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さすがに1000年は飽きたから。~引きこもりを謳歌した最強魔女は、外に出てみることにした~  作者: ボヌ無音
第二章 魔女、冒険者と貰い物。

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我が家と新たな家族。1

 私は廊下でブラムウェルと解散すると、すぐに瞬間移動を行った。

 今回は間違いなく、同行者には保護の魔法を付与する。

 お陰で到着時に、少女が移動酔いになることはなかった。


 エントランスに瞬間移動してくると、すぐさまソーマが出迎えてくれた。

 いつもは小言ばかりな執事だが、きちんと仕事をしてくれる優秀なほしびとである。


「おかえりなさいませ、リサ様」

「ただいま」

「おや、そちらは……」

「ああ、この子はな――」


 連れてきた少女の説明をしようとした時だった。

 屋敷の奥から、地鳴りにも似た音が響く。

 これは――サリアの走る音だ。


「リーサーさー……まッッッ」


 最後の一音と同時に、サリアは地を蹴り上げた。床が抜けそうなほどの大きな音は、エントランスに響き渡っている。

 サリアの体が、勢いをつけて飛び出してくる。タックルにも似たそれは、私への愛情表現を最大級に見せている。

 嬉しい気持ちはあるのだが、ここは回避させてもらおう。


 ひょい、と避けると壁にぶつかったサリアの間抜けな声が聞こえた。

 ほしびとは頑丈だから、放置しておいても問題ないだろう。


「この子はわけあって拾った元奴隷だ」

「左様ですか。少し体調を見ても?」

「ああ」


 ソーマが手を差し出すと、少女はびくりと怯えた。奴隷時代の名残だろうが、原因はもっと別の場所にあるだろう。

 少女の目が、明らかにソーマの顔を見ていたから。


 ほしびと達には顔がない。

 視覚、聴覚、嗅覚、味覚を持っているが、それを体内に取り込む入口が存在しない。

 代わりに輝く星が綺麗だからそのままにしていたが、私以外に出くわすのを考えていなかった。

 さて、どう説明しようか。


「……あー、こいつらはほしびとと言って、魔族のようなもので……」

「そうなのですね……!」


 いや、あっさり納得したよ。魔族ってこんな感じなのか。


「では改めて、少しみさせていただきますね」


 私の力技とは違って、ソーマはきちんと体を見て診察する。

 目、首、どこか腫れていないか。脈。喉。

 私が一度しか目を通していない、医療の本をきちんと理解するまで読んだのだろう。


「……うん。大丈夫ですね。リサ様の魔法がちゃんと効いています」

「当たり前だ」

「ただ、傷が癒えたのみで、栄養失調や体重などは戻っていませんね。ゆっくりと経過を見ましょう。――サリア」

「――はいッ!」


 視界の外からサリアがいきなり飛び込んでくる。

 あんな狂愛を向けるサリアだが、きちんとメイドとしても働けるのだ。


 少女はまだサリアの奇行に慣れないようで――当然だ――サリアの一挙一動に、その都度びくびくと怯えている。

 仕方がないので肩を抱き、ぽんぽんとなだめてやる。

 ……ソーマの言う通り、抱きしめた肩は細いままだ。一日二日で治るものではないが、人間とは脆いものだな。

 私も人間だったのに、他人事のようだ。


「スーザンに事情を説明してきてください。聞いていましたよね」

「もちろんです。では失礼します」


 サリアは綺麗に頭を下げてお辞儀をする。主人への行いが無かったかのような、美しい所作だ。

 ソーマからの指示を受け取ったサリアは、そのままこの場所を立ち去っていった。

 仕事ができるタイプの狂人である。


「それで、リサ様。お嬢様のお名前は?」

「そういえば知らないな」

「あのですねぇ……」


 顔がないのに手に取るように分かるぞ、ソーマの表情が。

 呆れた顔が、見える見える。


 だがうっかりしていた。助けるのに必死で、名前も素性も何かも知らない。


「あの……テナ、と申します」

「テナ様ですね。失礼ですが、ファミリーネームは?」

「……ありません」


 それはそうだろう。奴隷が苗字を持つわけがない。

 持っているものもいるだろうが、名乗らないようにと釘を刺されるはず。

 これから誰かの所有物になる商品に、家族などいらない。


 むしろ名がついているものを好んで収集する、馬鹿も居そうだが。


「では今後〝ソーヤマ〟を名乗るといい」

「えっ……それって……」

「私の名を以て、お前の全てを保護、責任の保証をしよう」


 ソーヤマの名前は珍しい。

 と言うか居ないはずだ。異世界から転移してこない限りは。

 だから被ることなどない。ソーヤマの姓で何かをすれば、必ず私に行き着く。

 保護するにも十分、責任を取るのにも十分機能する。


 私が名を名乗っていいと認めるのならば、使用人達は丁重に扱うだろう。

 ――もちろん、誰一人として客人を無下にするような使用人はいないが。


「承知しました。ではテナお嬢様の、採寸を致しましょうか」

「頼む」

「はっ、はい!」


 私達はエントランスを抜けて、移動を開始した。


 ――この屋敷には、多くの使用人がいる。

 私に対しては多すぎるほどの使用人は、長い年月で徐々に増やした人員だ。


 主な雑務や使用人の管理を行うソーマのような執事から、私の侍女でもあるサリア。

 細々とした清掃や、使用人の補助を行うメイドや執事。

 ほかにも調理担当や、騎士、魔法使い、屋敷の工事担当者など様々だ。


 中には衣服担当もいる。

 元々あった私の服とは別に、使用人の作業着や私服、時には小物や装備も作ることがある。


 私達はその担当者――セイラの工房に到着した。


「セイラ。仕事ですよ」

「ソーマさま」


 ひょこ、と顔出したのは背丈の低い少女、セイラ。


 ほしびとだけあって顔のパーツはもちろん存在しないが、身長の低さから愛らしさがにじみ出る。

 セイラは使用人の中でも最も小さい。140センチ程度しかないだろう。

 だが年齢は比較的高く、400歳を超えていた。中堅といったところだ。


「リサさまも。それに……」


 セイラの顔がテナに向く。ジッと見つめられていると分かったテナは、肩を揺らした。


「彼女はテナ・ソーヤマ。我が名をもって保護した少女だ」

「では、テナおじょうさまですね」

「そうなる。今日はテナの衣服を依頼しにした」

「まあ!」


 セイラの顔の星が、著しく動く。彼女の感情が激しく揺れた証拠だ。


 セイラはここ数百年、私と使用人の服しか作っていない。

 同じ体型。似たような服。代わり映えのないデザイン。――正直、飽きていたと思う。

 いい子だから口にはしなかったが、作業化していたせいでつまらなく感じていただろう。


 一方で、今回依頼したテナは私と体型が違う。

 種族も違えば、似合う雰囲気、色味もまた異なる。

 セイラにとって、いい刺激になるはずだ。


「まずは、さいすんです!」

「頼む。幾つか量を指定してもいいか」

「うけたまわります」

「とりあえず――私服が4、戦闘用が5、就寝用が3、念の為余所行きの正装を2、あとは適当に小物があればいい」


 必要となればまた追加すればいい話だ。

 それにこれから標準的な体型へと持っていかせたいし、あまり多く用意しても無駄になる。


「セイラ、体型が変わる可能性もありますからね」

「わかりました」

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