第15話 班決め
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「とりあえず愛花、組もうか」
「おうともさ!」
組み分け開始直後、私は速攻で愛花に声をかけてやるべきことを終えた。
少しの間はやることもないので、他の人たちの様子をボーっと見ている。
「こういう班分けって何て言うか、その……個性が出るよね」
「明確に陰と陽で分かれるよねー」
仲の良い者同士で組む――こう言われてすぐに組めるような人は幸せだ。
最後の最後に待ち受けている地獄のような時間を味わなくて済むのだから。
こういう時に割を食うのは、コミュ力が低く友達がいない人だと昔から相場が決まっている。
周りでどんどんペアやトリオが決まっていく中、最後の最後に先生が強引に組ませるまで、一人でこれに耐えなければいけない。
おお……何という地獄!
「ふと思ったんだけどさ、友達いる人でも一人だけ弾かれたらどんな気分なんだろうね」
「琴乃って時々キャラに合わない重いこと言うよね」
ごめんね、中学時代はあっち側だったもので。
こういう時の陰鬱な気分は、嫌というほどよく知っているのよ。
入学を機にイメチェンして良かった!
友達ちゃんと作れたなんて偉いぞ私! 頑張ったぞ私!
「はい、そこまで。後は余った者同士で組むように」
先生の一言で残酷な時間は終わりを告げた。
さあ、次はいよいよ本命だ。
「それじゃあペアとトリオが決まったことだし、好きな組と合体しろ」
そこら中から歓声が上がる。
男女とも「気になるあの子&あの人と組みたい!」というオーラで溢れかえっているのをビンビン感じる。
かくいう私もその中の一人なわけだし、他に負けていられないわ!
「武藤くんの班は大谷くんと早川くんが一緒みたいよ」
大谷……早川……武藤と特に親しい男子の名前だ。
オタク系でそっち方面の話題に強い大谷に、サッカーバカのスポーツマンな早川。
うん、メンバーも悪くないわ。
二人とも武藤と親しいだけあって性格良いし。
ちょっと毛色が違う私たちみたいなのとだって仲よくしてくれるに違いない。
「んじゃ、私声かけてくる」
「ほーい、行ってらっしゃい」
先生の開始の合図とともに、私は席を立ち上がって武藤たちのところへ――
「琴乃? もう班決め始まったけど?」
「わ、わかってるわよ! でも……」
「でも?」
「足が、動いてくれない……」
「はぁ?」
愛花が呆れた目で私を見ている。
極度のヘタレを至近距離で見つけて「うわぁ……」ってなってる。
仕方ないでしょ! 好きな人の班に自分から声かけするなんて初めてなんだから!
元陰キャのヘタレっぷり舐めんなよ!?
「琴乃……あんたそんなタマだったっけ? もっと、こう……女王様然としていたっていうか、男とか子どもっぽいし特に意識してませんーっていうか、なんかそんな感じで振る舞っていたじゃん。告白とかされまくっているけどサラリと流して断ってるじゃん」
「だ、だって、それは別に何とも思っていない男子相手だし……ガチで好きな人相手の場合は違うっていうか……」
「はぁ……まさかあの琴乃がこうなるとはねぇ」
愛花が眉間を抑えてため息をついた。
「しゃーない。ここは私が人肌脱ぎますか」
「愛花ありがとーっ! マジ感謝!」
「その代わり後でパーキン奢れよ?」
「え!?」
「おい、琴乃」
脳内で財布の中身を思い出そうとした瞬間、不意に声をかけられる。
声のした方を振り返ると、先ほど武藤とひと悶着あった陽キャ軍団――袴田、桧山、岡野の姿があった。
「林間学校の班、俺たちと組もうぜ」
「クラスの位置的に妥当だろ」
「夜とか集まって遊ぼうぜ。UNOとトランプ持ってくるわ」
袴田軍団、すでに私と組んだ気になっておられる。
たしかに桧山の言う通り、クラスカーストのポジションを考えると妥当なメンバーだ。
所属するコミュニティが同じもの同士で固っているので丸い感じの班と言える。
しかし、私は袴田たちと今回組む気はない、
っていうか、内心そんなにこいつらのこと好きじゃないしね。
とはいえ、こいつらがいつメンなのも事実だし、特に目的がなければ「うん」と首を振っているところなんだけど……
「えーと……」
さて、どうやって断ろう?
