9.オタクは推しのことになると饒舌になります。
「影原さん・・・・・・おはよう」
翌日出勤すると、三好さんがいつものパソコンの前で、何やら撃沈していた。
「お、はようございます。えと、どうされた、んですか・・・・・・?」
「待ってたよ、影原さん。これ助けて」
そう言いながら差し出されたのはスマホだった。なんだろうと覗き込んでみると、ナイライのライブリザルトが表示されていた。
ナイライはリズムゲームである。音楽に合わせて流れてくるブロックをタイミングよくタップしていく。
そのタイミングの良さ、それとガチャで排出されるファルベン達のカードを使っての編成によってスコアが変わり、スコアによってランクが決まる。CからSまで。
ストーリー進行には話によって決められている必要ランクが決められており、そのランクを取らないと先に進めないわけだけれど・・・・・・。
「全然B取れないんだよ・・・・・・」
三好さんのスマホ画面には『ランクC』と表示されていた。成程。
「昨日夜ムービー観た後、指示に沿って進んで来たのは良いんだけど、難しくて全然スコア足りなくて。夜通しやってたんだけど進めないんだよ」
「夜通しですか!?」
確かに今日の三好さんはどこかやつれている。陽キャパワーが1割減といったところか。
でもわかる気もするな。私もイベント時には夜更かしをしてしまって寝不足で陰キャ度が1割、いや3割増しになってしまう事がある。
「ストーリーの続きが気になって思わず。面白いねナイライ」
三好さんがアハハと笑う。わかる。私も履修しだした時そうだった。
「そう、ですか。えと、編成、ってどうなっていますか」
「編成・・・・・・ええと、これ?」
一度ライブ画面を閉じ、ホームに戻って編成画面を開いて頂く。すると編成中のカードは初期のヴァイス様1人になっていた。
「あ、これ編成変えないと・・・・・・」
「編成って何!?」
「ここにセットするカードを決めることです。カードをセットすると、ファルベン達がスコアを増やしたり、取り逃したブロックをOK判定にしてくれたりと、ライブをサポートしてくれるようになります。他に持っているカードはありますか?」
「えっと」
所持カード一覧を開くと最初に貰えるヴァイス様しかいなかった。スコアが全く上がらないやつ。
「まずはガチャを回してください」
「ガチャ?」
「カードを手に入れるためのゲーム内のガチャガチャです。それでスコアが上がりやすいカードや推しのカードを手に入れます」
「なるほどー!」
さすが影原さん、頼りになる! と何やら褒められた。
褒められるようなことしたかな、と不思議に思いながらも、「ガチャ画面どこ? ここはどこ?」とアプリ内で迷子になった三好さんに慌ててフォローを入れる。
「ガチャ画面はこちらです」
「おーありがと! ん、5GBのダウンロードがあるのか」
「最初の方はダウンロード多いんですよね」
「これ、もしかしなくても今日もやれないパターンか・・・・・・」
続きが気になるのにー! と言いながら三好さんは椅子に全力でもたれかかった。あまりにも勢いよくもたれかかるので転んでしまわないかとハラハラしたけれど、そんな心配を他所にすぐに体制を戻した三好さんはニコッと笑った。
「にしても、やっぱりナイライのことだと影原さん、沢山話すね」
そう言われて、やっと自分がしてしまったことに気がついた。今、私は何を──。
・・・・・・しまった。またやっちゃった。
「す、すみませんっ!」
慌てて頭を下げると、三好さんが「え、何で!?」と驚いた。
「調子に乗って、沢山話、ました。気持ち悪、かったですよね。すみま、せん」
「いやいや、謝らないで!? てか怒ってないよ俺!?」
「でも、不快な気持ちに、させてしまった、かと・・・・・・」
「なってないなってない!」
寧ろそれどころか、と三好さんは続けた。
「俺は嬉しかったよ、影原さんが沢山話してくれて」
「・・・・・・へ?」
顔を上げて、三好さんの顔を見る。少なくとも、嘘を言っているような顔には見えなかった。陰キャの人間観察の目で見る限りは、だけど。
「影原さんと話してみたいなーって思ってたから。だから話してくれて嬉しいよ」
三好さんが椅子から腰を上げながら時計をちらと見やる。それに釣られて見れば、もう交代1分前になっていた。
「だから、良かったらこれからも俺と喋ってね。何よりナイライ進めるの助かるし」
「え、え・・・・・・?」
「よろしくね、先輩従騎士さん」
そう言って、三好さんは「行こうか」と歩きだした。その後ろ姿に尋ねたいことが沢山あった。
お友達沢山いるはずなのに、なんで私なんかと話したいって思ったんですか? 気持ち悪くないって本当ですか? もっと話しても大丈夫なんですか?
その疑問はどれひとつとしてしっかりとした形にならなくて、出すことも出来ずに口の中で静かに消えていく。言葉を形にして出すのは、昔から苦手だった。
出したソレが、いつ拒絶の形になって返ってくるか分からないから。拒絶されるのは、もう嫌だ。
形にならなかったそれらをごくんと飲み込んで、三好さんの後に続いて事務所のドアをくぐり抜けた。




