第16話 林間学校の買い出し
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「いやー、今日も暑いわね。日本の夏ヤバすぎ」
「親たちの時代はもっと涼しかったらしいけどね」
「マジ? 私もその時代に生まれたかった」
「その代わりスマホが無い時代よ? ガラケーはあるけど普及率まだ低かったらしいし、愛しの彼氏くんと話したい場合、家電に直の可能性大なんだが?」
「今の時代に生まれてよかった!」
ご両親と話す可能性があるとかどんな拷問!? 私たちの親世代スゲー――と、親世代の勇気を称える愛花。
私も生まれた時からスマホがある時代の人間なので、愛花の気持に共感できた。
親世代マジスゲー。
パないわー。
武藤の番号は知っているし、二人だけのグルチャを作ったけど、勇気が出なくてロクに何も話せていない私じゃ絶対無理だ。
道で見かけた可愛い猫のSSを張るだけBOTと化している例のグルチャは、いつになったら本来の目的で使用されるのだろう?
「しかしホント暑い! 暑すぎ! こんな暑い日に買い出しに行こうなんて誰が言い出したのよ!?」
「アンタだよ。夏休みとはいえ平日は忙しいから休日にしようって言ったのは思いっきりアンタだよ」
「記憶にございません」
悪びれもせずしれっと愛花が言う。
絶対無いと思うけど、将来こいつが選挙に出馬したら絶対に当選を阻止しようと思った。
「それにしても武藤くんたち、組んでくれてよかったね」
「ホントそれね。あーっ! あん時はもうホント緊張した!」
直前に袴田たちと軽くケンカしたからね。
いつメン同士で組むと思ったらまさかの決別。
しかも組んだ相手が予想外のグループときている。
注目を浴びすぎて断られないか、内心ホント不安だったんだから!
「いい意味でみんなマイペースだよね。うちの班の男子」
常にマイペースな武藤はともかく、大谷も早川も自分の価値観最優先なメンバーだったので、一見水と油っぽい私たちを快く受け入れてくれた。
まだ高校生なのに、自分の中に絶対にブレないものがあるって何気にすごいと思う。
私は結構ブレブレだから、ちょっと羨ましいし尊敬する。
「待ち合わせ時間そろそろだね」
「みんなどんな格好して来るんだろうね? 男子のプライベートファッション、ちょっと興味あるなあ」
まあ、お目当ては武藤なんだけどね!
好きピのことは常に気になるものなのです。
「お待たせ。待たせちゃったかな?」
愛花とダベりながら待つこと三分――ついに最初の男子が現れた。
ファーストメンズは我が好きピの武藤清彦。
清潔感のあるジーンズにオーソドックスなバンドデザインの白Tシャツ。
女子と一緒に行動するのに、特に気を使かった様子はないけど、しっかりシャンプーの香りがするところがポイント高い。
シャワーを浴びたはずなのにちょっとだけ髪がハネているところもキュート。
キュンキュンしちゃう!
「ぬぅ……これが世に聞く五分前行動でござるか。やりますな、宿木氏に花園氏。拙者、感服したでござるよ」
「大谷、休日くらいその『歪められたオタク像』っぽい喋り方止めない?」
「武藤氏、それはとても難しい注文でござるな」
次に来たのは袴田たちからオタクと見下されていた大谷。
見下されて――とは言うけど、実際のところは袴田たちよりも背が高い。
百八十近くあるんじゃないだろうか?
外出するというのに手入れをしない、目元まで隠したボサボサの髪にネルシャツinジーパン、一体何に使うかよくわからない指ぬきグローブという一昔前のミーム画像でよく見るオタクファッションのオオタニサン。
口調といいファッションといい、もしかしてわざとやってたり?
よく見ると脚とか長いし、全体的にスリムでモデル体型だし、肌もすごくキレイなのにもったいない。
まるで中学時代の私を見ているようで、個人的にはとても親近感を覚えるけど、隣の愛花は若干引いてる。
「俺と早川は慣れたし、宿木さんも平気っぽいけど、花園さんが引いてるぞ」
「うーむ、しかしですな武藤氏。知っての通り拙者のコレは身バレ予防なわけでして」
「そりゃ知ってるけど、たぶん大丈夫だよ。宿木さんは結構秘密は守るタイプっぽいから、他人の秘密をペラペラ喋らないだろうし、花園さんは……うん、その……」
「武藤くん、何故そこで詰まる?」
「いや、宿木さんは最近絡むから何となく人と成りは分かるんだけど、花園さんはほとんど絡まなかったし」
「武藤くん、私はね、小中学校通して友達から『私の好きな人が〇〇くんってこと絶対ヒミツだよ!』と言われても、本当に秘密を守り通したほどの口の堅い女よ?」
それは本当に口が堅い!