私は普段一緒のこいつらじゃなくて、武藤と組みたいんだけど。
「うーん、せっかく誘ってくれて悪いんだけど、今回は遠慮してもらえる? ほら、普段わりと一緒にいるし、今回は別の人と組みたいっていうか」
「はぁ? 何だよそれ?」
「えー? そんなこと言うなよ」
「俺たちと組もうぜ、琴乃ぉ」
「同じメンバーでずっと一緒じゃ友達増えないでしょ? 私はこれを機に交友関係を広げようと思ってるのよ」
うむ、我ながら上手い言い訳だ。
コミュ強者にのみ許される言い訳!
「そんなの、普段の学校生活でいいじゃんか。こういうイベントはいつメンで組んで思い出を作るもんだろ?」
うっ……袴田、正論過ぎる。
たしかにイベントだからこそ、仲の良い友達と思い出を作りたいと思うものだ。
私だって真っ先に愛花と組んでいるし。
「そもそも、俺たち以外の誰と組むつもりなんだよ?」
「それは、えーと……武藤、とか?」
「はぁ!?」
武藤の名前を出したとたん、袴田が声を荒げた。
さっきのことを引きずってるのかな?
「おいおい、ねーわ。武藤の班とかマジねーわ」
「武藤はまあいいとして、メンバーがオタクの大谷とスポーツバカの早川だぞ?」
「釣り合い取れてねーって。空気読もうぜ琴乃」
「……釣り合いって、何?」
「え?」
急にトーンが変わった私の声に三人が戸惑う。
武藤たちが見下されてカチーンときた。
私の好きな人と、その友達をバカにするな!
「あんたたちの言う『釣り合い』って具体的に何のことなの? 私らみんな同じ高校生じゃん。クラスメイトじゃん。立場的にみんな同じでしょ?」
「いや同じじゃねーだろ。クラス内の序列的に」
「だから、その序列が何なのか聞いてるの。一体何で優劣つけてるわけ?」
「ちょっと琴乃、声抑えて」
「あ、ごめん愛花」
私たちの険悪な空気を感じ取り、クラスの何人かが振り返る。
注目を集める前に、早く話を終わらせないと。
「もしかしてあんたたちの言う序列って、いわゆるカーストのこと?」
「お、おお、そうだよ。男子トップの俺たちと、女子トップのお前らが組むのが自然ってもんだろ」
「……くっだらない」
腹の底から絞り出した、純度百パーセントの『蔑み』を三人にぶつける。
「そうやって勝手に作った価値観、本ッッッッ当にくっだらない。クラスカースト? 高校出たらそんなもんゴミでしょ。まじ虚無」
カーストの頂点存在から出る言葉じゃなかったため、袴田たちは呆気にとられている。
まあ、私も最近そう思うようになったばかりだから、自分で言っててちょっと耳が痛いけどね。
好きな人ができると、本当に価値観って変わるんだなあ。
「たしかにあんたたちはコミュ力高いし交友関係広いよ。だけどそれが何なの? 大谷は私らの知らないこと、オタ知識含めてすげー知ってるし、早川は運動神経すごくて大学のスポーツ推薦狙えるじゃない。社会に出ると豊富な知識って明確な武器だし、運動神経だってプロレベルなら全然お金稼げるわ。でもコミュ力って何ができるの?」
「そ、それは……」
はいダウト。
自分の誇れるものの利点がすぐに出てこない時点で論外だ。
ここで一気に畳みかける。
「すぐに何ができるか言えない時点で、あんたたちの言う『カースト』なんてその程度のものでしかないのよ。まあ、私もちょっと前まで同じように思っていたから恥ずかしいんだけど……そんなものを物差しにして他人を見下すのって――」
腕を組んで目を瞑る。
精一杯タメを作って……カッと目を見開く。
「すっげー、カッコ悪いから!」
「「「…………ッ!」」」
袴田たちはもう何も言えなかった。
私はくるりと背を向けると、武藤たちのほうへ歩き出した。
「袴田たち相手によく言った! 偉い!」
「そ、そう……?」
「あのクラスの女王様として君臨していた琴乃がこんな立派なことを言うようになって……あたしゃ嬉しいよ」
「あんたは私のお母さんか! ……でも、ありがと」
軽いツッコミ入れてから、武藤の背中に声をかける。
「武藤―、あのさ、林間学校の男女ペア、良かったら私たちと組まない?」
声に反応する武藤の背中を眺めながら、「お願いだから断らないで! お願い!」と、必死に心の中で祈る私なのであった。
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