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猊下の妻が悪女のオレで良いんですか  作者: 兎丸
第1章【慈愛は嫉妬に呑まれない】
4/6

2話『悪女のオレが枢機卿の嫁で良いんですか』

※誤字脱字などがあったらすみません。

本編2話です。文章表現力が乏しいので、ちゃんと読みやすい文章になっているか心配です。

 蕃神とは、人類に害ある邪悪な感情をエネルギーに、人類を滅ぼそうとする邪神のことだ。『セシ咲く』はその蕃神の復活を阻止することをメインとし、5種族の男性と恋愛をするRPG型乙女ゲームである。

 主人公であるセシリアは、《聖女の力》を使えるようになるため、選ばれし5種族の王子と絆を深め、《種族の力》を味方にしなければならない。【忠義(ミカエル)】の力を持つ人間(ヒューマン)の王子、ハリー・アメリア・ド・ラ・ラルフォンス。【純潔(ガブリエル)】の力を持つ森人(エルフ)の王子、レオフヴィネ・ダ・エオヘルム。【勤勉(ウリエル)】の力を持つ小人(ドワーフ)の王子、ユミル・カザード。【節制(イフディエル)】の力を持つ獣人(セリアン)の王子、ジェイク・アザロス。【分別(ザドキエル)】の力を持つ擬人(ノイド)の王子、ルドルフ・オーバークロック。この5人との親密度を上げ、それぞれの《特殊能力(ユニークスキル)》を得て、《聖女の力》を覚醒させ、蕃神の破片Ⅰ-Ⅶを討伐することが目的である。

 ゲームのラスボスポジションである、蕃神の破片Ⅰ【憤怒(サタン)】は、蕃神の破片Ⅳ【嫉妬(レヴィアタン)】が涙を流す時、突如と現れるドラゴンのことである。ゲーム内では()()()()()()()()()()とだけ説明され、どうして現れたのかなどの詳細はない。


「なので、詳しくは分からないのですが、それがこの百合畑で起こるイベントなんです」


 エリザベートの姿をした"彼"は、自分はエリザベートではなく違う世界に肉体を忘れた男であることを伝えると共に、『セシ咲く』の大まかな内容を予言のように説明し、現在の状況を整理して青年に話した。


「……そ、そうですか」


 青年はあまり理解できてないと思える返事をする。当然のことだ。それは信じ難い話であり、気が狂ったのかと心配される内容なのだから。

 話を終えた"彼"は一気に恥ずかしくなり、今更だが、話したことは全部嘘というように、慌てて否定をした。


「……な、何言ってるんだですよね! ごめんなさい。何でもないんです」


 とびっきりのはにかんだ笑顔でエリザベートの真似をして、「今のことはお忘れになってくだしましなのよオホホホ」と変な言葉を口にする。

 すると、青年は爽やかに声を出して笑い、無理に演じなくて良いと言う。


「いえ、別に。何を言っているんだとか、信じられないとか、そう思ったわけではありませんので。伺ったことは本当に起こり得ることだろうと思いましたし」

 

 青年は笑いながら、驚きはしたが嘘だとは思っていないと言葉を続けた。話によれば、セシリアをリベラル・ロゼ魔術学院に推薦した神聖イブリー帝国の教皇、聖ミスランⅠ世が予言したことに類似した内容であるため、全否定はできないとのこと。


 ――聖女の祝福にて、女は心を入れ替える。破片が1つ隠れる。


「まさか、ハリー王子殿下の婚約者がその女で、心を入れ替えるとは改心するではなく別人になるだとは」


 面白い予言だ。しかし、こうも簡単に話が受け入れられるのは、なんだか不思議な気分だ。青年は柔軟な思考回路を持っているのだなと"彼"はとりあえず思った。


 ある程度の話が落ち着けば、青年はまだ自己紹介をしてなかったと言い、紳士的な会釈をして名前を言う。


「アクシル・デ・メディシスと申します。神聖イブリー帝国の南地方、エラム教区の管理者です」


 "彼"はエリザベートの記憶を探る。そして、ぼんやりと頭に思い浮かぶ書物の文章を読み上げた。

 エラム教区とは、グリンミア王国(森人(エルフ)が拠点とする場所)に接する領土ハリールを含む場所である。そこを管理する聖人(スピリッツ)のアクシル・デ・メディシスは、16歳と言う若さで枢機卿になった、最年少枢機卿である。現在は23歳である。


