第12話 決戦は日曜日!
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「ついにこの日が来たわね」
目覚めた直後、大きく伸びをした後、鏡の前で気合いを入れる。
決戦の日曜日。
中間テスト前日。
名目上はテスト勉強の仕上げだが、本当の目的は武藤清彦を落とすこと。
雨鏡の呪い解除達成のためにも、しくじるわけにはいかないのだ。
「スキンケアもメイクも念入りに……っと」
少しでも自分の魅力を高めるため、おしゃれは絶対に手を抜かない。
1パーセントでも武藤の心が動く可能性を上げれるのなら、徹底するべきだ。
雨鏡に映った私の姿は、中学時代よりも酷い引きこもりニート。
あの頃の自分……クラスの陽キャ男子に目が合っただけで「キモい」と言われていた自分……あれ以下の生活になんて絶対になりたくない。
今の私は女王。
クラスカーストの頂点なのだから。
あんな惨めな思いは、もう二度と……
「行ってきまーす」
この前の時とは違うギャルギャルしい装備で私は出発する。
駅で電車に乗る前に数名からナンパされたが華麗にスルー。
事前に教えられた住所を元に、私は武藤の家に到着した。
「ここね……」
胸に手を当て、軽く深呼吸。。
緊張を振り払い、いざ決戦の地へ!
――ピンポーン。
お、押しちゃった!
休日に男の子の家になんて来たことがない、元陰キャメガネ文学少女な私の心臓は、深呼吸も空しく信じられないほど飛び上がった。
『はーい、今いきまーす』
トトトト――という早足の音。
心の準備が出来る前に、武藤家の玄関は開かれた。
「お、いらっしゃい。早かったね」
「ま、まあね! 待ち合わせ時間前に来るのは常識でしょ?」
「はは、確かに……宿木さん、その恰好」
「わ、私の恰好がどうかした?」
「この前とは違う感じだね。でも、今の格好の方が宿木さんのイメージに合ってるかも。うん、似合ってる」
やった!
似合ってる頂きました!
少しは武藤の心に踏み込めたかな?
「俺の部屋二階にあるから先行ってて。お菓子準備したらすぐ行くから」
「了解」
それじゃ、お邪魔しまーす……。
同級生の男の子の家に上がるのってちょっと緊張する。
「あ、お姉ちゃん。いらっしゃい」
居間を通り過ぎる際、寛いでいた妹ちゃんに見つかってしまった。
一緒にいた御両親に軽く会釈して相手をする。
「お姉ちゃん遊びに来たの? 今日は何して遊ぶの?」
「ごめんねー、お姉ちゃん今日は遊びに来たんじゃないんだ。お兄ちゃんに勉強を教えてもらいに来たの」
「そうなの? 今日は遊んでくれないの?」
「うっ……」
妹ちゃんが悲しそうな目で見つめてくる。
実は私、子ども大好きなのよね。
同年代と違って見た目で差別とかしないし。
純粋に慕ってくれるから相手してて楽しいし。
「じゃ、じゃあお勉強が終わったら遊んであげる」
「ホント?」
「うん、ホント。今のうちに何で遊ぶか考えておいてね」
「うん!」
子どもの純粋な気持ちは裏切れなかったよ……。
でもまあ、御両親に良い印象を与えれたと思うし結果オーライかな?
改めて武藤の部屋を目指し階段を上がる。
「これが、武藤の部屋か……」
何て言うか、とても彼らしい部屋だった。
本棚、机、ゲーム機、PCがキチっとした配置で置かれており、ゴミ一つない綺麗な部屋だ。
「へえ、武藤こんなの読むんだ」
私が目にしたのは、本棚に刺さった一冊の本。
私も読んでいる少女漫画だった。
何気なくその本に手を伸ばす。
「あっ」
手が滑ってうっかり本を落としてしまった。
本は転がってベッドの隙間に入ってしまう。
私は身をかがめて隙間の中に手を――、
「そんな所を探しても何もないよ?」
「うわぁぁぁぁっ!?」
「俺、言っておくけど叡智な本は持ってないぜ? そういうの探しても無駄だよ?」
「ち、違うから! 本を手に取ったらうっかり落として中に入っちゃったの!」
「あー、なるほど」
本棚を見て納得してくれたようだ。
「ごめんね宿木さん。てっきり叡智な本を探しているものかと。こういう状況の定番らしいし」
「ああいうのはあくまで二次元だけでしょ。それに、恋人一歩手前の男女じゃない限りそういうのはしないと思う」
「そっか、そういうものか」
武藤はそう言って持ってきたお茶とお菓子をテーブルに置いた。
「さて、それじゃあ始めようか」
「待って。その前にちょっと良い?」
「どうしたの?」
「グラスの数多くない?」
この部屋に居るのは私と武藤。
だけど彼が持ってきたグラスの数は三つ。
数が合わない。
「妹ちゃんの勉強も見るの? やっぱ学年一位だと余裕あるのね」
「いや、違うけど?」
妹は妹で勉強するから、今まで教えたことはないとのこと。
「じゃあ何で三つ?」
「それは――」
――ピンポーン。
「お、きたきた」
家のチャイムが鳴って武藤が出て行った。
気のせいか、何だか嫌な予感がする。
「おまたせ、じゃあ始めようか」
「ちょっと清彦くん、その前に自己紹介。私と彼女初対面よ?」
「あ、そうか」
嫌な予感は的中した。
いや、的中というよりも敵中と言うべきか?
「初めまして、天峰結月です」
「や、宿木琴乃です……」
突然の敵の出現に素が出てしまった。
私は陰キャ時代のように、蚊の鳴くような小さな声で自己紹介を終えたのだった。
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