初めての仕事。
「今日もよろしくお願いします、〝先生〟!」
「ああ。私の方こそ」
冒険者生活、二日目。
今日は一人ではなく、テナとチームとして活動する。
テナはチームの仲間ということもあって、私を「リサ様」と呼ぶのは控えるよう頼んだ。
かといってすぐにそれに馴染めるわけもなく、結局私の方から「先生」と呼ぶように伝えた。
今後はテナに魔法を教えるつもりでもいたし、合っているだろう。
「そうだ、お前とチームを組むにしても、登録はどうしようか」
「大丈夫です。私も登録証はあります。奴隷も戦う場合、登録証が必要でして」
つまり、前のチーム時代にギルドに登録済みだということ。
……そうなると私のほうが後輩なるのか。
ある程度の依頼をこなしていたのなら、テナの登録証に依頼達成率とかも、登録されているのだろうか。
そのおかげで少しは依頼の幅が広がってくれたりはしないか、などと甘い考えを抱く。
「……あっ、でも、以前のご主人様が持っていて……」
テナがそのことを思い出し、うなだれる。確かに正式に引き継いで連れてきたわけじゃないから、テナの所持品などは全て奴らの手の中だ。
ギルドが管理している身分証明書のため、下手に細工はしないとは思うが――そもそも手元にない時点で、私達は詰んでいると言える。
「再発行が出来るか聞いてみるか」
「はっ、はい!」
◆
「い、い、い、いらっしゃいませ〜!」
ギルドに到着すると、昨日と同じ受付嬢がぎこちない笑顔で迎えてくれた。
もう完全に顔を記憶されている。隣の受付嬢も、表情が固まっている。
今日はブラムウェルと来ていないのにこの対応では、きっとあの日に起こったことも伝達済みなのだろう。
「どどどど、どう言ったご要件でしょうか!」
「ギルド登録証の再発行は可能か」
「え? は、はい。可能です……」
明らかに何かを言いたげな表情。「もう無くしたのか」とでも言いたいようだ。
この娘、こんなに態度に出ていてよく受付が出来るものだ。
現代日本なら即刻クレームだったろうに。
これも、異世界で異国だからこそ、成立する商売なのだろう。
とはいえ昨日の今日で、登録症の再発行を頼んでいるのだ。疑ってしまうのも仕方がない。
受付スタッフを困惑させたままにするわけもいかず、私は正直に口を開く。
「彼女のものを。以前のチームに預けたままだそうだ」
「そういうことですか! 承ります!」
「それと、名を書き換えたい」
「はい、どちらに?」
私はテナへと目線を送った。自分の口で伝えるように、と。
もしも、万が一。彼女があの名前を名乗るのを嫌だと思ったのならば。
少しでもその素振りがあるのならば、私は止めに入る。
彼女の意思を尊重したいから。
「テナ・ソーヤマに、お願いします」
はっきりと、伝えた。そこに拒絶や無理強いはなく、テナはソーヤマを名乗ると決めていた。
動揺などによる魔力の揺れもみられず、心ははっきりしていると私は確信できた。
テナが自らソーヤマを名乗ったのならば、その覚悟があるのならば。
私はその全てをもって、彼女を守ると心に決めた。
「かっ……かしこまりましたっ!」
「いいか。私の名前を使っているということは、責任は私にあり、テナへ行われた全ての行為は私への行為と見なすつもりだ」
「ひいっ! わかりました! て、手続きには少々お時間を頂きます……! 明後日……あっ、いえ! 夕方に! お越しください!」
……おっと、これは牽制の仕方を間違えたのだろうか。
事務作業のようなものは別に負荷や迷惑とも思わないから、のびのびとやってもらって良いのだが……。
まあ、こう言っているのだから甘えさせてもらうか。
「待ち時間に、ひとつ仕事でも受けようか」
「あっ! そうでした、ちょうど騎士団から依頼が来ています!」
早速、アレックスから仕事の依頼のようだ。
仕事の出来る男なのか、騎士団は処理しきれない仕事を大量に抱えているのか、たまたまなのか……。
まあ、内情はどうでもいい。問題は依頼の内容だ。
「指名……?」
「しかも、騎士団だって?」
「見かけない女だが……」
「よそから来たのか?」
話を聞こうと思えば、周囲がざわつきだした。
原因はおおかた、目の前にいる受付嬢だろう。ハキハキと大きな声で受け答えしてくれるのは好印象だが、もう少し抑えてもらいたいものだ。
私の知名度がもっと高ければ問題はないのだが、初日の騒動もあったし、落ち着いてほしい。
「お前は少し、声を落として喋るといい」
「す、すみません〜……」
結局、依頼の詳細は騎士団が直接伝えるということで、騎士団に行くことになった。
「こちらに来たのは一日だけだったのに、リサ殿の噂で持ちきりだぞ」
「それはそれは……」
初日とは違い、最初からまともな部屋で対応してくれたアレックス。
私とテナは連れて行かれるまま、客間にやってきた。
「ところで、その少女は?」
「ああ、連れだ。私のファミリーネームを名乗る許可も出した」
「……そ、そうか」
さすがは騎士団副団長といったところか。私が多くを語らずとも、全てを理解したらしい。
「……さて、雑談はここまでにして、仕事の話に戻ろう」
彼は単刀直入で非常に助かる。
アレックスはテーブルの上に、一つの紙を置いた。
置かれたのは地図だ。街の地図に、赤い丸印が書かれていた。
きっと、依頼主のいる住所の書かれたものだろう。
「とある貴族の令息が、数日もの間、行方不明になっている」
「ほう。人探しながら騎士団でもできるだろう」
「やってみたとも。痕跡すら見つけられなかった」
人探しは苦手だから見つかりませんでした、とは言わないだろう。
ただでさえ貴族令息であれば、手を抜かないはずだ。
わざわざ〝私〟に依頼してきているということは、彼等も何か引っかかる点があったということなのだろう。
「それにもとより、この依頼主は冒険者に頼みたかったようだ。ただ、どの冒険者が適切か知らない。俺に依頼してきたのは、その冒険者の仲介だ」
「面倒だな、お前達も」
「……まあな」
歴史や貴族、組織など様々な観点から、世間体的にはまだ冒険者のほうが下だろう。
だというのに、騎士団を押しのけて冒険者を雇いたいと言われ、なおかつ仲介を頼まれたのならば。
普通の騎士ならばプライドがボロボロになっているだろう。
騎士を誇りに思っていれば、恨みを抱いてもおかしくはない。
「頼まれてくれるか」
色々な葛藤があるだろうに、素直にそう言えるアレックスには尊敬してしまう。
まだ若いから、そのように固まった思考はないのかもしれない。
「引き受けよう」
若者の頼みを断る訳にはいかない。
私は地図を取って、了承の意を示した。
「続きのやり取りは、依頼主と直接行ってくれ」
「分かった」