こう言われた場合、九割の女子は翌日誰かに喋って、その日の放課後までには周知の事実となり冷やかされて詰む。
ソースは私。
「大谷くんに何か秘密があっても絶対に漏らさないって神様と愛しの彼氏に誓うわ」
「あ、花園さん彼氏いるのか」
「そうよ。わりとしょっちゅうラブラブ惚気話聞かされて困っちゃう」
「ふーん、それならまあ、大丈夫かな? どう思う大谷?」
「そうだなあ……同じ班だし、絶対に誰にも言わないと約束してもらえるなら……」
「絶対言わないっての」
「右に同じ」
「わかったよ。じゃあ二人ともこっち来て。武藤、周り見張っといて」
「了解」
「「?」」
一体何を見せられるんだろう?
見張りが必要な秘密って何?
「本当に誰にも言わないでくれよ?」
「わかったわかった」
「いいからさっさと話すなら話して」
「じゃあ……」
ズルリ――と、大谷の髪の毛がズレる。
え? その髪カツラだったの――って、
「「ええええぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」
「二人とも! 声が大きい!」
「あ、ごめん」
「大谷くんが、そんな……まさか!? え? マジで? ドッキリじゃなくて?」
「シロウトさんにドッキリとか今の世の中できないよ」
「じゃあ……本物の?」
「大谷、タケル……?」
「はい、本物の大谷タケルです」
どうぞよろしく――とばかりに、大谷は手に持ったカツラを帽子の様に胸に抱いて一礼。
「クラスメイトのディープなオタクが……天才イケメン若手俳優……?」
「わ、私ファンなの! 大谷くん背中にサインもらえる!?」
「あ、すいません。今日はプライベートなのでサインはちょっと……武藤ぉ、これ本当に大丈夫? 僕のファンの子と同じ目になってない?」
「大丈夫大丈夫。イケるイケる」
「リアクション適当すぎだろ! 宿木さんに花園さん、他の生徒にバレたらまじで学校にいられなくなるから絶対に誰にも喋らないでね」
私と愛花は無言で首をブンブン振った。
これはとんでもない秘密だわ。
見張りを立てるのもよく分かる。
「えーと、大谷くん? 他の生徒にってことは先生は知っているの?」
「知ってるよ。その上で秘密を守るのに協力してくれてる」
「普段のいかにもなオタク的雰囲気は演技だったのか……すごい、全然分からなかった」
「口調やファッションはカムフラージュだけど、根がオタクなのは本当だからね。忙しい仕事の合間にできる趣味がゲームや読書くらいだから、自然とそうなったんだ」
「ところで疑問なんだけど、どうして高校に通ってるの?」
大谷タケルといえば、映画にドラマに引っ張りだこで、とても忙しいイメージがある。
それなのに、どうしてわざわざ普通科の高校に?
「何かあった時のために、せめて高校くらいは出ておきたいってのと、あと……ね、その……」
ん? 何か赤くなってもじもじし始めたぞ?
「やっぱりほら、青春したいじゃん? 彼女がいればなおさら……」
「「彼女いるの!?」」
これまたものすごい爆弾発言だ。
大谷タケルに恋人がいるなど、どこの報道機関も感知していない。
一体誰が……?
「大谷の彼女って結月だよ」
「あ! こら! バラすな!」
「いいじゃんいいじゃん。大丈夫大丈夫」
「おーいー……頼むよぉ……」
武藤の適当な態度に大谷が肩を落とした。
そっか、結月と付き合ってるのか。
美男美女でお似合いだなあ。
「とにかくそういうことですので、拙者のことはどうかご内密にしていただきたく……」
「わかったわかった。絶対言わないから安心して。ね? 愛花」
「おうとも。っていうか、言ったところで誰も信じないっしょ。オタクの大谷くんが大谷タケルとか」
「じゃあホントお願いね。結月とのスクールライフが途切れたら本気で恨むよ?」
暴露すべきことは終わった。
再び変装を施し元の場所に戻る。
「おーい、お前ら。わりぃ、遅れた」
その言葉とともに現れた最後の男――その名は早川昭雄。
「早起きして自主練してたら疲れて寝てたわ。時間ギリギリだったから大急ぎで来たぜ。はっはっは(笑)」
「いや……」
「早川氏……」
武藤と大谷がドン引きした目で早川を見る。
むろん、私と愛花もドン引きしている。
「お前の家、わりと近くだろ」
「多少遅れてもいいので、シャワー浴びて着替えてきてはくださらぬか?」
早川の恰好は、汗でずぶ濡れのユニフォームだった。
いろんな意味で一緒に歩きたくないので、私たちは満場一致で彼を一旦家に帰した。
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