第11話 愛花の計略
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「琴乃ぉ……もうすぐ昼休み終わるよ? いつ武藤くんに言うわけ?」
「い、今言おうと思ってたとこだから!」
アドバイスと引き換えにバーキン一回分のお金が飛んだ翌日。
愛花から授けられた策を実行するべく、私は武藤を待ち構えた――昼休みまで。
同じクラスなんだから朝言えよって思うじゃん?
私もそうしようと思ったわけじゃん?
でもできなかった。
何て言うか、いざ武藤に話しかけようと思ったらなんか急に恥ずかしくなってですね?
そんなこんなでためらってたら昼休みになってしまったわけですよ。
生まれついての天然陽キャギャルならきっとこんなことないんだろうなあ。
養殖モノの自分が憎い。
「ほら、早くしないと武藤くん行っちゃうよ?」
「わ、わかってるってば! お、おーい! 武藤―!」
ようやく覚悟を決めて声をかける。
名前を呼ばれた武藤は振り返ると、軽く手を挙げ私に応えた。
「宿木さんに花園さん? どうかした?」
「ほら、琴乃」
「えっと……あの……」
「ったく……」
愛花が小さく「しゃーないな―もう!」と呟いた。
なかなか台詞が出てこない私の代弁をしてくれるらしい。
やっぱり持つべきものは親友ね!
「んー、いやね? 武藤くんって中間テストの勉強してる?」
「まあ、それなりには」
「ならさあ……」
愛花の目が一瞬真剣なものに変わる。
彼女はバーキン一回分と引き換えに、私に与えた策を実行に移した。
「私らに勉強を教えてくれない? ほら、武藤くんって成績良いし」
………………
…………
……
昨日、駅前のバーキンにて。
「で、策って何? バーキン一回と引き換えなんだから、それなりに使える作戦なんでしょうね?」
「もちろんですともマイスポンサー。あー、バーキンのバーガー美味ぇ♡ オニオンリングも最高すぎてたまらんっ♡」
「……ったく」
これで使えない作戦だったら金返してもらうからね!
他のチェーン店よりも良い肉を使っている分、バーキンは値段が高いんだから!
その分美味しいけど。
「で、私にどうしろって?」
「琴乃って成績それなりじゃん? 良くもないし悪くもない」
「まあ、そうね」
陰キャ眼鏡系文学少女時代、本を読みまくって地頭が鍛えられたせいか、ロクに勉強をしないのに私の成績はそれなりに良い。
全教科平均点ぐらいは普通に取れる。
唯一体育だけはどうにもならないけど……これはまあ仕方ない。
元文学少女では体育のステータスは伸びないのだ。
「だからさ、勉強に真剣になってもそれほど不自然じゃないんだよね」
私と違って――と愛花。
愛花はむしろ真剣になったほうがいいと思う。
一年の二学期、赤点五つもあっただろ、お前。
「二年になって勉強が難しくなって中間テストが不安だ。だから学年トップの武藤くんに勉強を教えてほしいとか言えばいいのよ。勉強会の約束を取り付けちゃえば、学校の図書室だろうが、街の図書館だろうが、武藤くんの自宅だろうが二人の時間と空間を作れるって寸法よ」
「一緒にテスト勉強か……アイディアとしては悪く無いけど、バーキン一回分の価値あるかなあ?」
「やれやれ、そう言うと思ったわ。千五百円近く奢らされて不満タラタラのあんたに、この作戦の結果、期待できる効果をこの私が教えてあげましょう」
そう言うと、愛花はふんぞり返って指を折りを始めた。
「まず一つ! 同じ目的を持って一緒に勉強することで連帯感が高まる!」
「お?」
「二つ! 一緒の時間を共有することで親密度が上がる!」
「おぉ!」
「三つ! もしも会場が武藤くんの部屋だった場合、叡智なことが期待できる! 健全な年頃の若い男女が同じ空間で二人きり……何も起きないはずもなく、二人の唇はしだいに近づき……そして――」
「そ、それ以上は言わなくていいから!」
愛花の台詞を強制的に止めた。
グッジョブ私!
「な、なるほど……そう言われると確かに悪くないどころかすごい効果を期待できそうじゃん」
「でしょ? 上手く行けば一気に付き合えて、雨鏡の呪いも消えてハッピーエンドも狙えるかもね」
ズズーッとコーラの残りを啜りつつ、自信たっぷりに愛花が答えた。
「明日朝一で誘っちゃいなさい。天峰さんに誘われる前にね」
……
…………
………………
って愛花に言われたのに、結局自分で行けないとか情けないなあ私。
何で急に恥ずかしくなっちゃったんだろう?
愛花がいなかったらどうなっていたことやら。
とりあえずバーキン奢っといて良かった。
「琴乃も私も、二年になって勉強が難しくなったから中間テストが不安なのよ。だからお願いっ! 武藤くん学年トップだし余裕あるでしょ? 助けると思って!」
愛花が真剣に拝み倒す。
肝心の武藤はいきなりのお願いに少々戸惑いつつもどうしようか悩んでいる様子だ。
「うーん、俺勉強は一人の方が集中できるんだけど……まあいっか。たまには人に教えてみるのも悪くないし」
「ホント? マジ助かる!」
「ありがと武藤! マジ感謝!」
「宿木さんにはこの前世話になったしね。妹たちすごく喜んでたよ」
その時のお礼ということで日曜日、私たちは武藤に勉強を教えてもらえることになった。
「試験勉強の場所だけど俺の家でいい? 人いる所とかだと集中できないタチでさ」
「うん、全然オッケー。琴乃もいいよね?」
「もちろん! 本当にありがとね、武藤!」
「どういたしまして」
話はまとまった。
先に教室に戻る武藤を見送り、私と愛花はその場で当日について話し合う。
「琴乃、私にできるのはここまでだ。頑張れ」
「うん! って、当日サポートしてくれないの?」
「するわけないでしょ、あんたと武藤くんのことなのに私が行ってどうすんのよ? 当日は風邪引いたとか言ってバックレるんでよろしく」
それに、日曜は彼氏とデートなんだよねー♪――と、愛花さん。
そう言えば期末さえ何とかすればいいとか言ってたっけ。
留年しないか心配だなあ。
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