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さすがに1000年は飽きたから。~引きこもりを謳歌した最強魔女は、外に出てみることにした~  作者: ボヌ無音
第三章 魔女、禁忌と呪い。

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休息と弟子。

「下手したらギルド登録証が取り上げ、とか有り得ますから。不正はしないに限ります」

「……肝に銘じる」


 貴族の屋敷を出て、テナにそう釘をさされる。

 こんな早い期間で登録証取り上げだの、取り消しだのされたらたまったもんじゃない。

 ソーマが呆れる様子が目に浮かぶようだ。


 確かに、言われてみれば直接報酬を受け取るのは所謂『闇営業』のようなものだろう。

 ギルドや斡旋所など言われているが、結局は会社のようなものなのだから、ギルド側が不快に思うのは当然だ。

 だからこそチップ制度があるのだろう。


「ただ、依頼主から提供される食事や宿は、問題ないです」

「ほう」


 確かに宿泊が必要な依頼で、食事や宿は自腹と言われたら憤慨する。

 少なくとも、冒険者ギルドは完全なブラック企業ではないようだ。


 ……ん? ならば食事をしていけば良かったのでは……。

 自宅以外の異世界での食事で、かつ大貴族の料理。ああ、そそるものがある。

 なんてことだ。次、同じようなことがあれば、食事をせびろう。


「あ、で、でも! あのお菓子のお店なら、見たことがあります! ご案内できますよ!」


 どうやら顔に出ていたらしい。食べたいという気持ちが。

 テナが必死にフォローをしてくれている。気の利くいい子だ。

 店を知っているなら行ってみたいが、まだ報酬すら貰っていない身。

 つまり無一文だ。


 そこでふと、私の脳裏に一人の男の顔が浮かんだ。

 緑の長髪の、眼鏡の天才魔法使い男。


 ――そうだ、ブラムウェルにツケよう。


「よし、案内してくれ」

「はいっ!」






 大貴族が出してきた菓子折りだけあって、相当なハイブランドである。

 テナに案内された店は外観からも上品と上質さが伺えて、尚且つ一流の店舗が並ぶ通りに位置していた。

 通りを行く馬車も、人も金を纏っているような者達ばかり。

 ブラムウェルのホテルを思い出すほどだ。


 私達のような冒険者はお呼びでないという雰囲気がダダ漏れで、通りに踏み入った時点でジロジロと心地の良くない目線が飛ぶ。

 それだけではなく、菓子屋に入ってブラムウェルの名を出せば、即座に騎士団に通報されてしまった。

 うむ、防犯意識がしっかりしているな。


 そんなわけで、私の目の前には呆れたアレックスが立っている。


「……リサ殿、一体何を……」

「金がないからブラムウェルにツケようとした」


 私が素直に打ち明けると、アレックスは隠す気もなく大きなため息を吐いた。

 言っておくが私のほうが年上なんだからな。敬えとは言わんが、あらかさまに面倒な対応をするんじゃない。

 老婆だって傷つくのだぞ。


 そう思いながら少し拗ねていると、通りの方が賑やかになる。

 穏やかな余裕のある金持ちのショッピングエリアに、馬車の慌ただしい音が響いていた。

 馬車はこのスイーツショップの前で止まると、中から転げ落ちるように男が降りてくる。

 男はそのまま、窓を突き破らんほどの勢いで、ショップへと駆け込んできた。


「おっ、おまたせ、しましたァアッ!」


 気品とはかけ離れた大声。間違いなくブラムウェル・レイナーのものであった。

 私は彼の態度に慣れているからいいが、ショップ店員は凍りついている。アレックスですら、固まっている。


「リサ様がお呼びでしたら、……ハァ、このブラムウェル、……ハァハァ……即座に、ゲホッゲホッ! ウェッ……」

「体力のない魔法使いを、ここまでさせるとは……」

「先生、恐ろしい人です……」


 私もこうなるなら、もっと早くに止めるべきだとよく理解している。

 とはいえこの男が便利なのは変わりない。様子のおかしな部分を引いても、お釣りが来るだろう。

 まだこの世界に馴染めていない私にとって、ブラムウェルは都合のいい――もとい生活を快適に回すための人材だ。


「ケホッ……それで、なんの用でしたか?」

「お菓子食べたい」

「はい、店ごと買いましょうね」

「おい……」

「だめです!」


 アレックスが緩く止める一方、テナは叫んで止めた。

 足を折った時と同じ雰囲気だ。ちゃんと私を怒るという感情が伝わってくる。

 これはマズイぞ。


「先生もお金が無いなら言ってください! 案内しませんから!」

「えー……」

「えー、じゃありませんっ! ソーマさんに言いつけますよ!?」

「ごめんなさい」


 くっ、この段階で最終兵器を投入しようとするとは……!

 ここは黙っていてもらう為にも、大人しくする他ない。

 そうだ、別に店ごと買わなくてもいいのだ。ブラムウェルに、菓子を幾つか買ってもらえればいいだけ。

 ふう、冷静になったぞ。


「ブラムウェル、幾つか菓子を買ってくれるだけでいい」

「ええ、わかりました。……しかし驚きました。昨日の奴隷ですか? 一日で一体、なにが……」

「……あー、いや、ははは……」


 テナやソーマが、ブラムウェルにも私の奇行を伝えるのも、時間の問題だな。

 まずはこの場をどうにかしなければ。意識を別方向へやって、話を逸らすのだ。

 今ある話題と言えば――そうだ、魔法陣だ。


「……時に、ブラムウェル。次はいつ空く?」

「リサ様が願われるのでしたら、今すぐ予定を空けます」

「では明日」

「承知しました!」


 早いに越したことはない。

 学者が処理してくれるならば――勉強にはならないが――一番いいが、まだ魔法陣が残っていた場合、念の為消しておかねばならない。

 また利用されて、今度こそ世界が滅ぼうものならば、目も当てられない。

 しかし、昨日の今日だ。あの貴族が快く、来訪を受け入れてくれると良いのだが……。

 その時はまた時間を作るとしよう。


 ――そうだ、ついでにこの流れで、テナの説明もしておこう。

 明日も同行するわけで、ブラムウェルも今後会話が増える。


「ああ、それと」

「はい」

「この子はテナ・ソーヤマを名乗ることにした。立場的にはお前の妹弟子にあたる」

「なんと。私とは気軽に接してください、テナさん」

「はっ、はい! ブラムウェル……さん?」

「ええ」


 若い少女相手だが、ブラムウェルは愛想が良いままだ。

 ウィッシュ相手にはあんなに鉄仮面だったというのに、テナには〝普通〟に接するようだ。

 おなじ師を持つ仲間とでも認識しているのだろうか。


 その後、私はブラムウェルに菓子を買ってもらい、アレックス率いる騎士団とも解散した。

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