が出てくるのか意味がわからないっ!』


 図星すぎる。というか、すぐにバレないようにブラムウェルを選んでいるあたり、ずる賢い。

 それに、人間の菓子を占い師に贈るならば、女であり飲み仲間の私に門を開けるべきだろう。

 なぜ私に言わないのだ。


「私に門を開けばいいだろう」

『それはなんか嫌だ』

「何だそれは」


 何だそれは。

 私がいつでも召喚魔法を使えるから、という意味だよな?

 それ以外に理由があるならぶん殴るが……。


『まあ、検討しておいてくれ、ブラムウェル・レイナー。300年後くらいにまた聞きに来る』

「あの、死んでいます……」

『……』


 だから私にしておけと言っているのに。

 300年なんて人外な時間を出して。そんな長い目で見るつもりならば、寿命の概念がない私が適任だろう。

 まるで幼い人間の言う『生理的に無理』みたいな感覚で拒絶するなんて。

 老いぼれ魔女でも傷つくぞ。


 私が内心怒り狂っていると、この空気の中でテナが小さく手を挙げた。


「あの……私ではだめですか?」


 何か意見を言うつもりかと思ったが、まさかの立候補であった。


 ……確かに、妙案かもしれない。

 門さえ開いておけば、あとは呼ぶだけでいい。まだ力のないテナにとっては、いい護衛にもなる。

 学者は指導者の中では若い部類だが、人間相手ならば造作もない。

 できれば常にテナと行動し、守ってやりたい。しかし今後の冒険者活動で、何が起こるか分からない。

 そんな時に、指導者と契約があれば私も安心だ。


「ふむ、テナはどうだ。私の弟子で、養子みたいなものだ」

『おぉ。お前と行動する娘か?』

「そうだ」

『ならばちょうどいい。……よし、これで門は開かれた』

「えっ? まだ何もしてないですよ……?」

「聞くな。指導者が常識にとらわれると思うか」

「……確かに……」


 特に学者はそういったことが得意だ。

 私も詠唱を取っ払って行う魔法は得意だが、彼等――もとい彼――に言わせれば動作が多すぎるらしい。

 指導者達は予備動作すらないことも多く、気付いた頃には攻撃されているなんてよくあることだ。


『俺が必要とあらば、名を呼べ』

「はっ、はい!」


 学者は私の方へ視線を寄越すと、手を差し出した。金を渡せと言わんばかりに、賃金を請求している。


『先の分も前払いで、3万年貰う』

「待っていろ、今出す」


 今回ばかりは『私と学者の中だから』は許されない。

 これはきちんとした、人間と指導者との契約となるのだ。

 私もそれを知っているし、分かっている。だから文句などない。


 私は魔力を取り出した。3万という単位は滅多に使わない単位だ。

 正直、この量で合っているか分からない。少ないと困るだろうし、多めには取り出したつもりだが……。


「ほら」

『……む、少し多いが、チップとして貰っておこう』

「そうしてくれ」


 やはり多かったか。どうせ途中で契約更新だの、内容変更だの、追加報酬だの言われそうだから構わないだろう。

 それに大事なテナを守ってくれるのだ。チップなんて安い安い。

 手数料やら保険料みたいなものだしな。


「あの、それは……?」


 私と学者とのやり取りが気になったブラムウェルが、我慢も出来ずに口を挟む。


「指導者達の通貨は、魔力だ。人間1人分を1年と呼ぶ」

「な、なるほど……。……え? つまり、3万……?」

「あー、そろそろ魔法陣の説明に移ろうか!」


 ブラムウェルの許容範囲を超えそうだったので、強制的に話を遮る。

 そもそもここに来たのは、学者とそれに関連したやり取りの説明ではない。床に描かれた魔法陣についてだ。


 私は話を切り上げると、魔法陣の説明へと移った。

 描いてある絵や文字について、学者の解説も混じえて説明をすれば、時間はすぐに過ぎていった。






「さて、そろそろ行くか」

「お供します、先生」

「貴重な資料、ありがとうございました」

「学者、お前も早く帰れよ」

『ああ』


 さて、家主に完了したと報告をしに行こう。


 廃屋を出て、母屋に向かっている最中。ブラムウェルが一つ、提案をした。


「ミ・ネッダで情報を集めるのは如何ですか。あそこは学術都市です。様々な情報も入ってくるでしょう」


 ミ・ネッダか……。

 何をやらかしても、お偉方に呼び出される未来が、見える見える。

 それだというのに、私の中ではもう既に『行ってみたい』という気持ちが沸き起こっていた。

 ミ・ネッダに行けば、遺跡レベルの古い文献を超えるような本にも出会えるだろう。

 それが楽しみで仕方がないのだ。

 ……引きこもっていたあの頃と、同じ人間とは思えない。


「面白そうな提案だ」

「では融通が効くよう、私が手紙を送っておきます」

「返事が楽しみだな」

「であれば急ぐようにも書きましょう」


 いや、まぁ、そこまでする必要はないのだが……。

 まだ私としては、ミ・ノヴィアすらまともに堪能していない。

 最悪、行ったことがあれば瞬間移動できるし、飽きたら戻ってくればいいか。

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