告白文
高校生、夏の週末。
スーパーの裏である男を待つ一人の少女。
男はそこに来なかった。
代わりに来たのは警察だった。
少女の家は外から見たら医療関係者の母と公務員の父によって、とても整った家族である。
だが、中身は……。
父親は母親を酷く愛しすぎていた。
子どもよりも母が、つまり妻がいることだけが人生における最重要事項であり、それこそが人生であったのだ。
少女は、一番下の子どもとして生まれた。
他の兄弟は不登校歴のある者、大学を中退する者、色々である。
しかし、少女もその兄弟も学校の中では成績上位をとっていた。
父親の愛情は無く、母親の気まぐれな愛の形に少女も兄弟も成長とともに心が歪んでしまっていた。
歪んで育った少女も無事県内の進学校に合格し、高校生になった。
高校2年の夏までは、恋人の数人はいたが皆少女の内面の冷たさから去ってしまっていた。
しかし、去るものだけではなかった。
夏休み少女には7つ上の彼氏ができた。
その男は寧ろ少女よりも冷たい男だった。
身体の関係を初めて持った少女が泣くまで首を絞め上げて、愛していると耳元で囁いたのだ。
少女は、その言葉で涙が止まり急にその男に恋に落ちたようにのめり込んでいった。
男に呼ばれれば会いに行く、逢いに来れば喜び何度も身体を重ね合わせた。
少女は、こう思ったのだ。
「あぁ、これが愛なのか。温かく激しく何かをその瞬間埋めてくれる。この感覚こそ愛なのか。」と。
少女の歪みは愛の形までも、普通のそれとは離れた形に変えてしまった。
まだ歪んでないのは、体裁や外面だけであったのかもしれない。
愛を少女に教えた男は、友人によって引き離されてしまった。
歪んだ2人の愛を周りは愛とは認めてくれなかった。
男と離れてから、少女は新しい人を探していた。
探さなくても、少女の周りにはその見目の良さから寄ってくるものは少なくなかったが、少女は愛を求めていたのだ。
愛をくれる人。愛していると身体に刻んでくれる男を。
そして、程なく8つ上のカフェ店員と気が合い付き合い始めた。
その男もまた歪んだ人間であった。
少女の排泄物への執着や泣き顔への愛着など男は歪んだ性癖を持ち、それが果たされる度に愛していると少女を優しく包み込んで囁いた。
しかし、この男もまた突然に消えてしまった。
いつも空っぽなまま、満たされるのは一瞬の間。
少女の心を満たしてくれる人間を探し続けるしか、心を保つ術が無く掲示板で出会いを探し始めていた。
高校3年秋。掲示板で知り合った男は待ち合わせに来なかった。代わりに警察が来た。
売春や未成年の行為を取り締まるため囮を使われ、補導された。
母親は泣いていた。謝罪の言葉を何故自分が言わなければならないのか少女には理解出来なかった。
「愛を与えなかったのはお前たちじゃないか。足りない物を補うことの何が悪いんだ。これ以上愛の無い鎖で縛らないで…」心の中で思っていても言ったところで何も変わらないことは分かっている。
少女は何も言わなかった。
この事は母親と少女だけの秘密となった。
高校に連絡が入ることも無く、母の監視が一層強くなり、逃げ出したいと願うしかなかった。
少女は高校を卒業、国立の大学に進学し一人暮らしとなる。
アパートに一人。絶え間なく消えたいという感情が襲ってくる。そして耐えられず、また愛を探し始めた。
自分を縛る枷はもう無い。愛してもらえる資格を少女は取り戻したのだ。
愛には色んな形がありますね。
この話はあくまでフィクションですが、この後の少女はずっと愛は肉欲と近い物として求め続けるのかもしれません。
運が良ければ、永遠の渇きから脱することも出来るでしょう。この少女がそれを望めばの話ですが。