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さすがに1000年は飽きたから。~引きこもりを謳歌した最強魔女は、外に出てみることにした~  作者: ボヌ無音
第三章 魔女、禁忌と呪い。

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悪臭の正体。

 メイドに近付いた際に嗅いだ、悪臭。呪いに触れたりしたときに感じるものだ。

 ほしびとの魔法使いにはそういった感知は出来ないようで、私の鼻が敏感という結論に至ったことがある。


 しかし、メイドが呪われているようには見えない。

 つまり呪いのある、呪いにかかった誰かの側に居たことがあるのだ。

 そこで繋がるのが、病を患った長男だ。


 私の幼稚な推理が正しければこうだ。

 長男のメイドは、次男を呪殺しようと禁忌魔法に手を出した。

 次男のメイドは、長男を呪殺しようと何らかの魔法もしくは呪術を使っている。

 ……なんともまぁ、醜いものだろうか。


「主人。長男の部屋を見てもいいか」

「それは……」

「いや、いい。聞いた私が馬鹿だった」


 通してくれないのは分かっている。冒険者なんぞ、危険だし、どんな病気を持っているかわからない、教育にも悪いと考えているだろう。

 だから私は無理矢理、部屋に行くことにした。


 私は彼等を気にすることもなく、部屋を出た。

 臭さの原因が呪いだと分かれば、部屋の特定は簡単だ。


「ど、どちらに行かれるのですか!?」


 当たり前だが、夫婦がついてきた。走り慣れていないだろうに、急いで追ってくる。

 追いつかれることはないだろうが、衛兵などを呼ばれてもまずいな。

 夫婦には悪いが、少しスピードを上げた。


 屋敷の中の〝臭い〟をかぎながら、部屋を探す。

 病人を置いておくなら、静かな場所――つまり人の多くいる客間などからは遠ざけるはずだ。

 徐々に濃くなる臭いを辿りながら、私はとある部屋に到着した。


「そちらには入らないでください、冒険者様……!」

「あ、あの! 勝手はおやめ下さい!」


 主人が懇願するように言い、夫人は怒鳴りつけるように叫ぶ。

 制止など聞き入れるつもりもなく、扉を開けた。


 中はカーテンがしっかりと閉め切っていた。陽の光が届かず、まるで夜のように暗い。

 病人がいるというのに、むせ返るような濃い香の匂い。煙が強いのか、少し間違えれば霧にも見える。

 ベッドには弱々しい子供が横たわっており、微かに胸部が上下している。健康的な呼吸とは言い難い。

 慌ただしく入ってきた我々に対して、一瞥すらない。

 意識もあるのかないのか分からない。


「やはりな」

「早く出てください! 冒険者の分際で、何なのですか!」


 夫人――母親は私を止めんと飛び出してきた。

 流石に貴婦人だけあって、力で止めようとはしない。だがその気迫は貴族の人間とは思えないほどだ。

 申し訳ないが解決するまで、無視させてもらおう。


「主人、長男は魔法使いなどに見せたか」

「い、いえ。医者にしか……」

「あなた! なぜこんな女に真面目に答えるのです!?」

「……少し黙っていなさい」

「くっ……」


 医者にしか見せていないとは思った。

 魔法使いであれば、初心者では無い限りこの明らかな呪いに気がつくはずだ。


「それ以上息子に近付いてみなさい、許さないわよ!」


 ……勇敢な母親だ。相手が力のある者だと分かっているだろうに、毅然とした態度で私に怒りをぶつけている。

 その眼差しには嘘偽りも感じられない。

 息子を守りたいという気持ちが、しっかりと感じる。

 もちろん父親も同じだ。私の力を分かっているからか黙っているが、視線には警戒が孕んでいる。


 彼等は本当に使用人達の悪事を知らなかったのだろう。

 両親が世継ぎのために、片方を殺そうとした――という説も浮かんだが、どうやら無駄な心配だったようだ。

 二人ともきちんと、子供を愛している。


 叫ぶ夫人を横目に、私は長男へ手を伸ばした。

 そっと額に触れ、中にある邪悪な気配を取り払う。


「ギャアアアア゛アァアア゛アァアァッッ!」

「きゃあ!?」

「なんだ!?」


 すると、遠方から断末魔に似た叫び声が届いた。いや、あれはまさしく断末魔そのものなのだろう。


「今のは呪詛返し。〝呪い〟を仕掛けた術者へ仕返しするもの。それに――」


 お馴染みのフィンガースナップ。ぱちりと音がこだますると、部屋においてあった香が破裂した。

 するとすぐさま、部屋中のモクモクと漂っていた煙が消えた。

 じわじわと空気が入れ替わり、呼吸もしやすくなる。


「これは人を惑わす香だな」


 部屋に入った者の判断力を、遅らせる効果があるものだ。

 香を設置したメイド自身は、それに抵抗できる処置を施していたはず。それも相まって臭かったのかもしれない。


 両親は定期的に子供を見に来るだろう。あれほど、私を警戒していたくらいだ。

 子を思い部屋に入れば、頭が徐々に鈍っていく。

 この世界の人間なら、医者のみならず魔法使いにもみせてみるという判断ができるはずだ。

 なのにこの屋敷の主人は、医者だけを呼んだ。

 きっと香で判断力が低下した主人に対して、メイドが軽く〝そそのかした〟のだろう。


「お前達が冒険者を雇うのが遅くなったのも、これのせいだろう。……すまなかったな、怒鳴って」

「い、いえ……」

「悪いことは言わない。使用人は入れ替えるべきだ」

「ああ、そんな……」

「私達の信じていた使用人は……」


 主人も夫人も、がくりと項垂れた。

 部屋には、徐々に整っていく子供の寝息がよく響いていた。

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