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さすがに1000年は飽きたから。~引きこもりを謳歌した最強魔女は、外に出てみることにした~  作者: ボヌ無音
第二章 魔女、冒険者と貰い物。

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入手。

「こ、こちらになりますぅ……」


 受付にいくと、ブルブルと震えた先程の受付嬢が対応してくれた。

 スタッフ間では情報共有が済んでいるのだろう。視線がやや痛い。

 たった一日で、1000年では無かったほどの視線を浴びている。


「おめでとうございます、リサ様。このまま依頼を引き受けますか?」

「あー……」


 窓の外を見やる。もうすっかり暗い。

 正直、腹も空いているしこのまま帰りたい。


 ……よし、奴隷娘を回収して、家に帰って飯を食おう。


「帰る」

「承知しました。お疲れでしょうから、馬車を――」

「ブラムウェル、手を取れ」

「はい」


 私が手を差し出すと、なんの疑問も持たずにそこへ手を乗せた。まるで犬の『お手』である。

 絶対的な信頼が怖い。


 さて、馬車による優雅な道のりも結構だが、私は早く家に帰りたい。

 帰りたいと思ったら家が恋しくなり始めたし、お腹も鳴り始めた。

 馬車を呼ぶのはいいが、待ち時間も道のりも煩わしい。


 であれば、瞬間移動をすればいい話だ。


 私は〈神の歩み〉を発動させた。

 よく使う神域魔法のひとつ。行ったことのある場所に、好きなように瞬時に移動できる便利な魔法だ。

 一瞬にして見ている世界は変わり、ギルドの受付からホテルのフロントへ移動した。


「な、……こ、これは……」

「おっと、大丈夫か」


 おそらく初めてであろう瞬間移動で、ブラムウェルは体を上手く支えられていないようだ。

 よたよたとふらつく彼を、私は抱きとめる。


「も、申し訳ありません……、ぉえっ……」

「酔ったか」


 一言添えるべきだったな。慣れていない人間の体は、瞬間移動に耐えられても気分が悪くなることがあるようだ。

 次から人間と共に飛ぶ場合は、保護の魔法を掛けてやるべきだな。


 私は簡単な魔法を付与してやり、気持ち悪さを取り払う。

 今にも吐きそうだったブラムウェルは、徐々に顔色が正常に戻って行った。


「すまん、先に言うべきだった。今のは瞬時に移動が可能な魔法だ。体が耐えきれなかったようだな」

「とんでもない! 貴重な体験でした……! ありがとうございます!」


 こんな状態にされていてまで、感謝するとは筋金入りだな……。


「れ、レイナー様!? 今、急に現れましたか!?」

「師匠のお力によるものです」

「や、やはり……!」


 やめろ。キラキラとした目を、二人して送るんじゃない。

 ブラムウェルが経営しているホテルで働くだけあって、思考も似たような人間を選んでいるのだろうか。


 そんなことよりも私は腹が減っているんだ。

 早くあの子を回収して、帰りたい。

 こんなことなら、部屋に直接転移するべきだったか。……いや、部屋から居ないはずの者が出てきたら、驚いてしまうだろう。


「長話は苦手だ。長くなるなら先に行くぞ」

「あっ、お待ちください!」




 例のスイートルームに到着すると、部屋の前には受付と同じ服装をした青年が立っていた。

 どう見てもここのスタッフだ。だが、どの部屋にも部屋の前に立っている者はいなかった。

 監視か何かだろうか。


「おい、誰だお前」

「リサ様、落ち着いてください」


 声を掛けると、スタッフよりも先にブラムウェルに叱られてしまった。

 あまりにも喧嘩腰すぎたのだろう。私も焦っていた。


「はい? 何方で――はっ、レイナー様!?」

「ご苦労さまです。あなたはなぜこちらに?」

「はい。上長の指示で、お休みの方のお手伝いと、人が近づかぬように監視をしておりました」


 つまり、中の娘の保護をしてくれていたわけだ。

 訳も知らない貴族が寄ってきて、彼女を怖がらせないように。

 貴族御用達のホテルで、奴隷に対してまでそんな丁寧な対応をしてくれるとは。

 ブラムウェルのホテルを、少し侮っていたようだ。


「そうですか、ありがとうございます。もう連れて行きますので、私達が立ち去ったあとの対応はお願いしますね」

「お任せ下さい」

「なあ、中の少女の食事や様子はどうだった」

「はい。あまり食事を取らない生活をされていたようですので、胃に優しいものをお出ししました。着替えも幾つかお渡しし、少し眠っているお時間もあったようです」

「そうか。ありがとう」


 ブラムウェルの指示だろうが、ここまでしてくれるとは。

 奴は「何も要らない」と言いそうだが、借りができてしまったな。

 ここはひとつ、弟子を育てるという手段で返させてもらおう。


「連れてくる」

「私はこちらで待機していますね」

「ああ」


 私だけが部屋へと入る。

 部屋はカーテンが締め切っていて、真っ暗だった。

 寝ているのか、と思ったが――部屋に踏み込んだ瞬間、ベッドサイドでガタガタと音がする。

 そちらを見遣れば、ベッドに隠れた少女がいた。ベッド越しにこちらを覗き、様子を伺っていた。


「私だ」

「……あ」


 声を聞き顔を見れば、そっと姿を見せてくれた。


 ぼろきれはどこへやら。ホテルが用意した衣服を纏っている。

 村娘が着ていそうな、シンプルなワンピースだった。

 風呂にも入れられたのか、肌も髪も汚れていない。

 こうして見ると、整った顔をしている。


「我が家へ帰るぞ」

「……は、はい」


 少女を連れて廊下に出ると、既にスタッフは居なくなっていた。

 残っていたのはブラムウェルだけだ。


「このまま帰られますか」

「ああ」

「分かりました。……明日は、私も時間をあまり作れません。申し訳ないですが、案内はここまでになります」

「充分助かった」


 そうだ、この人間は偉い奴だった。

 よく一日丸々、付き合ってくれたものだ。

 便利すぎて明日も連れ回したいが、流石にそれはやめておこう。

 ブラムウェルにも仕事ややるべき物事が存在するだろうし、老いぼれに付き合わせるのは可哀想だ。


「何かありましたら、ホテルに言いつけください」

「ああ」

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