第13話 本当の気持ち
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「そういえば宿木さん、花園さんは? 一緒じゃなかったけど?」
「愛花なら来ないってさ。急にお腹が痛くなったって電話があった」
「急な腹痛って大丈夫なの? 最悪盲腸の可能性もあるけど……」
「あ、大丈夫大丈夫! ぜんっぜんそんなんじゃないから天峰さんは心配しないで」
本当は彼氏とデートだしね。
健康面は大丈夫だけど、成績面は全然大丈夫じゃないから、期末で絶対泣きつかれそう。
「なら、新しいグラスは用意しなくていいか。何から教える?」
「じゃあ、苦手な数学から……」
「なら、私は英語を教えて。英文ってどうも苦手で……」
「あ、分かるー。私も英文苦手でさあ。そもそもうちら日本人なんだから、英語なんて教わっても意味ないっていうか」
「意味ならあるだろ。外国行ったとき役立つし」
「私は日本から出ないからいいんですぅー」
ハワイはちょっと行きたいけど、日本語通じるらしいし大丈夫よね?
「翻訳されていないゲームとか遊べるから結構便利なんだけどな。まあいいや、さっさと始めよう」
……
…………
………………
テスト勉強開始から二時間経過。
「そろそろ昼だし休憩しようか」
「終わったーっ! あー、メッチャ疲れたーっ!」
「私も。集中したからちょっと肩凝っちゃった」
私と天峰さん、二人で並んで肩を回す。
本格的に勉強したのは一年振りくらいだから、思ったよりも精神的に疲れた感じ。
「ご飯作ってくるから適当にくつろいでて」
「あ、なら私も――」
「行かなくて大丈夫。清彦くん料理上手だから」
手伝おうとしたら引き止められた。
天峰さんに手を引かれた私は、その手を振り払うことができずその場に座った。
「…………」
「…………」
うぅ……何か気まずい。
私って元が陰キャだから、初対面の人と二人きりってちょっと苦手なのよね。
何話せばいいのかな……?
「あの」
「ひゃい!?」
向こうから話しかけてきたから変な声出ちゃった!
一呼吸置いて冷静に――と。
「な、何かな? 天峰さん」
「こんなこと聞いていいのか分からないけど、聞いていいかしら?」
「え? うん、いいよ。何でも聞いて?」
「えーと、じゃあ聞くけど、宿木さんって清彦くんと親しかったかしら? 家に呼んでテスト勉強するほど親しかった記憶はないんだけど?」
「仲よくなったのはごく最近なの。だから天峰さんが知らなくても無理ないと思う」
「へえ、そうなんだ。きっかけは?」
「き、きっかけ……?」
あ、雨鏡だなんて言えない。
もし言ったら、私が武藤に近づいた目的がバレちゃう。
随分仲が良さそうだし、打算がある女が近づくのを許すとは思えない。
ここは無難に誤魔化しておこう。
「きっかけは……先週の釣りかな? 駅前でばったり会って誘われたの」
「ふーん、私はてっきり清彦くんへの告白だと思ったんだけどなー」
「し、知ってたの……?」
「もちろん」
「違うクラスなのに……?」
「ええ、宿木さん有名だもん」
笑顔でそう返す天峰さん。
目が全然笑っていない。
「クラスカーストトップに君臨する女王様が、突然クラスの目立たない男子に絡み始めたら、何かあると思うのは当然だと思わない?」
「そ、それは……」
「告白して、OKされて、実はドッキリでした――ってするつもりだった?」
「ち、ちが……」
「それとも、付き合っている体でデートを重ねて、清彦くんが本気になったら『何? 本気にしちゃってたの? ウケる(笑)』って笑い者にしようと思ったのかな?」
「ちが……そんなこと……私……」
思ってない!
神に誓ってそんなことは一度も思ってない!
だって、それをやったら……
中学時代、私をキモいとか言って馬鹿にしていた連中と同じになる!
