兄の話
私はこの家の男児として生を受けた。
私はこの家を守る義務がある
私は膨大な「魔力」でこの国を守らなければならない
私は両親の期待に応えなければならない
私は無力な妹を守らねばならない
妹は「魔力」が無い、誕生時の検査でそう出た。
しかし、胎内に居るときは母親の魔力が赤ん坊の「魔力」を抑えてしまうことが有るので、成長するにつれ「魔力」が目覚めるということがまま有るらしい。
だが、両親は妹に見切りを付けた。
貴族としての基本的な教育を施して、将来的には平民の富豪に売り飛ばす様に嫁がせるつもりだ。
それ以上のことはしなかった。
私には、一流の教育、一流の鍛錬、一流の仕立て、一流の食事と徹底的に管理したのに対し、妹はほとんど放置して居た。
妹は両親に似て居ない、灰鼠の髪に夕日の瞳、黄金の髪を父から紫花の瞳を母から譲られた私とは違う。
妹は無力だ、あまり外に出してもらえなかったせいか体力が無く直ぐに息切れするし、食事の量も小鳥が食べるくらいである。
妹は無知だ。基本的な読み書きと教養しか知らない、時折庭に出て花を見て居るが、汚れるから部屋に戻して居る。
私は妹を鍛えようと、鍛錬に突き合わせたり、勉強を教えたりしたが、ほとんど出来て居なかった。
妹は弱い、だから私が守らねばならないと思っていたら、両親があの「聖女」とやらを連れて来た。
「聖女」とやらは、泥の様な髪、蛙の様な瞳にそばかすの浮いた汚い肌とどこか汚らしい娘だった。
聞けば平民なのだという。
養子にすると両親から言われたときは、正気を疑った。
平民なのに高魔力なのはたまに聞く話だが、「癒しと浄化の力」を使えるのは別格だ。
「聖女」「聖者」と呼ばれ、国教に保護され親族には繁栄が約束されると言う。
よく深い両親のこと、教会から無理を言って連れて来たんだろ。
そいつは翌日から屋敷の中を我が物顔で闊歩する様になった。
両親もそいつが魔力を注いだ宝玉が今までに無いほどのものだったときから、そいつにドレスや宝石、菓子などを買い与えた。
そいつは無知で無力で大声で喋り、大食いでどうしようもなかった。
私はそいつが調子に乗らない様に、厳しく接したが、教師達はそいつを甘やかすばかりで何にもならない。
そいつは周囲に媚びる様になった。
メイドたちと掃除をし、
コックと料理を作り、
庭師と花の世話をし、
その結果使用人たちは挙ってそいつの世話をする様になった。
そいつは周囲に
媚びて、媚びて、媚びて、
周囲を自分のものにした。
そいつは妹にも接触しようとした。
私は妹を守らねばならない。妹は「無力」なのだから。