我が家と新たな家族。2
「ではテナおじょうさまを、しばらくかりますね」
「ああ。終わったらダイニングに寄越してくれ」
「おおくりしますね」
テナを工房に残し、私とソーマだけでダイニングに向かう。
今日の夕食のメニューは聞いていないが、うちの料理人は腕がいい。テナもきっと気に入るはずだ。
「リサ様、テナ様の侍女を選んだ方がよろしいのでは」
ソーマがふと提案する。たしかにその通りだ。
ベテランを付けるのもいいが、若いほしびとの方がテナと接しやすいだろう。
それに殆どがベテランレベルの腕を持つ。誰を付けても支障はない。
今いる使用人の中で誰が適任か、頭の中を巡らせる。
基本的に調理担当など、個別で役割が振られていない限りは、メイドは誰もが手隙だ。
私が暇な時にほしびとを増やしているせいで、手持ち無沙汰なメイドも多い。
若く、仕事のできるメイドは――
「サディはどうだ」
「あの子ですか。まあ、言葉遣いが少々気になりますが……良案かと」
「ではそのように。サディには、工房に迎えに行き、自己紹介を済ませるよう伝えてくれ。私はひとりでダイニングに向かうよ」
「畏まりました」
ソーマが足早に立ち去ると、広く長い廊下に私一人が残った。
ここまで屋敷の人員が動いたのはいつぶりだろう。
たった一日の外出で、こんなにも変化が訪れるだなんて。
しかもそれが、嫌だとも感じていない。
ただただ休みたくて引きこもっていた1000年だったが、もっと早く外に出るべきだったのかもしれないな。
廊下を行き、ダイニングに到着すると、メイド数名が部屋を清掃している最中だった。
メイドのほしびと達は私を見るなり、喜びをあらわにした。
「おかえりなさいませ」
「本日は楽しかったですか、リサ様」
「充実した日だったよ」
「何よりですわ」
「お疲れでしょうから、今日は癒し効果のあるお風呂をご用意しますね」
私の外出の話は、どの使用人にも伝わっているようだ。
だがこの様子からして、テナのことはまだ伝わっていないのだろう。
エントランスには他に使用人がいなかったし、見聞きする者も伝達する者もいない。
「後々ソーマから伝えられると思うが、屋敷に一人、家族が増える」
「まあ!」
「素敵ですわ」
きゃあきゃあと楽しそうな声が響く。
私がテナとの出来事を簡単に語ると、ほしびと達は顔の星をチカチカとさせながら、話を聞いていた。
同情、感動、愛情。様々な感情を、短い時間で何度も見せている。
「こうしちゃ居られないわ。早くここの掃除を済ませて、お嬢様のお部屋を整えにいきましょ!」
「そうですね!」
メイド達はテキパキと掃除をこなし、足早に去っていった。
私が住みやすい環境のためのほしびとなだけあって、私の意見を完全に否定する存在は一人としていない。
それがテナを否定しないことにも繋がるのは、有難いことだ。
そもそも奴隷や種族の優劣など、彼らの中にはないのだろう。
あったとして、慈悲の心くらいだ。
命が限られた、定命の者をいたわる心。慈しむ心。
だからこそ、テナの待遇を聞いた彼女達は、より良い屋敷にしようと動いている。
「楽しみだな」
「今日の夕飯かい?」
「スーザン」
キッチンワゴンを押して、一人のほしびとが入ってきた。
他のほしびとと違って恰幅のいい、女性のほしびとだ。エプロンがよく似合っている。
彼女こそがスーザン。ほしびとの中でも、料理を担当する。
ソーマに次いで、経歴の長い使用人でもある。
早い段階で、料理に精通した使用人が欲しかったのだ。
「そうだな、夕飯も楽しみだ」
「リサ様が外出するって言うからね。疲れが取れて、元気が出るものをたくさん作ったよ」
並べられていく食事は美味しそうなものばかりだ。スーザンの料理に外れなどなく、何を食べても頬が落ちるほど。
私の近くの席には、テナ用のあっさりとした料理が並んでいく。
ここ数百年、体調を崩したことはなかったから、滅多に見ない料理だ。
これはこれで美味しそうだ。
「お嬢様にも会いたいけど、まだ仕事が残ってるからねえ。あたしはここで失礼するよ」
「あぁ。時間のあるときに話しかけてやってくれ」
「もちろんさ」
スーザンが立ち去ってから暫くして、テナとサディ、そしてソーマがやって来た。
あのセイラの興奮具合から、もっと時間がかかると思っていたが、早々に切り上げたらしい。
それか、集中して作りたいから、ある程度の服を渡して立ち去るよう頼んだのだろう。
「あの、どうでしょうか……」
テナが身にまとっているのは、軽く締め付けのない部屋着。
これからは食事をして、風呂に入り、寝るだけだ。だからよそ行きの服ではなかった。
まだ肉付きが悪いこともあり、体型をはっきりと出さない衣服。
セイラなりの気遣いなのだろう。
「ちゃんと可愛いぞ。似合っている」
「……あっ、ありがとうございます……」
「さ、食事だ」
「はい」
それから、テナと食事をして、軽く会話を交わす。
彼女が気を許すまでは過去は深堀りせず、世界の常識や、冒険者に関しての知識など、当たり障りない会話を続けた。
食事を終えれば、部屋へ案内だ。ここからはサディへバトンを渡す。
私も自室へと戻り、サリアによる手入れを受けてから眠りについた。




