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さすがに1000年は飽きたから。~引きこもりを謳歌した最強魔女は、外に出てみることにした~  作者: ボヌ無音
第三章 魔女、禁忌と呪い。

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真実の指導者。

 改めて、部屋を見る。

 何の変哲もない、普通の貴族の豪華――だった――部屋だ。この部屋で儀式を行うべき、という理由は今のところ見当たらない。

 あの(いりぐち)から近いこともあって、適当に選んだ可能性もあるだろう。


 問題はなんの儀式であったのか、だ。

 私の記憶には、あの魔法陣はない。だが、魔法陣を用いるということは、比較的階級の高い魔法を発動させたいということ。

 人間という生贄を用意していただけあって、人では踏み込めない領域の魔法である場合も考えられる。


 とはいえ、知識の乏しい私一人でうんうん悩んでいては、話が進まない。

 ここは一つ、知識人に教えを請うとしよう。


 ――〈召喚:魔技の学者〉。

 私は一つの、禁忌魔法を発動させた。名の通り、召喚魔法だ。


『誰だ、俺の研究の邪魔をするやつ……――なんだ、お前か』


 現れたのは、若い青年の姿をしている者。

 ほう、今回は青い長髪に、紫の瞳のようだ。……この色味を気に入っているのか? 前も見た組み合わせだ。


 彼は『魔技の学者』という存在。

 『真実の指導者』や『真なる者』と呼ばれる、次元の裏にいる〝本当の存在〟だ。

 わかりやすく言えば、神に近い立場と言える。

 彼等は神と混同されると、酷く嫌悪と憎悪を見せてくるが、伝わりやすい言葉はそれしかない。


 指導者達はそれぞれに得意分野があり、学者は勉強や研究、実験が趣味だ。

 人が理解できない次元の知識も有しており、私も何度も世話になった。


「久しぶりだな、学者」

『まだ100年程だろう』

「だったか」


 指導者達は命という概念はない。出会った者の中では、数十万、数千万と存在している者もいる。

 100年など、昨日今日のレベルだ。私にとってはまだ長い方だが、彼等にとってはそうではない。

 私も死という概念がなくなってしまったため、いつか彼等と同じような感覚になるのだろうか。

 ……さて、本題に入ろう。


「なあ、学――」

『……おい、お前!? 占い師に俺のいいとこ、言ってくれたんだよな!?』


 私が口を開くと同時に、学者が叫んだ。またこの話題か、と呆れる。


 占い師、というのは彼の想い人だ。そして私の飲み友達でもある。

 いつだったか、学者が恋をしていると分かった時、なんやかんやあって協力する羽目になってしまった。

 頻繁に飲む私と占い師であったことから、そのたびに学者を褒め称えたり、いい男だと推薦したりしていた。


「しつこいな。言ったぞ」

『あれから占い師と喋ってないんだよ! お前の言い方のせいで、俺が嫌われたらどうするんだ!』

「ちゃんと褒めてやった。それにまだ占い師と飲んでから、50年だぞ。さっき100年程って言ってたやつの台詞じゃないだろ」

『50年も占い師と話せなかったら、嫌われたも同然だ〜っ!』


 学者はわざとらしくわんわん泣き出した。これが指導者のやることか。

 同族が見ればゴミを見る目で蔑むだろう。

 しかし、今はこうしてくだらない恋愛話をしている場合ではない。


「本題に移っていいか?」

『……無慈悲……。いいよ……』

「お前にこの魔法陣を見てもらいたい」

『魔法陣〜……? お前も知識あるだろう』

「あるにはあるが、あまり使わないのでな」

『まあ、たしかに儀式省くもんな……』


 今だってそうだったし、と学者は続ける。


 本来ならば真なる者を呼び出す禁忌魔法は、大量の魔力が必要だ。人間が発動させるならば、多くの人間を犠牲にしなければならない。


 それに呼び出したとて終わりではない。願いや知識を望めば、真なる者は代償を求める。

 代償とは言うものの、指導者にとっては賃金に過ぎない。

 依頼を受けて呼ばれ、仕事をする。それに賃金が伴うのは、人と同じ。

 ただし、その賃金とやらは、人が使う通貨ではない。


 その代金ですら私はクリアできるのだから、恵まれたものだ。


「これが見てもらいたい魔法陣だ」

『ほう……』


 学者を魔法陣へ案内すると、彼はじっとその描かれた床を見つめていた。


『崩れている、間違っているな。よく知らない人間が描いたのだろう』

「魔法は展開されたか」

『少しな』

「何が展開された」

『禁忌だ。真なる者(われわれ)を呼び出す儀式のようだが、対象が――魔遊の猫?』


 ……猫? 魔遊? 聞いたことがない。

 真実の指導者には多く会ってきたが、その全てではないと知っている。だが、あまりのも初耳だ。


「誰だ? 猫型の指導者、ということか?」

『……あー、これは占い師の飼っている猫だな』

「はあ?」


 たしかに愛玩動物を飼っているとは聞いたような気がするが……。

 まさか、指導者の飼う猫ですら、真実の指導者となるのか。

 聞いた事のない話だが、そもそも指導者達は全てを語ろうとしないだろう。

 私が知らないのも当然だ。


『おそらく、人の世界で言う『虎』などの獣を呼びたかったのかもしれない。それか、本来は別の真なる者を呼びたくて、魔法陣を間違えたか』

「間違えてくれたおかげで、大事にはならなかったと……」


 一先ず安心だ。もしもこの術式が間違っていて、会話の成立しない指導者が選ばれていたら……。

 問答無用で世界は消されていただろう。


『安心するのは早い。大部分の魔法陣は間違っていない。正しく使えば、我らが召喚できるだろう。小さき者(にんげん)の世界で、我々を召喚し得る資料を持っている者がいるということだ』


 学者の言う通りだ。本来、人の世界にあるべきではない魔法が、こうして使われるところだった。

 初めて踏み入った世界で、私の知らない誰かが、その場所を壊そうとしている。

 そしてその破壊者は、いずれ私の力に気づいてしまう。


 きっと今後、何らかの接触があるはずだ。

 それが吉と出るか、凶と出るか。


『お前もいずれ、対峙するだろう』

「……ああ」

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