第17話 林間学校開幕!
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「ねえ見て琴乃! 湖メッチャきれいじゃない!?」
「ホントだ! すっごい透き通ってる!」
バスから見えた光景に思わず感嘆の声を上げた私たちがいるのは神奈川県にある某キャンプ場。
湖のほとりにあるこのキャンプ場は古くから大量の学生を受け入れている林間学校の定番スポット。
毎年この時期になると大量の団体客が来てくれるのでとてもありがたく、年々いろいろな設備に手を入れているとかいないとか。(ホムペに書いてあった)
「お、今魚撥ねた。なあみんな、設営後の自由行動で釣りしないか?」
「いいですなあ武藤氏。のんびり釣りを楽しむ……それもまた一興」
「いやいや、それよりウェイクボードしようぜ。湖を疾走するの楽しそうじゃん」
「おいおい早川、俺たちはウェイクボードできないだろ。そもそもモーターボートが借りられないじゃん」
「なぁに、モーターボートが使えなくても、俺達はアヒルさんポートがあるじゃないか。脚の筋肉がぶっ壊れるくらい全力で漕げばギリボードができる――」
「「「「ないない」」」」
早川以外の全員でツッコミを入れた。
そんなスピードの出るアヒルさんボート怖いって。
「そんなこと言うなよお前ら! 諦めんなよ! 人間気合と根性があれば、大体のことはできるもんだぞ」
「いや、気合と根性があっても物理的に無理だから」
「っていうか私ら気合も根性も自身ないし?」
「そもそも水の中に入ることも許可されておりませぬぞ早川氏」
「ってわけだから諦めようか早川くん」
「チクショーォォォォッ!」
あはははははは!
あー、楽しい。
クラスメイト同士の何気ない会話なのに、それがひたすら楽しい。
他の班も同様、メンバー同士でこれから始まる二泊三日への想いを馳せて、楽しそうに会話している。
仲のいい友達と、好きな人と、一緒の班で行動できる。
中学時代にはできなかった思い出いっぱい作るぞーっ!
あー、早くキャンプ場に着かないかなあ?
「………………チッ」
「………………楽しそうにしやがって」
「………………だる」
基本的に楽しそうにしているクラスメイトたちの中、袴田たちはつまらなそうに窓の外を見つめていた。
☆
「よしお前ら、今からテントを渡すから順番に来い。男子は三人用、女子は二人用のテントだ。建て方は中に入っている説明書を見ればわかると思うが、分からなかったら周囲の誰かに聞くように。決して自分の判断で適当に建てるんじゃないぞ? 風で飛ばされても知らないからな?」
バスから降りて点呼を取った後、先生から三日間の住処を渡される。
愛花と一緒にテントを組み上げ、私たちは入口全開で寝そべった。
「最近のテントってすっごい簡単に組めるんだねぇ」
「だねぇ……マンガじゃもっと難しそうに見えたんだけどねぇ」
こんなにお手軽だとソロキャンが流行るわけだ。
「よしっ、テントの設営も終わったし、そろそろご飯作ろっか」
今の時刻はお昼ちょい過ぎ。
普通にお腹ペコペコだ。
ご飯完成までの繋ぎに、私は持ってきたお菓子を軽くつまみ、先生の元に移動。
宅配便で送った食材と紙食器を受け取り、班のメンバーを呼んで炊事場へ。
野菜と調理器具を水洗いして昼食を作る。
「宿木さん、何作るの?」
「特製野菜サンド。めっちゃ美味しいからぜひ食べてよ」
「カレーは?」
「それは夕飯」
「俺、生野菜ちょっと苦手なんだけど……」
「子どもみたいなこと言わないの。大きくなれないわよ?」
「いやぁ、大谷ほどじゃないけど俺結構大きいほうじゃないかな?」
「屁理屈言ってもだーめ。ちゃんと美味しく作るから。ね?」
「………………よろしく」
はぁ……とため息を一つ付いて、武藤は野菜を洗い始めた。
武藤ってこんな子どもっぽい一面もあるんだ。
ちょっと可愛い(笑)
「琴乃―、私らやることある?」
「あ、じゃあパンにマヨネーズ塗ってもらえる? 食器とかの準備もお願い」
「宿木―、飲み物何がいい?」
「ウーロン茶で」
「はいよー。あれ? そういや大谷はどこ行った?」
「トイレじゃないか?」
そう言った武藤だが、こっそり私に耳打ち。
「本当は結月のとこ。バレたらうるさいから黙ってて」
「ふふ、了解」
普段忙しいもんねぇ大谷は。
彼女と思い出を作りたくて頑張って学校に通っているわけだし、ちょっとくらいは大目に見てあげよう。
もちろん、忙しい時間はダメだけどね。
「宿木さん、野菜切り終わったよ」
「よし、じゃあみんなのとこに行こっか」
切った野菜をボウルに入れて、みんなのところへ戻る私たち。
マヨネーズが塗られた食パンにレタスを乗せて次にトマト、最後に玉ねぎを散らせてから塩と胡椒を適度にふりかけ、もう一枚の食パンで閉じる。
宿木家特製の野菜サンド完成!