「さ、最年少枢機卿⁈ 待って、オレは23歳になってやっと社会人2年目ですよ⁇ あれから未だ出世しない平社員だが‼︎」


 アクシルがどのような人物かを知り驚いた"彼"は、頭を抱えて青年アクシルを褒め称え、前世の自分を振り返り恥ずかしくなる。そして、ふと我に返り、咳払いをしてエリザベートを演じる。


「ま、まあ! 貴方があのアクシル様ですんね! 立派なお方にお会いできて嬉しゅう思いましてよ‼︎」


 またも淑女になりきれない下手な言葉で話す。そうすれば、アクシルは楽しそうに笑う。


「話し易い言葉遣いで構いません。私はエリザベート嬢をよく知りませんし、演じられても困りますので」


 気遣ってくれたのだろうか。"彼"はエリザベートの身体が覚えているお辞儀をしながら、「うっす」と返事をする。

 それもアクシルには面白いことなのだろう。鼻を鳴らすように笑われてしまう。

 "彼"もまた、自分の行動を振り返り、可笑しくなって2人で笑う。



 *

 


「それにしても、何故(なにゆえ)にアクシル様がこのような場所に?」


 百合畑を去り、アクシルに案内されてポモルスカ公爵家が所有するパティストリート(様々な菓子職人がお店を構える通り)に向かう2人は、些細な会話をしながら森の中を歩く。


「王都で薬師をしている父に会うため此処を通った感じです」


 アクシルの父はミスラン聖下の友人であり、アクシルが枢機卿になると共に、メディシス家の当主の座を降りた人物だ。そして、薬学の知恵を生かし、王都で薬屋を営んでいる。オルカン・ロード(魔術学院の生徒が利用する文房具屋などがある通り)に店を構えているようだ。


「こちらの王都はセラの森を通過しないと訪れられないので通ったまでですが、何やらブツブツと独り言を言いながら道を外れて森の中を進む女性がいたので、気になって」


「……それは、大変すみません。オレが誘っちまったんすね」


 森の奥を少女が1人で歩いていたなど、心配になることだ。迷惑をかけてしまったと思い、"彼"は謝る。しかし、良い出会いができて何よりだと、アクシルは優しく笑って答えた。その顔を見て、"彼"はなんだかソワソワし、エリザベートの体で顔を赤らめた。


「話を変えまして、……エリザベート嬢は、これからどうするのですか?」


 どうするか。それは国外追放後の話だ。ポモルスカ家はこの国にしか親戚がいない。また、国外に頼れる存在はない。エリザベートは国を追いやられれば露頭に迷ってしまうだろう。


「ど、どうしよう。普通に国外追放を容認してしまったけど、エリーさんを餓死させるような選択をしてしまったのでは……」


 "彼"は顔を真っ青にして焦った。破片が消えても、エリザベートが幸せにならないことをしたのならば、全くもって意味がない。この選択があまり良いものではないとショックを受けた"彼"は、酷く嘆いて落ち込んだ。


「オレの気持ちに従っちゃダメだったんだ。物語も変えちゃったし。いや、物語の変更はオレのせいじゃなくないか。いや、オレが悪いか……」


 "彼"は俯いて、エリザベートの周りをどんよりした空気で包み、早口でブツブツと後悔を吐く。それを見たアクシルは、どう話しかけようか悩み、微笑んで"彼"を励ますように肩を優しく叩く。


「……よろしければ、メディシス家に来ますか?」


 アクシルが提案した。エリザベートを引き取ると。どうやら、メディシス家では家のことを手伝ってくれる者が足りないようで、行く宛のない"彼"が嫌でないのならば、助けると思って家に来て欲しいとのことだ。

 アクシルは"彼"という存在を理解している。これはとても良い提案ではないだろうか。


「是非とも助けて欲しいです。どうにかオレに貴方様のお慈悲をください……」


「では、ご自宅に送り届けましたら、ご両親に提案しますね」


 "彼"はなんとかエリザベートを救えたと言い、ホッとする。アクシルはご自身のことでもあるでしょうと言い、笑った。


「ところで、(わたし)は貴方をなんとお呼びしましょうか?」


 アクシルがエリザベートの名前を呼ぼうとし、途中で考えて質問した。どうやらアクシルは"(自分)"とエリザベートを分けて呼びたいようだ。彼はエリザベートの中身が"彼"であることを知っているのだから、区別をしたいのは当然だろう。

