特別捜査本部 その一
舞台は現代より先の未来ーー新人刑事の雪下菜月は便利で平和だが退屈な日常に物足りなさを感じていた。そんな彼女はある日、沢渡研究所特別捜査本部に配属される。時空間移動の実験のために危険実験をする沢渡研究所を止めるため潜入し実験を止めようとするのだが、、、
「窮屈だなー」
空を見上げてふとそんなことを思う。20XX年の現在、ビルの隙間を縫って飛行機や飛行自動車、飛行機二輪車なんかがわんさか飛び交っていた。
「やばっ!遅刻するっ」
いつも時間を確認する交差点で腕時計がいつもより遅い時刻を指しているのに気づいた。焦りながらソワソワしていると信号待ちをする人たちの声が聞こえてくる。ザワザワ『……で…すよね』『タイムトラベルをできる日なんてくるのかねぇ』『無人機で成功した後、全く話聞かなくなりましたよねぇ。どこがやったのかも忘れちゃいましたよ』『おいおい、まぁ最近聞かないしな。たしか沢渡研究所だったか』信号が変わるや否や私はそう話すスーツのおじさんを横目に走り去った。
「っやばいやばい、森さんに怒られる〜〜、、」
森さんが眼鏡をクイと上げた後ネチネチ説教を始める様が思い浮かぶ。ゾワッ、絶対に回避しないと、、
署長の森さんは“ザ上司”という感じで仕事をきっちりこなし、部下の教育にも抜け目のない人だ。遅刻をしようもんなら確実に叱られる!歩道を全力で走りやっとの思いで職場に着く。
「っ、はぁっ、お、はようございます」
『毎日よく走るねぇ、今日は間に合いそうかい?』
「間に合わせます!」
ハハハッと笑う警備員のおっちゃんを背中に感じながら自動ドアへ走り、手首に付いた腕時計型の機械を入り口でかざし建物に入った。私はここ中央警察庁にかれこれ2年ほど勤務している。
「っはっ、、セーフっ」
『相変わらずギリギリだねぇ』
桐谷さん(ベテラン刑事で基本的にいつもにこにこした人当たりのいい人だ)の言葉を聞いて肩を撫で下ろす。
「はぁ桐谷さん、甘やかさないでください。5分前には来ているのが常識でしょう」
げっ、森さん。間に合ったんだから褒めてくれてもいいのに、、顔に出ていたのか「良いわけないだろ」と言われてしまった。
『何か用事があって声をかけられたのでは?ちょっと前に雪下さんのこと探してたでしょ?』
桐谷さんの言葉にそうそうと言うように森さんが私の方を見る。
「何かあったんですか?」
『まあな、会議があるから向かいながら話そう』
ーー「それでどうされたんですか?」
『雪下、お前は新しくできる特別捜査本部に参加することになった』
「えっ!?私がですか?新人の私が参加するってどうゆう、、足手まといになりそうですけど」
『詳しいことは知らされていないが適任と判断されたようだ。せっかく選ばれたんだ。つべこべ言わずそうならないよう励め』
ぐっ、ど正論、、わかってるけど言い方ってもんがあるでしょ。相変わらず森さんは森さんだ。
「ちなみになんの捜査なんですか?」
『なんでも沢渡研究所の捜査らしい』
「え、それってたしか」
私は通勤時のことを思い出した。
『ああ、タイムトラベルの実験に成功したとかで騒がれてた研究所だ』
「なんでまた捜査なんて、それも特別捜査本部をつくってまで」
不正でもしたんだろうか。私は頭を捻った。
『今日の会議で説明があるだろう。早く行くぞ』
「はいっ」
話しながらゆっくり歩いていた分、森さんは会議室へ向かう足を早めた。私は小走りなりながら後についた。
ーー第二会議室。
長椅子にはすでに資料が並べられており私たちは自分達の部署の席についた。しばらくして部屋の電気が切られ空中に映像が映し出された。沢渡研究所特別捜査本部の文字が目に入る。最初はこの捜査本部の指揮官やらの紹介なので軽く聞きながら、“昔は空気中に映像は映せなかったんだよなあ。いちいちスクリーンを出すのって面倒そう。”などと考えていた。
「……であるから、よろしく頼む」
パチパチパチ、拍手の音にハッとし慌てて周りに合わせて拍手をした。森さんには気づかれ「集中しろ」と言われてしまった。
「捜査について話す前に皆に言っておく。今回の捜査だが内容については警察庁内でも漏らすなとのことだ。くれぐれも他の者に話さないように」
少し空気がピリつくのを感じた。私も初めてのことに心が落ち着かない。そんな気持ちはよそに説明は続いた。
「沢渡研究所についての捜査だと言うことは皆知っているだろうが何についてか気になっている者がほとんどだろう。結論から言えば沢渡には国家を揺るがす危険実験に手を出している疑いがある」
、、なっ、いま、なんて、、うそでしょっ。ザワザワザワザワ、室内に驚きの声が飛び交った。
「静粛に。数年前に内部告発で発覚したが証拠が何一つなかったため本格的な捜査はされなかった。…沢渡が20YY年に無人機による時空間移動を成功させたことは知っているよな」
当時大きなニュースだったため皆当然だという顔で傾聴した。
「沢渡はその後、有人機での時空間移動を目指したが手詰まりになりある人物の手を借りた。名前は不明なのでここでは鼠とする。この鼠とのやり取りのデータを一部だが捜査協力者が入手し、これが決め手となりこの捜査本部が設置された」
『危険実験とは具体的にどんなものなのでしょうか』
一人が挙手し、質問を投げかけた。
「大雑把に説明すると時空を歪め、時空間移動が成功する世界にしてしまうということらしい。要するに世界ごと奴らの好きなように改変しようとしてるわけだ。そうなればいたはずの人間が消えたり、戦争が頻発する世界になったりする副作用が出る危険がある」
『バタフライエフェクトですよ』
副指揮官の隣に座る白衣を着た男が声を上げた。この場にいるということは警察庁から招集がかかるほどの実力者なのだろうがその割には随分と若く見えた。研究者らしい細身かつ長身で長い髪を後ろで一つにまとめ毛束を前に流してる。
『一度は聞いたことがあるでしょうが、説明すると例え小さな変化でもネズミ式に影響が広がり予想だにしない大きな変化が起こるということです。今回の場合、タイムトラベルという大それた事をするために時空に干渉しようとしているのですから、とてつもなく大きな変化が起こるでしょう。そしてそれは良い変化とは限らない。最悪、人類が滅亡した世界なんてこともありえます』
ザワザワザワザワ
あまりにもスケールの大きな話に動揺を隠せず、皆がどよめいた。もちろん私も。
読んでいただきありがとうございました!