冒険者とは。1
「それは俺も気になっていた。何故、的あてで手を抜いた?」
にゅ、と急に出てきたのは、エドガーだった。
最初の登場と言い、急に現れる男だな。比較的体躯の良い男のくせに、忍び足も得意と来たか。
なんだ、見抜いていないと思ったのに。実は気付いていたのか。
案外人間は察しが良いらしい。私の認識を改めないとならない。
それに試験官にバレていたのならば、もう諦めて吐露するしかないな。
「私は別に冒険者になりたいわけじゃない。身分を証明する物が欲しいだけ」
はっきりとそう言うと、ウィッシュのメンバーだけではなく、その場で休んでいた殆どがざわつき始めた。
まるで私が悪いかのように、睨みつけたり、ヒソヒソと言い合ったりしている。
苛立ちを隠さないようで、鈍感な私でも殺意に似た憎悪が籠もってるのは分かった。
「……リサ様。中には何度も、試験に落ちている者もおりますので」
「あー……」
しまった、と頬をかいた。
確かにそうだ。どんな試験であっても、手を抜いても合格できると宣言すれば、喧嘩を売っているようにしか聞こえない。
……私はここまで、考えの及ばない無神経だっただろうか。
もう人間だった頃の性格は殆ど消えているようなものだ。
だって人間として過ごしていた時間と、この世界で魔法使いとして生活してきた時間は圧倒的に違う。
転生直後とは性格も変わってきている自覚はあったが、もう少し人間に寄り添うべきだな。
「悪かったよ。じゃあ次の試験は、なるべく力を見せるようにしよう」
「そうしてくれ」
しばらくして、試験が再開された。
あんな雰囲気ではあったものの、各々がベストを尽くせるように動いていた。
試験中は〝雑念〟を消すように立ち回り、舞台から降りて来くれば私を睨む。
完全に先程のくだりで、私は受験者全員を敵に回したようだ。
「――次、リサ・ソーヤマ!」
私の番が来た。舞台へと向かうが、ちくちくと視線が痛い。
中には私を『イキっている女』と見ている人も居るだろう。女で一人、ということも相まって反論できない偏見だ。
こんなに注目されるのは想定外なんだがなぁ。
「手加減は不要だ」
「あー、はは……」
私は苦笑いを零す。
本気を出したら〝次元〟が〝消える〟のだが、構わないのだろうか。
これが存在する次元が消えれば、私は一人ぼっちで虚無の空間を漂うことになる。
彼らは死すら認識できず、この世界は崩壊し、誰の記憶にも残らない終わりを迎えるというのに。
ま、よくないから加減をするがな。
「じゃ、行くぞ」
「……来い」
「〈凍てつく雨〉」
〈凍てつく雨〉は上級魔法である。
効果は〈聖なる雨〉の氷版と言ったところだ。
オシャレに〝雨〟を名乗っているが、ただの例えに過ぎない。実際は該当の属性が付与された、矢が降り注ぐのみ。
「いきなり上級!?」
「……俺が受け止める」
「頼む、ダレン」
ふむ、やはりダレンという大男が盾役らしい。
その巨躯を活かした絶対的な守りと、大きいゆえに囮としても優秀なのだろう。
彼が一身に私の魔法を受けようとしているが、そうはいかない。
「――・五重」
「は?」
「なんだ?」
五重の重複魔法を唱えたことで、〈凍てつく雨〉は五倍の量となる。
見たこともない魔法の量だろう。
いや、複数名の魔法使いを相手にすれば、これくらいの量は見かけるかもしれない。
だが一人から展開された〈凍てつく雨〉は、これが最多のはずだ。
「なっ!?」
「な、何よあれ!?」
「……エドガー、流石に防げない」
「だろうな。各自で防御を取れ!」
一応、殺してはならないので、彼らの状況が整うのを待った。
エドガーの発した言葉を受けて、そろそろ発射してもいいだろう――と魔法を放つ。
場に響き渡ったのは、轟音。
雨とは思えぬ暴力的な矢の量が、彼らを襲う。
いくら上位のチームとて、それぞれが上級魔法を受けるのは厳しいだろう。
と、思っていた。
彼らは難なく防ぎ切り、〝雨が上がった〟その場所には耐えきった獅子の剣の五名が立っていた。
「ふむ。上級を一人で防げる程の能力があるのか」
想像以上に優秀なチームのようだ。
であればもう少し〝遊び〟に付き合ってもらっても、いいだろう。
こんな機会は滅多にないからな。
「〈凍てつく雨〉」
「また来るぞ!」
「――・十重」
「は!?」
十倍。つまり一人あたり、魔法を二つ受ける必要がある。
一つなら凌げたが、果たして二つはどうだろうか。
魔法自体は同じだし、他に特に強化も用いていない。
彼らなら大丈夫だとは思うが。
私は問答無用で魔法を放つ。先程とは比にならない量の魔法が降り注いだ。
「ぐっ、おおおお!」
「くそ……!」
「なんなの、これ……!」
「冗談きついぜ!」
「み、みなさん、頑張って耐えてください!」
色々と言っているが、どうやら無事に耐えきっているようだ。
矢の雨が降り注いでいるが、致命傷には至っていない。
流石は上位のチームといったところだ。




