冒険者になるために。1
「開始前から仲が良いのは結構だが、試験に集中して頂きたい」
「え、エドガー・ワイル……!」
「獅子の剣が試験官かよ、ツイてねぇ……!」
やはり影響力のある人物のようだ。
チンピラどもは何やらモゴモゴ言いながら、訓練所の中に逃げていった。
エドガー・ワイル。獅子の剣。どちらも、知らない名称だ。
奴らの様子から有名人であるのは見えているが、ブラムウェルやアレックスの説明にもなかったし、どうしたものか。
「お前も希望者か」
「そうなる」
エドガーはじっくりと私を観察した。
頭の上から、つま先まで。美女を観察しているというよりかは、戦士の技量を見ているようだ。
あまりいい気はしない。
「……冒険者を舐めないほうがいい」
はて、それはどういう意味で言ったのだろう。
彼等を弄んだことだろうか。それとも、先程の品定めからして――私が舐めた態度で冒険者登録しているとでも思ったのか。
前者であれば、一応成人しているであろう男をからかったのは悪いとは思う。
あちら側から仕掛けてきてはいるが。
後者であれば、もう少し目利きを鍛えるべきだろう。
もちろん、このエドガーとやらが。
私の実力が全てに知れ渡ってほしいわけではないが、そこまで名のしれた人物なのであれば、私の力を見抜いてほしいものだ。
「それは失礼」
「……」
私が言うと、エドガーは明らかに不快そうに眉をひそめる。
私の言動の一つ一つが気になるようだ。どう謝っても何か言われそうな雰囲気がある。
まだなにか言いたげなエドガーだったが、後ろに控えていた猫に似た美女が姿を見せた。
「エドガー、気にしてないでとっとと始めましょ」
「……そうだな。――待たせてすまなかった。これより試験を行う。魔力の検査は先程済ませたと思うので、実技試験に移る」
あの美女には感謝しないとな。エドガーが説明に入った。
チンピラが言っていた通り、彼等はこの試験での審査を行う人物たちのようだ。
「知っている者も多いと思うが、改めて自己紹介させてもらう。俺達は獅子の剣。俺はエドガー・ワイル、リーダーだ」
「プリシラ・サーチよ」
「……ダレン・アドヴァンス」
「ニック・ウィンドだぜ」
「フィリス・レイトと申します」
プリシラ・サーチ――先程の猫系美女だ。
薄紫色の瞳に、黒色の頭髪と妖艶さがより美しさを醸し出している。
流れ出る魔力からして、魔法使いだろう。
ダレン・アドヴァンス――屈強な肉体を持った大男。
エドガーもそれなりの体躯の持ち主だが、それをもはるかに超える巨躯だ。
色黒の肌、黒髪に黒目という地味な見た目だが、肉体のインパクトは尋常ではない。
盾を持っているな、彼は盾兵といったところか。
ニック・ウィンド――黄緑色の髪の毛に、黒目。異世界ではほとんどが美形だが、彼はその中でも軍を抜いている気がする。
雰囲気からして、一言で言うなら『チャラ男』という部類だろう。
その割には気配が静かだ。盗賊、暗殺などが得意な部類だろうか。
フィリス・レイト――泥臭い冒険者とは思えない、所作に洗練された雰囲気がある女。
きちんと整えられた白銀の髪に、薄緑の目が美しい。
プリシラが猫のような美女であるならば、フィリスはお姫様やヒロインの部類の美女だろう。
しかし、このチームに属しているだけあって、ただのお姫様には思えない佇まいだ。
「まじか……」
「うそ」
「獅子の剣……? ほんもの……?」
訓練所で待機していた人間たちは、口々に言う。
その誰もが獅子の剣を知っているようで、驚きや困惑を表している。
一方で獅子の剣は、そんな対応は慣れきっているようだ。自慢する様子も、厄介に対応する様子もない。
「説明を続ける。今回の試験内容は二つ。的あてと、試験官チームとの戦闘だ」
「的当ては正確性、戦闘は我々が実力を見ることで適性を測るわ。それぞれ得意な方法でやって貰って構わないわよ。両者の成績を見て考慮するから、遠距離攻撃が苦手な子も的当ては参加するようにね」
エドガーの言葉を補足するように、プリシラが続けた。
ここで実力をきちんと見分けて、ただの喧嘩が強いだけの自信家を蹴落とすようだ。
現場を見ている冒険者チームだからこそ、この試験で可否を決める事ができるのだろう。
冒険者とは命に関わる仕事でも有る。それは自分の命も、他人の命も。
だからこそトップチームである獅子の剣が、試験官として選ばれるのも頷ける。
「では、呼ばれた者からこちらへ来るように。まずは――ウィッシュから!」
呼ばれたのは三人の少女。ウィッシュというのはチーム名のようだ。
まだ若く、現代日本で言うなら……そう、中高生くらいだったか。
そんな若い少女達が、危険な冒険者になろうとしている。
前の世界では考えられない。少なくとも、住んでいた国では。
書物でこの世界と元の世界との違いは理解していたが、1000年越しにこうしてきちんと見ることになるとは。
――というか、1000年も経ってもあまり変わっていないんだな、人類。
そんなことを思いながら、私は試験用の的を見た。
的は人数分用意されており、狙う位置は数メートルほどの距離がある。
「ふぁ、火炎!」
「風切り!」
「……ふっ!」
三人のうち、二人が魔法を放った。最後の一人は弓矢を用いていた。
火炎は外れたが、風切りは的を真っ二つにした。お見事。
矢は真ん中から少し外れた場所に刺さり、悪くない。
最初の一人は覚束ない様子だったが、他の二人は慣れているようだ。
これが初めてというわけでもないのだろう。
「クッソー、ズレた。クララもどんまい!」
「うぇーん、ごめんね……」
「良いよ。攻撃は苦手でしょ」
「うぅ……」
「――次の者!」
次々に、この場にいる受験者が呼ばれていく。
誰もが悪くない成績を残しており、この試験は楽勝と見た。
あのチンピラですら苦戦しつつも、的になんとか当てている。
「次、リサ・ソーヤマ!」
おっと、気付けば私の番のようだ。