 "彼"は元の自分の名前を教えたいとは思ったが、結局、この世界ではエリザベートとして生きる状態なため、どうしてもエリザベート以外の名前で呼ばれることには気が引け、それを拒否した。アクシルは「貴方を呼びたいんですが」と聞いてくる。"彼"はソワソワして困りながら提案した。


「エリー以外の愛称で"オレ"ってことにしませんか?」


 とりあえず、エリザベートの愛称で自分を認識させるのが良いのではと考えた。自分の考えも貫けて、アクシルの要望も聞ける。


「……では、リサとか?」


 アクシルは少し不服装だったが、リサという愛称を提案した。

 リサ。自分の愛称のようにも感じ、"彼"はとても気に入った。


「じゃ、"オレ"のことはリサで」


 "彼"は嬉しそうにエリザベートの姿で笑った。

 

 

 森の街道まで辿り着いた2人。街道の側の木には、アクシルが乗って来た馬が繋がれていた。エリザベートはその馬に同乗し、アクシルとパティストリートに向かう。道中、アクシルに抱かれた状態だったため、"彼"はソワソワが止まらなかった。

 パティストリートに辿り着けば、そこは街灯以外の明かりは殆どがない状態だった。今は夜中の3時くらいなのだから、それもそのはず。誰もが寝静まる頃に、エリザベートはやっと家の帰り道が分かった。


「……推しに好物を渡すのはちょっとやりたかったな」


 "彼"の突然の呟きにアクシルは不思議な顔をして、話を続けるようにと"彼"を見つめた。


「あー、えっと、ハリー殿下とかの好きなお菓子がこの辺に売ってて、渡したかったなって!」


 アクシルは悲しませたハリー王子にお菓子を渡したいのかと疑問を抱く。


「……猊下って、推しって分かりますか?」


「……推薦するとかですか?」


「えっと、プレシャスでライクな存在を推しって言いまして。オレの推しの好物もこの辺に売ってるんですよ」


 "彼"はオタク全開で推しというものについて語り出す。アクシルは聖下や他の枢機卿たちを思い浮かべ、崇拝したいと思う存在を推しというのかと解釈した。



 "彼"が1人で楽しそうに語っていれば、やがて公爵家が見えた。公爵家の門の前には、何やら人が集まっているようだ。遠目ながらよく見れば、どうやらポモルスカ家の家臣たちにエリザベートの父と母がいると分かった。


「あまりにも遅い! 既に国外に行ってしまったのか‼︎ え、この父に何も言わずに⁈」


「当主が娘1人にかまけて勝手な行動をしないで下さい! 騎士たちを信じてお待ちなさい!!」


 どうやら、エリザベートが帰ってこないことで父が騒ぎ、母と家臣たちが取り押さえている状態のようだ。

 エリザベートはポモルスカ公爵家の1人娘で兄弟はいない。そんな娘がこんな遅くまで帰ってこないのだ。相当心配だろう。そして、父親の言動を見るに、婚約破棄の件は既に知っているようだ。それについても話をすることがあっての混乱だからか、彼はまるで言葉が通じない魔物のように暴れていた。

 

「……あそこに行くのか、オレが」


「しっかりエリザベート嬢を演じないと」


 "彼"は(わたくし)はエリザベートと英単語を必死で覚えようとする学生のように連呼して暗示をかける。


「しかも男を連れて来たとなれば、はしたないと説教も始まりそうですね」


 "彼"を困らせるように、アクシルは楽しそうに話しかける。呼ぶまで隠れてて欲しいと相談すれば、嫌との一点張り。そうなることを望んでるだろう。"彼"は降ろせと騒ぐが、アクシルはそのまま馬を歩かせる。


 騒いでいるポモルスカ公爵家の正門にエリザベートとアクシルが近づけば、そこにいる全員がこちらに注目して更に大騒ぎする。


「エリーちゃん‼︎ どこに行ってたの‼︎ 王子に婚約破棄されて辛くてどこか行っちゃったのかと思ったよ‼︎」


 エリザベートの父は泣きながら馬を降りたエリザベートに抱き付く。強く抱き付かれたエリザベートはぐえっと声を出したが、"彼"は愛情たっぷりの抱擁に絆されて父親を抱き返した。

