48.本音です。①
「影原さん、大丈夫!?」
息をきらせてそこに立つ三好さんに、私は呆然とした。え、本当になんでここに? ていうか帰ってなかったの!?
「ちっ。思ったより早かったな」
「え? ええ??」
ルイさんがぐいっと私の肩を引き寄せる。それに三好さんが「影原さん!」と駆け寄ってきた。
な、なにこれ? 何が起きてるの? 何ひとつとしてわかりませんが!? 誰か説明してええ!!
「ルイさん、何、こ・・・・・・」
「ふん。あんな血相変えてきやがって。そもそもが」
走りよってきた三好さんが目の前にやって来たのと同時に、私はルイさんの腕から解放された。と、思ったら、ルイさんは今度はその手で三好さんの胸ぐらを掴みあげた。
え、えええ?!
「てめえ、この野郎! ユウ泣かせやがって! ×××を×××してやろうかあ!? ああ!?」
ルイさんーーーー!!??!?
「ちょ、何してるの!? あと何言ってるの!?」
「お前のこと絶対に許さねえからな、このクズ!」
「ちょ、ちょっとごめんルイさん、これどういう状況!? 手を離してあげて!!」
私がそうお願いすると、ルイさんはあっさり三好さんから手を離した。三好さんは掴まれていた胸元をさすった後「あんたなんなんだよ!?」と言った。
「いきなり胸ぐら掴みやがって! ルイはどこだ!」
「ぼくがルイだ!!」
「・・・・・・え、女?」
「おめえもか!! ユウはいいが、お前が勘違いしてたのは許さん!」
「ルイさんルイさん! 落ち着いて!!」
また胸ぐらをつかもうとしたので、慌てて間にはいる。ルイさん、結構血の気が多いタイプのようだ。初めて知った。
「ルイさん、この状況って、どういうこと?」
「ん? ぼくがユウを囮にあいつを呼び出しただけだけど」
「どうやって?!」
「ツブヤイターのダイレクトメールだよ。前にそいつにぼくのアカウント特定されて、メッセージ送り付けられたからアカウント知ってたんだ」
「おい、人を悪い奴みたいに言うな。相談しただけだろ」
「あの時は良い奴って思ったのに、とんだ勘違いだったなクソが」
チッというルイさんの舌打ちが聞こえてくる。もうなんか、色んなことが気になりすぎる。全部一から問いただしたい。何がどう言う話??
「とにかく、それでアカウント知ってたから、ダイレクトメッセージを送ったんだよ。ユウは預かった。無事でいて欲しくばここに来いって、証拠としてヴァイス様のアクリルストラップの画像つけて」
「えええっ」
「いなかっただろ」
「最初に送った住所はダミーだ。万が一居場所を特定されてユウとぼくの時間を邪魔されたら困るからな」
「ふざけんな、人がどんだけ・・・・・・!」
「知らねえよ!」
ルイさんは間にいる私をすっとどかすと、三好さんに詰め寄った。
「ユウを泣かせたのはてめえだろうが! それが何今更心配だ何だのほざくんだ! この最低野郎が! てめえなんて一生ガチャで推し以外のNだけ出してろ!」
「どういう脅しだよそれ!」
あああ。
「うるっせえ! その汚い口を開くな! お前みたいなクソ野郎は初めて見たわ! ふざけんな!」
あああああ。
「このクズが! ユウを悲しませて泣かせたてめえはどクズだ! クズクズクズクズクズ」
「る、ルイさん! もうやめて!」
私は堪らなくなって、ルイさんの腕を力強く引っ張った。もう聞いてられない。
「三好さんはそんなクズでも最低の人でもない! いくらルイさんでもそんなことこれ以上言ったら許さないから!」
私より上にあるルイさんの顔を見あげて、そう言い放つ。ルイさんは少しの間ぽかんとしたあと、急に「ふふふ。はははっ」と笑いだした。
「なんだ、ユウ。言えるじゃんか、本音」
「え」
「ぼく相手にも言えるなら大丈夫だろ。ユウはちゃんと自分の思うことを言える。そうやって、ちゃんと言えばいい」
そう言いながら私の手に触れてきたルイさんの手が震えているのを感じて、私はようやく気がついた。今、ルイさんが三好さんに散々言ったのは全部演技だったのだ。
ルイさんは昔、男の子にいじめられて酷い目にあった。だから人と話すのは、とくに三好さんのような大きな男性に向かって暴言を吐くなんて、怖いことだったんだろう。
なのに、私のために必死で頑張ってくれたのだ。
・・・・・・私は・・・・・・。
「ルイさん・・・・・・ルイさん、ありがとう」
「何が?」
「とぼけるの上手だね、ルイさん」
「ユウ。ぼくは離れてお前を見守ってる。お前が泣かされるようなことがあれば、すぐにすっ飛んできてそいつを殴り飛ばしてやる。だから、安心しろ」
「・・・・・・うん」
ルイさんは私から離れ、三好さんの横を通り過ぎる時に「泣かせんなよ」と一言釘をさして、空き地の隅っこまで歩いて行った。
「なんなんだよ、あいつ・・・・・・」
「ルイさんは、とても優しくて、強い人なんです」
ぼやく三好さんの前に立ち、見上げる。向き合うのは怖い。自分の思うことを話すのは、もっと怖い。でも、私も勇気を出さなくては。