あとはこれを四つ切りにして……っと。
「美ん味っ!? これマジやばいよ琴乃!」
「確かに美味ぇ! 宿木って料理できるんだな!」
「大げさな……新鮮な野菜を切って乗っけただけじゃん」
まあ、美味しいと言われて悪い気はしないけどね。
「確かに美味いですな。しかし、欲を言うならば拙者、もう少し辛い方が……」
「手伝わなかったのに文句言わない! ラー油を隠し味に少したらせば辛味も入ってちょうどいいんじゃない?」
「はは……ごめんね。夕飯の時はちゃんと手伝うよ……あ、この味すっごい好きなやつ。今度作って撮影に持ってこ」
みんなからの感想は概ね好評。
だけど、一番重要な人の感想を聞けてない。
「………………」
武藤はいまだに目の前に積まれたサンドイッチとにらめっこ中だ。
「武藤くん、ガチで美味いよこれ」
「お前がいらねーなら俺全部食うぞ?」
「おっと、僕――拙者のぶんも少し残してもらおうか。あ、ラー油使うから取ってくだされ」
「本当に美味しいんだけどなー? 武藤に食べてもらいたいなー?」
「…………わかったよ」
みんなに後押しされ、ようやく武藤はサンドイッチをつかんだ。
恐る恐るという感じで、自身の口へ持って行く。
パクリ。
「あ、美味い」
「でしょー?」
やった!
好きピが美味しいって言ってくれた!
「調味料で綺麗に野菜の青臭さが消える感じだね。これは普通に美味しく食べれる」
「そうでしょう、そうでしょう♪」
なんたって、野菜嫌いだった私のために、お婆ちゃんが編み出してくれた特製レシピなんだから!
おかげで今じゃ野菜大好きだからね私。
このサンドイッチ、野菜嫌いの特攻薬すぎる。
私のお婆ちゃんマジすごい。
「ふう、食った食った」
気づけば目の前にあったパンと野菜はなくなっていた。
大量の野菜を摂取し、健康が期待できるようになったところで自由時間。
「んじゃ、片づけたら釣り竿でも借りに行こうか」
簡単な後片付けを終え、私たちはキャンプ場の管理棟に向かった。
釣り竿を借りて餌をもらい、釣れそうな場所へ移動する。
「なあ、ブラックバスって食えるの?」
「早川くん、あれだけ食べてまだ入るの?」
「やめといたほうがいいよ。一応食べれるみたいだけどすっげー魚臭いから、ちゃんと調理法を知っている人間じゃないと食えたもんじゃないらしい」
「そっかー、残念」
「あ、拙者あっちのほうが釣れそうだからあっちに行くでござる。くれぐれも付いてこないように。来たら僕マジで怒る」
夏休み湖畔おしゃれデートを決めるつもりだな、大谷。
好きな人と二人きりでデートかぁ。
私も武藤と二人になりたいなぁ。
「大谷のことは放っておいて、俺たち四人で競争しない?」
「いいぜ、ルールは? 数? 大きさ?」
「大きさにしない? 一人バケツ一個しか借りれなかったし」
「愛花に一票。数勝負じゃ武藤に勝てそうにないもん」
「よし、じゃあ決まりだ。今から自由時間終了の二時間後まで、誰が一番大きな魚を釣るか勝負ってことで」
「優勝者に何かしらの特典つけようぜ」
「オッケー。そのほうがやる気出るわ」
「じゃあ、一番の人は最下位の人に常識的な範囲内で何でも命令できる権利を与えるっていうのはどうかな?」
「「「賛せーい」」」
満場一致で決定した。
武藤と二人で釣りをしたかったけど、これはこれで楽しい思い出よね。
「そんじゃ、よーい……スタート!」
早川の開始の合図で、各々釣れそうな場所に散っていく。
私は管理棟から少し離れた浮島が見えるスポットをキャンプ地として釣り竿を振った。
子どもたちと遊んだ時のことを思い出しながら、魚が来るように釣り竿を動かす。
「おい、琴乃」
「え? 袴田?」
どうやら魚ではなく別のものがかかってしまったらしい。
勝負中だが私は一旦釣りをやめ、袴田の相手をすることとなった。
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