人探し。2
「〈精霊の先導獣〉」
魔法を発動させると、獣――白銀の狼が現れた。
光の加減できらきらと別の色に見えるのが、また美しい。
私以外の誰もが、精霊獣の姿に引き込まれていた。
人間の世界の狼に似せているものの、実際は違う種族らしい。精霊に言わせればもっと高貴な存在『精霊獣』だとか。
精霊獣は気まぐれだが、魔獣に比べて人に寄り添ってくれる。
迷い子がいれば導いてくれるし、なくしものがあれば見つけ出してくれる。
ただし、プライドの高い精霊達に飼われているだけあって、召喚者には懐かないことも多い。
私は力関係の問題で言うことは聞いてくれるが、懐くと言うよりもビジネスパートナーに近いだろう。
『わう! わふっ!』
「ふふ、かわいいワンちゃんですね」
「……そうだな」
……珍しい、精霊獣がテナの周りをぐるぐると飛び跳ねながら回っている。
尻尾も引きちぎれんばかりに振り回している。
狼の威厳はどこへやら、ただのワンコに成り下がっていた。
――いや、今はそんなことは良い。早く子供を探さねば。
「これを頼りに、持ち主を探せ」
『ワウッ!』
クマのぬいぐるみを差し出すと、精霊獣はすぐさま動いた。
彼らは霊体に近いような体を持っているため、人間の作った壁や部屋は関係ない。
壁をするりと抜けると、こちらが追従出来ているのか確認もせずに進む。
かといって、置いていかれる訳には行かない。
「テナ、行くぞ」
「はい!」
『ワン! ワンワン!』
遠くなる声の方へ急ぐ。
一応は待っていてくれているようで、既に庭に降りていた精霊獣は我々を呼ぶように鳴いていた。
待ってはいるが、既に屋敷にすらいない。本当に導く気はあるのか。
そもそも人間程度に呼ばれる機会は少ないから、力量差が分からないのだろうか。
「も、もう外に……」
「精霊の飼い犬だ。人間の作った壁など、あってないようなもの」
ではこちらも近道する他ない。
私は窓を開放し、足を掛けた。パンツスタイルの服だけあって、動きやすくて助かる。
そうして足を掛けた窓から、躊躇いなく飛び降りた。
「先生!?」
――ここ3階です!
というテナの声が、遠くなっていく。
しまった、2階くらいかと思っていたが、想像以上に高かったらしい。流石は大貴族。
2階なら無事に降りれるはずだったが、1つ高くなれば肉体が持たないだろう。
当然だが――着地した瞬間、ボキリと嫌な音がした。そして訪れる痛み。
「む、折れた」
折れた足では立てないわけで、私はそのまま前のめりに倒れてしまった。
しばらく待っていれば、足が治っていく。痛みはあるが、こんなもの慣れている。
死にかけたても再生、を研究と実験で繰り返していたため、足の骨が折れる程度は慣れていた。
急がば回れとはよく言ったものだな。これで時間がだいぶ無駄になった。
「よし、治ったな」
「だっ、大丈夫ですか!?」
テナがようやく走って降りてきたようだ。広すぎる屋敷というのも、考えものだ。
「ああ。痛いことに変わりないが、傷はなんでも治る」
「――痛い自体だめですっ!」
テナらしくない強い語気だった。
私は数百年ぶりに、心臓がバクバクと忙しくなった気がした。
テナは震えながら、涙をためている。走ってきたせいか顔は赤く、息も荒い。
「私、ソーマさんが言っていたことが、よーく分かりました! 今までの弱い私じゃ、先生を止められません」
「テナ?」
「私が奴隷じゃないなら、きちんと叱りますからねっ! 飛び降りたら、ダメですよ!?」
テナがこんな短期間で成長するとは、折れた足も喜んでいるだろう。
急いで来たせいかと思ったが、呼吸が荒いのは怒りが爆発しているかららしい。
そこまで心配することはないと言うのに。とりあえず合わせておくか。
「ああ、分かった」
「『ああ、分かった』……?」
「……とっ、飛び降りてごめんなさい」
訂正。成長などではない。
テナにソーマが憑依している。怖い。
ソーマと違って表情があるおかげで、テナの怒りが直接伝わる。
距離を詰めて威圧的に聞き返せば、それはもう恐怖である。
『わうわうっ!』
早くしろと言わんばかりに犬が急かす。
好機だ、今は依頼の真っ最中。テナのお説教から抜け出すチャンス――ではない、仕事に集中しなければ。
「そうだった。行くぞ、テナ」
「もう……。はいっ」
犬に追従して走れば、中庭を抜けてどんどん進む。
広い庭園に、訓練場らしきスペース、馬小屋。村ひとつありそうな敷地を、私達は駆け回る。
そうして見えてきたのは、今まで通ってきた場所とは掛け離れた薄汚れた屋敷。
ここに来るまでに周りの景色はどんどん変わり、木々も鬱蒼と生い茂っていった。
手入れされていないのは明白で、同じ敷地なのかを疑いたくなるほどだ。
「ここはまだ敷地内のようですが……」
「別棟というやつか?」
「旧館という可能性もあります」
『わぅ! わふっ!』
犬は早く行こうと我々を呼ぶ。
この辺りに小屋や別の建物があるように思えないし、あの屋敷でほぼ確定なのだろう。
「とにかく行こう。精霊が間違えるわけがない」
「はい」




