冒険者とは。2
さてさて。防がれっぱなしでは、弟子の顔が立たない。
怪我をさせない程度に勝って、終わりにしようか。
「では――〈二重身〉」
魔法の発動により、私が二人に増える。
二人と言っても思考から何から同じというわけではないため、ある程度の指示は必要だ。
オカルトで聞いていたような本人に成り代われるほど、あまり万能な魔法ではないのだ。
とはいえ試験程度ならば、切り抜けられる。
さて、まずはどうしてやろうか。
頭の良さそうなお姫様には、早々に消えてもらったほうが良いだろう。
いまのところ指揮を取っているのは、リーダーであるエドガーだが――いずれ彼女が出しゃばってきた場合、平凡である私は敗北してしまうだろう。
「あの白髪女を引き剥がせ」
『分かった』
分身は真っ先に、フィリスの方へと走った。
私もドッペルゲンガーも、身体能力は抜き出て良いというわけではない。
しかし、魔法をそれぞれ三度も受けた彼らは、心身ともに疲弊している。真横を走り抜けてもすぐに対応ができなかった。
『〈生ける檻〉』
「きゃあっ!?」
どこからともなく現れた太いツタが、逃げる時間も与えぬ一瞬で檻を作る。
それだけではなくその檻は、隙間すらなかった。
フィリスを完全に覆い隠し、姿を見えなくさせた。
調整によっては普通の檻を作成することが出来る。人間が通れない隙間を生んで、こちらを見れるようにすることだって。
しかし外が見える状況では、フィリスに援護を許可するようなもの。
だから視覚情報を奪うためにも、外界を遮断する。
なにも戦闘不能にしろ、とは言われていない。
戦いに参加できない状況を生み出し、強制的に戦闘から排除すれば良い。
それにこの檻は上級魔法とはいえ、即座に出てくることは不可能だ。ある程度は攻撃への耐性がある。
それこそ、私レベルの化物では無い限り。
「なっ……! フィリス!」
「だ、大丈夫ですわ! 怪我はありません!」
「エドガー、私が攻撃魔法で破ってみるわ!」
「危険だ。お前の魔法じゃ、中のフィリスごとやられかねない」
「そうね……。じゃああの、分身を相手するわね」
「そうだな、頼む。俺は――こいつを封じる!」
そう言うと、エドガーが飛び出してきた。
固まっていても狙われるだけだと判断したのだろうか。
残念だが、私は動いている的にもきちんと当てることができる。
ここは彼の戦闘能力を見るという意味でも、少し遊んでみようか。
「ハァッ!」
エドガーは急激に距離を詰めると、狂いのない剣さばきで私を狙った。
人間としては速いほうだろう。魔獣、普通の人間であれば、見切ることすら出来ない。
超人の域に達しているとも言える。
剣を振る音が異様なほどに軽い。洗練された動きだった。
近接戦闘はあまり得意とは言えないので、力を残すためにも最低限の動きで避ける。
最悪、当たってしまっても問題ないのだが、人間たちは驚いてしまう。
「くっ、やるな!」
「どうも」
私はエドガーの剣をギリギリで回避しながら、後方に目をやる。
ちょこまかと動くドッペルゲンガーに苦戦するプリシラ。
檻の内側から攻撃するフィリスに、外側から攻撃するダレン。
遠方からエドガーを援護するべく、弓を放つニック。
あちらはあちらで、色々と試行錯誤してくれているようだ。戦いがいある。
さて、次は誰を封じようか。
……そうだな、盾役なんていいだろう。エドガーに合流されたら困る。
ではどうやって、動きを封じてやろうか。同じ魔法で虐めてやってもいいが、味気がない。
せっかく相手は本気を出せと言ってきているのだ。
しかしそのまま盾役を狙うのは面白くない。
私よりも弱いとはいえ、彼等は上位に食い込む実力者たちだ。今この瞬間も、様々な作戦を練っているはず。