「じゃあ何? どういう理由で清彦くんに近づいてるの?」
「わ、私、私は……」
この続きを言うことができない。
打算目的で私が武藤に近づいたのは間違いないから。
雨鏡の呪いを解きたくて、最悪の未来を回避したくて、私は武藤に近づいた。
でも……
でも…………
「う」
「う?」
「ううぅぅぅぅぅぅぅ……」
気づいた時、私は泣いていた。
ボロボロと大粒の涙を零しながら、声を殺して泣いていたのだ。
「宿木さん、あなた……泣いて――?」
「私……は、確かに、さ、最初は……目的があって武藤に絡んだ。で、でも……でも、今は、今はそうじゃなくて……それだけじゃなくて……武藤のこと……」
気づいちゃった。
私、自分の本心に気がついちゃった。
天峰さんに問い詰められて。
自分の中に芽生えていた本当の気持ちに。
雨鏡なんて、もうただのきっかけにすぎなくて。
いつのまにか私は、とっくに彼のことを――、
――好きになっていたのだ。
「うっ、うっ、うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
気づいた瞬間、想いが内から溢れ出る。
好きと涙が止まらない。
いつもマイペースなあいつが好き。
周囲に流されないあいつが好き。
自分を貫くあいつが好き。
ちょっと意地悪なあいつが好き。
密かにカッコいいあいつが好き。
自分に正直なあいつが好き。
子どもに優しいあいつが好き。
何だかんだで私にも優しいあいつのことが――大好き。
「うっ、うっ、うわああぁぁぁぁぁぁ! うあああぁぁぁぁん!」
「ちょ? ちょっと宿木さん!? ごめんなさい! まさか泣くなんて思わなくて……」
「ああああぁぁぁぁぁん! うわぁぁぁぁぁぁん!」
「本当にごめんなさい! 泣かせるつもりなんてなかったの! お願いだから泣き止んで!」
「何か大声が聞こえてきたけど何? ケンカ?」
「あーっ! 結月ちゃんがお姉ちゃんを泣かしてる!」
「ちょっ……ち、違……」
「違わないじゃん。結月ちゃん、お姉ちゃんをいじめちゃダメだよ!」
よしよし――と、妹ちゃんが頭を撫でてくれる。
情けないけど、その優しさに胸がほっこり暖かくなる。
「ち、違うの。別にいじめられてた訳じゃないから心配しないで」
「ホント?」
「うん、ホント。お姉ちゃん大丈夫だから、ね?」
「う、うん……ならいいけど」
「どうせ結月がキツいことでも言ったんだろ? すました顔して結構性格キツいし」
「なにおぅ!」
「悪いな宿木さん。多分悪気はないと思うんだ。できれば許してやってほしい」
「う、うん……許す。っていうか、許すことなんてそもそもないし……」
「そっか。じゃあ昼飯の続き作ってくるから、漫画かゲームでもして待っててくれよ。結月も、キツいこと言って宿木さん泣かすんじゃないぞ?」
「わ、わかってるわよ!」
妹ちゃんを連れて武藤が出て行く。
二人を見送った後、天峰さんが再び話しかけてきた。
「本当にごめんなさい宿木さん! あなたのイメージが先行しちゃって、清彦くんを守らなきゃって思ったら、つい……」
「ううん、いいの。私も最初は目的ありきで武藤に近づいたから」
私は天峰さんに全てを話した。
武藤に近づいた理由。
雨鏡に彼が映ったことを。
「なるほど……そういうことだったのね」
「ごめんなさい……私、最低だ。自分の都合で近づいて……」
「んー、私はそうは思わないかな?」
「え?」
「きっかけは確かに純粋なものとは言えなかったけど、今は違うでしょう?」
私はこくりと頷いた。
多分、今の私顔真っ赤だ。
「今は本当に清彦くんのことが好きみたいだし、問題ないわ」
あースッキリした――と、天峰さんはベッドに座った。
「泣かせちゃったお詫びに教えてあげる。清彦くんの好物はカレーよ」
「そう、なんだ」
「うん。もうすぐ夏休みに入るし、そうしたら林間学校でしょ? 同じ班になって美味しいカレーを振舞えば、きっと清彦くんの心も近づいてくれるわ」
「あ、ありがとう天峰さん……」
「結月でいいわよ」
「じゃ、じゃあ私も琴乃でいい……」
雨降って地固まる。
この騒動がきっかけとなり、私は新しい友達を手に入れた。
「で、でも結月……いいの?」
「いいのって何が?」
「だって、結月は武藤の幼なじみでしょ? 高校生にもなってこんなに仲のいい幼なじみって、お互い好きだったりするんじゃ……?」
「あはは! ないない。お隣同士、兄妹みたいに育った間柄だもの。恋愛感情とかそういうのは全くないわ」
大笑いしながら否定する結月。
どうやら幼なじみはヒロインにならない説は、三次元でも有効だったみたい。
「頑張ってね琴乃。あなたが純粋に彼のことを好きな限り、精一杯応援してあげる」
この直後、彼は昼食を伴い部屋にもどってきた。
私は舌鼓を打ちながら彼の作った炒飯を口に入れるのだった。
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