 次いで、母親も側によりエリザベートを軽く抱きしめたが、すぐに離れてとても冷たい目で問い詰めた。

 

「エリザベート。 いったい何を考えているの」


 静かな怒りをじわじわと感じる声色に、"彼"は少したじろぎ、モジモジと言い訳をした。


「か、悲しくて、1人になりたく思いまして、歩いて帰ることにしましたのよ」


 なんとかエリザベートを演じる。それを見たアクシルは笑いを堪える。どついてやろうかと内心で思った"彼"だが、今はエリザベートの母親と話をしているため、無視をした。

 因みに、アクシルはポモルスカ家の家臣たちに事情聴取をされていた。丁寧に説明をしている姿が確認できる。


「ポモルスカ家の人間が、そのようなことで家臣に迷惑をかけるとは。婚約破棄の(くだん)だけでも恥ずかしいことなのに。貴女の行動は自分のことを惨めにしているのですよ」


 それは親として子に対する説教だった。"彼"は家に泥を塗ったと怒られるのではと予想していたが、違ったようだ。ここまでで分かるように、エリザベートの父と母は、娘を第一に考えている。もちろん、セシリアを虐めたことはとても悪いことだと非難されたし、自分の立場を理解しているのかと注意もされた。しかし、その言葉の中には、エリザベートが苦しんでいたことを理解しようとする思いがあり、どんな状況になっても味方であるという優しさがあった。


「相手が誰であれ、己の瞬きの感情だけで相手を傷つけてはなりません。その時はとても嫌な気持ちになったのでしょうが、それは堪えるべきものです。そこで堪えなければ、貴女はもっと傷つくことになるのですから」


 全くもってその通りだと思った。"彼"は何かを思い出すように、自分のことのようにエリザベートへの説教を聞いた。


「もう、そこまでにしようか。このままだと送ってくれたこの方が困ってしまうからね」


 あれたけ取り乱していた父親は正気に戻って仲裁に入った。母親は咳払いをして説教を止め、家臣たちの聴取を終えたアクシルに挨拶をする。


「この度は娘を家まで送っていただき、ありがとうございます。失礼ですが、お名前は?」


「アクシル・デ・メディシスです。大したことではありませんので、お気になさらず。それと――」


 エリザベートの父と母がその名前を聞いて驚く最中、アクシルがエリザベートの前に跪き、彼女の右手を取ってその甲にキスをした。2人は更に驚く。"彼"もまた何が起こったのか理解できずに硬直する。


「唐突ですみません、エリザベート・フォン・ポモルスカ公爵令嬢。ハリー王子との縁談がなくなったと聞き、急ぎ、この気持ちを伝えたくなりました。――」


 

 「――私の妻になってください。」


 

 そこにいる皆が言葉を失う。それは、混乱を招く内容で、疑いたくなる話だからだ。


「……え? 何? どゆこと??」


 "彼"は混乱した。引き取るとはメイドとして雇うなどではなく、まさか夫婦になることなのか。


 自分が、アクシルの、妻になる。


 アクシルは自分がエリザベート本人ではないことを知っているのに、何故、その提案で話をしようと思ったのだろう。アクシルが結婚したいと思ったのはエリザベートではないということ。即ちーー

 "彼"は顔を真っ赤にし、訳が分からず素を出してしまう。淑女らしからぬ悲鳴を上げ、急に何が始まったのだろうかとアタフタする。


「なんで?」


「……一目惚れしたので?」


「え、疑問系なの??」

 

 アクシル曰く、彼は百合畑で出会ったエリザベートに一目惚れをしたそうだ。そして、話をすれば自分と気の合う人だと分かったので、更に好きになったとのこと。また、この件を聞き、結婚を申し込んでもいいだろうと考えたそうだ。"彼"はなるほどと呟く。しかし、これは思いつきでしかない。事前にエリザベートを引き取ると話していたのだから。この申し出は不自然だ。何故、そんな方法で。本当に、まさか。


 頭が混乱する。見つめる先には優しい笑顔。本当に(オレ)に恋をしたのか。


「本当に、お嫁にしたくて?」


 赤くなった顔が熱い。

次→閑話Ⅰ『義憤』


更新:2024/9/7(内容の変更)

   2024/9/14(内容の変更)

   2024/9/16(誤字脱字の修正)

   2024/9/17(内容の修正)

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