それに〝現場経験〟から言えば、彼等のほうが上。
だから何かで気を逸らす必要がある。となると――
「分身、避けていないで魔法使いの女をなんとかしろ」
『了解』
「プリシラ! 気をつけろ!」
「分かってるわよ!」
もちろん、盾役を狙うと言ったからこれはブラフだ。
注意がプリシラに向いているすきに、盾役の足元に水を生成する。
彼が気づくよりも先に、その水は大きく膨れ上がった。
包み込むように増えた水は、彼の武器を含む腕までを飲み込みんだ。
がっちりと水で拘束された盾役は動けなくなり、一瞬の出来事で頭が追いつかないのか、まだ表情は変わらないままだ。
それとも、単純に冷静なのだろうか。
当たり前だが、顔まで覆うと死んでしまうため、腕、もしくは肩までが限界だ。
拘束するにはこの程度で十分である。
「……おお、これは……」
「ダレン!?」
「問題ない。ただ、俺は〝死んだ〟」
「……くっ、残るは三人か……」
はてさて、本当にそうだろうか。
「きゃあ!」
魔法特化だとは分かっていたが、やはり単純な体術で蹂躙できる。
普通の女性よりは体力はあるが、近接戦闘は得意ではないようだ。
分身も私からの命令を受けたことで、本格的にプリシラの相手を開始していた。
ダレンに意識が向いた一瞬で、彼女に体当たりをして体勢を崩させ、そのまま馬乗りになる。
トドメこそはささなかったが、これで彼女も離脱といえる。
「プリシラ!」
「だ、大丈夫……」
仲間ばかりを気にしていていいのだろうか。いい人なのは分かった。
だが、肝心の私への対応が疎かになっている。
あっちを見たり、こっちを見たり、驚いたり忙しいが――私への剣が緩くなっている。
ならばちゃっちゃと終わらせてしまおうか。
どうせこの後、魔法を見まくったブラムウェルからの質問攻めにあうのだろうし。
そう思うと、私は〈忍び寄る影〉を発動した。
その名の通り、隠密に特化した魔法である。
様々な〝影〟に潜むことが出来るこの魔法は、日中であれば自身や他人の影の中、夜であればどこにでも隠れられる。
影を攻撃されると解除される欠点はあるが、今この混乱している状況で、床を見て「ここだ!」と的確に攻撃を入れられるわけもなく。
「ちょ、おい! 消えたぜ!?」
「おいおい……」
視線がプリシラに向いた一瞬で、私は影の中に隠れた。
再び振り向けばそこに私がいないのだから、彼等が驚くのも必然。
床を見れば影が動いているので、バレバレなのが昼間における欠点だ。
だからばれないうちに、さっさと決めてしまうのが吉。
少々急いで、私はニックへと近付いた。
ニックも変わらずメンバーを心配し、私への対処どころではなくなっている。
そっと真後ろに姿を現し、首元に人差し指を突きつけた。
「動くな」
「……勘弁してくれよ」
ニックはそっと両手を上げ、降参の意思を示している。
「……ッ、ニック!」
「さて、どうする。エドガー・ワイル」
「……。…………降参する」
「懸命だ」
私は例のごとく、指を鳴らす。
指を鳴らすと、周囲に展開されていた様々な魔法が消え去った。
檻は消え、水もなくなった。ドッペルゲンガーも解除される。
それと同時に、〈癒やしの女神の微笑み〉を付与する。
神域魔法の、魔力と体力を回復する魔法だ。
これからも彼等は試験官として戦わなければならない。
だから私の戦いで消耗したものを、取り戻してやった。遊びに付き合ってくれたお礼でも有る。
「すごい……」
「なんでしょう、疲れが……消えました?」
「魔力も回復している、のか?」
「では残りも頼んだ、試験官殿」
そう言って私は、戦闘用の舞台をおりた。




