ソーマの思い
ソーマ視点
ソーマは悩んでいた。心配していた。
日々、外に出ることを促していたが、まさかあのぐうたら魔女が本当に外に出るとは、思いもしなかったのだ。
サリアほどの態度は見せなかったが、心底不安に思っていた。
だがその不安は、主人の身を案じるという意味ではない。
主人が何か、やらかさないかと懸念していたのである。
1000年間も引きこもっていた魔女が、常識を持っているとは思えなかったからだ。
だがその不安は、連れ帰ってきたダークエルフを見て安心へと変わった。
境遇はどうであれ、この世界の今を生きてきた常識人がリサの仲間になったのだ。これを使わない手はない。
「サディ、ここにいましたか」
ちょうど窓拭き掃除をしていたメイドを発見する。
先程、リサと決めたテナの侍女・サディだ。
彼女が拭き上げたであろう窓は、新品のようにピカピカになっている。
「シツジ長」
「仕事です。道中で説明をします」
「はいです」
サディはテキパキと掃除道具を片付けると、待たせたと言う感覚を与えぬうちにソーマの前に戻った。
ソーマはサディを連れて、説明をしながら工房へと戻る。
リサが外出をすることになったのは、もう既に使用人の全員が知っている。
だからリサが新たな〝家族〟を連れ帰ったこと。
家族は特殊な事情が伴っていること。
その家族の侍女を、サディが担当すること。
――それらを簡潔に説明した。
「なるほどです。リサさまのタイセツなご家族の侍女、カンペキにこなしてみせるです」
「期待していますよ。必要なことがあれば、なんでも言ってくださいね」
「ありがとです」
そんな会話をしていれば、二人は工房に戻ってきていた。
中からは楽しそうなセイラの声が聞こえる。普段ならば作ることのない服に、興奮しているようだ。
「セイラ。どうですか」
「ソーマさま、それにサディさまも。ええ、じゅんちょうです。ひとまず、1セットずつつくりました」
セイラは特殊な使用人の一人。
服に特化した彼女は、人間とはかけ離れたスピードで服を作ることができる。
時間がかかるときもあるが、それは彼女の職人魂が騒いでいるからだ。
納得の一品が出来るまで、時間をかけてじっくりと作っているためである。
「本当に凄いです……。見たことのないスピードで作られて……!」
「ありがとうございます」
テナは今、新しい服を着ていた。ゆったりとした可愛らしいワンピースだ。
「お似合いです、テナお嬢様」
「あ、ありがとうございます!」
「こんなときに申し訳ないのですが、お願いがあります」
ソーマが言うと、テナは身構えたように顔色を変えた。強張ったとも言うべきだろうか。
ほしびと達の表情がわからない分、彼等の言葉がより重く感じるのだろう。
彼もそれを理解していた。だから重く受け止めてくれて、良かったとも思っている。
これから言うことは、彼――彼等使用人にとって、大切なことなのだ。
「『リサ様の失言・失態を訂正する役割』を、担ってください」
「えぇっと……?」
「あの方は今の世界に対しての、常識と道徳がありません。それに羽よりも口が軽い。思ったことをべらべらと吐き出します」
「あ、あの……?」
テナは困惑しているが、ソーマはつらつらと用件を述べていく。
「失礼ですが、金銭感覚や常識に関しての知識は?」
「い、一応、前のチームでは、金銭管理もしていました……」
「十分です」
だが問題となるのは、知識よりも彼女の性格だ。
詳しいことは聞いていないが、見た目からどんな環境にいたのかは推測できる。
おどおどとした口調からして、いい職場でなかったのは確かだ。
そんな消極的な彼女が、リサの言葉に口を挟めるのだろうか、と。
「……でも、私にそんな大役が……」
「あなたがきちんとリサ様を制止してくだされば、あの方が恥をかかずに済むのです」
――これは一種の、脅しだ。
テナの一言の有無で、リサの印象が変わるのだと脅している。
だから助けてくれたリサに感謝を示したいのであれば、覚悟を決めて口を挟めと。
「……わ、分かりました。そのお役目、こなしてみせます!」
「お願いしますね。……あぁ、それと」
ソーマは連れてきていたサディを紹介した。サディは洗練された所作で頭を下げる。
「はじめましてです、おじょうさま。サディと言うです」
「こ、こんにちは……!」
「ではサディ、後は頼みましたよ。セイラからも色々と指示を受けてくださいね」
「リョウカイです」
――あとは、女性同士で上手くやってくれるでしょう。
ソーマはその考えのもと、工房を立ち去った。
テナに関しても、使用人達に通達しなければならない。今までリサのみだった屋敷の体制も、見直さなければ。
数百年ぶりだ、ここまで忙しいのは。
もちろん、リサは豪快な女主人であるため、毎日が忙しい。
魔法使いのほしびとと、研究室を吹き飛ばすこともある。
本を読む気分になったリサが、本を放り出したまま図書室で眠りこける日もある。
サリアとドレスパーティーなんかを行った日には、脱ぎ散らかした衣服を片付けつつ、彼女達を叱咤しなければならない日だって。
それとは別の忙しさが、今後やって来るだろう。
リサの動き方も、数百年とは違うものになっていくはずだ。
忙しくなるはずなのに、ソーマの心の中には確かに楽しみもあった。
「ふふふっ、私も結局は、リサ様に作られたものということなのですねぇ……」
主人に思考が似てしまったことを、少しばかり嬉しく思うのだった。
第二章までお付き合い頂きありがとうございます。
早いことにもう3月になってしまっていますね。
第三章ではもっと話が動く予定です。
相変わらず更新は遅めですが、よろしければ、どうぞまたお付き合いくださいませ。




