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50.不肖、オタクです。


 それから、一ヶ月が経った。


「ゆーいーっち!!」


 大学構内を歩いていると、斜め後ろの方から私を呼ぶ声が聞こえてきた。それにすぐに反応し、振り返って手を広げると、メルちゃんが私の腕の中に飛び込んできた。ナイスキャッチ。


「ゆいっち、私の扱い上手くなってきてるー!」

「ゆずちんのを見て、真似してみたの。上手くいって良かった」

「ゆいっち天才!!」

「だからって飛び込むのは危ないからやめなよー?」


 ゆずちんがいつものようにメルちゃんに注意をしながらやってくる。これももう見慣れた光景だ。それにふふ、と笑いながら、三人で構内を歩く。


「さっくんは?」

「今日はもう帰っちゃった。呼び出しだって」

「呼び出し?」

「スマホ見てそう言ってた。面倒くさそうに構内でフルフェイスヘルメットかぶってフラフラ歩いて帰ってたよ」


 何故かヘルメット姿で構内を歩く男子学生の姿を想像して、笑った。なんかシュールだ。色んな人に振り返られてそう。


「それより! 今日はゆいっち、バイトなんだよね?」

「うん。もうこれから向かうよ」

「気をつけて」

「ありがとう」

「今日は三好さんと一緒?」

「そうだよ」


 そう答えると、メルちゃんはいーなー! と言った。


「彼氏と同じバイト先、羨ましい!」

「ちゃんと公私は分けてるよ」

「でも、いつも見られるわけじゃんー! いーなー!」


 まあ、たしかにそれはわかる。しっかりバイトに私情を挟まないようにしているとはいえ、いつもそこに三好さんがいて見てられるのは幸せだ。・・・・・・まだこの感覚に慣れないけど・・・・・・!


「仲良くやってる?」

「う、うん」

「そっか。それなら良かった」


 そんなことを話していると、あっという間に校門と校舎の分かれ道について、二人に別れの挨拶をする。またMINEするねー! と手を振るメルちゃんに手を振り返してから、歩いてコンビニへと向かった。


***


「おはようございます」


 いつものように事務所のドアを開けると、三好さんがこれまたいつものように「おはよー」と返してくれる。こんな当たり前の、少しのことすら凄く良いなと思ってしまう。んん、公私混同ダメ、絶対。と心の仲で唱えて、いつものパイプ椅子に座った。

 荷物を横に置くと、ヴァイス様のアクリルストラップが揺れる。それに微笑んでいると、突然頭上から「影原さん、ちょっとこれ助けて」という声が聞こえてきた。

 顔を上げると、三好さんの顔が思ったよりも近くにあってビックリして「ほわっ!?」という変な声が出た。うう。三好さん笑ってる。恥ずかしい。


「ど、どうしたんですか」

「ナイライのイベントの走り方がわからなくて。教えて?」

「あ、双六のやつですね。これは──」


「影原ちゃん。お客様が影原さん呼んでって言ってるけどどうする?」


 二人でスマホを覗き込んで説明をしていると、昼勤さんの人が「あらぁ」と言う声を小さく嬉しそうに漏らしてから、そう言った。なんか恥ずかしい。・・・・・・ていうか、お客様?


 不思議に思って防犯カメラを見ると、見慣れた二人が立っていた。


「い、行きます! 三好さん、あとで説明しますね!」


 慌てて事務所から飛び出して、カウンターから出て入口近くに立つ2人に声をかける。


「ルイさん! さっくん!」

「やっほー」

「くそ。呼び出し何かと思ったら・・・・・・」


 上機嫌なルイさんと、さっくんを見るに、恐らくさっくんの“呼び出し”はルイさんからの呼び出しで、ルイさんに「バイクの後ろに乗せてってくれ」とでも言われて来たのだろう。

 ルイさんはあれから、たまに外に出るようになった。その主な理由が私に会うためなのだが、電車やバスは人が多くてまだ乗れないそうだ。

 そこで、バイクを持っているさっくんに頼んでバイクに乗せてもらって移動をしている。さっくんはそれを面倒と思っても「せっかく外に出るようになったんだし」という気持ちと「実姉とはいえ、同担を無下にできない」という気持ちがあって断れないらしい。

 ちなみに、二人がお互いにヴァイス様推しということを知ったのは一か月前のあの日だったそう。それ以来、よく喋るようになって仲良くなったとルイさんが言っていた。良かった良かった。


「ユウの顔見たくなって、来た。あいつに泣かされたりしてないか?」


 いつものようにフードを被り、マスクをしているルイさんの表情はよく見えないが、いつも私に対して話す声が優しい。


「うん。大丈夫。いつも優しいよ」

「そうか。ならいいんだ。それならな」


 ルイさんが鋭い目で私の後ろを見る。え? と思って振り返ると、三好さんがいた。ニッコリと笑顔を浮かべているのに、目が笑ってない。


「御用がなければ退店お願いいたします」

「店員がそれ言っていいのか」

「店員だから申し上げているんです」


 ああ、この二人仲悪いなあ。仲良くして欲しいのに。


「用ならある。ユウ」

「なに?」

「これ、やる。ぼくの部屋にあったやつだ。いつかユウにあげようと思ってたやつ、やっとまとまったから」

「え、これ、全部ヴァイス様のグッズ!? これ四周年記念限定のヴァイス様!!」


 ヴァイス様の山に、私のテンションが上がった。


「このヴァイス様格好いいよねー長い裾の服似合いすぎ。ていうか紫色との相性抜群すぎて泣ける。こっちのヴァイス様は雑誌コラボのやつだ! 現代パロ衣装尊ー!」

「わかる。めちゃくちゃいいよな」


 ルイさんと三好さんとさっくんしか近くにいないのをいいことに、思わず早口で感想を述べる私にさっくんが乗っかる。それをルイさんと三好さんが嬉しそうに眺めている。


「影原さん。そろそろ仕事の時間だよ」


 十七時少し前になって、三好さんがそう声をかけてくれる。それに「はい」と返事をしてルイさんに頭を下げる。


「これ、ありがとう。大切にするね」

「飾る場所が出来たって本当か? 良かったな」

「うん、三好さんが家に置いてくれるって」

「え」

「影原さん、行くよ」

「あ、はい!」


 それどういうこと!? となってるルイさんに「あとでMINEで説明するね!」と言って、一度事務所に戻って制服とエプロンを身にまとい、店舗に繋がるドアの前に立つ。

 

「よーし。今日も頑張るかー」

「はい!」

「明日はデートだしね」

「い、今そういうこと言わないでください・・・・・・!」

「ごめんごめん。反応が可愛くて」


 だからやめてください! と怒りながら、ドアを開けて店舗に足を踏み出す。


 不肖、影原優依。本業、オタク。副業はコンビニアルバイター。

 少し語れるようになった私は、今とても幸せです!



               終

後書き、ここでは長くなってしまうので次のページにて失礼いたします。

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