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47.ルイさん③


「そして自宅警備員のニートが誕生したわけなんだが、この年でニートはやっぱり親にも心配されてさ。大学生活満喫中の弟は優秀だから余計にな」

「え、ルイさんっていくつなの?」

「二十五」

「思ったより歳近い・・・・・・」

「それは喜んでいいのか悪いのか」

「落ち着いた大人って感じって意味だよ」

「そんなに大人って感じでは無いが、喜んでおこう」


 ルイさんが棒読みでワーイと言う。それにくすりと笑ったあと「それで」と話しの続きを促した。


「・・・・・・ぼくはさ、外に出たくないわけじゃないんだよ。ぼくだって普通に外に出て遊びたいし、普通に働いて普通の人らしく過ごしたい」

「ルイさん・・・・・・」

「だけど、家からどころか、部屋から出ようとすると足がすくんで動かなくなるんだ。それが就活が理由でも、オタ活が理由でも変わらなかった。外に、出られなかった」


 昔送ったバイクの写真は弟のだ、とルイさんは言った。憧れて、いいなと思って、バイクの免許の勉強はしたらしい。でも、足がすくんで免許を取りには行けなかった。


「情けないだろ? ぼくは、ユウが思うほど大人でも強くもない。ぼくみたいに強くなりたいと言ってくれたけど、ぼくよりユウの方がよっぽど強い。・・・・・・会おうと思わなかったのは・・・・・・会いたくなかったのは、これが一番の理由。会って、何らかでこの話がユウに知れて、幻滅されたり嫌われるのが怖かったんだ。スマホ越しならバレることもない。そう思って」


 ルイさんが自嘲気味に嗤う。室内でもフードを被って顔を隠すようにしているのも、過去のことが理由だろうか。


「そんな、幻滅なんてしないよ。ルイさんはルイさんだし、ルイさんがいつも私に勇気をくれたのは間違いない。嫌いになったりしないよ」

「ありがとう。ユウは優しいな」


 と、まあそんな訳で、とルイさんが話を戻す。そうだ、大切な話がまだだ。


「ぼくはそんな自分に嫌気がさして、全てを終わらせたいと思った。そんな矢先に出会ったのがユウだった」

「ルイさんが、声をかけてくれたんだよね」

「そう。ユウには悪いけど、あれは気まぐれだったんだ。どうせもうすぐ終わる人生。ずっと一人だったんだから誰かと最期くらい話して終わろうって思ってた」


 ロープと椅子を用意した部屋で、ルイさんは適当に人を探して、そして見つけた私にメッセージを送った。『ヴァイス様、お好きなんですか?』。私とルイさんを繋げてくれたあのメッセージの裏に、そんな事情と背景があったなんて。


「ユウはあの時、緊張していたのか凄く途切れ途切れの返事をしてきたな」

「ご、ごめん。同担さんから話しかけられるなんて初めてだったから、どうしたらいいのかわからなくて」

「いーよ。今ならその時のユウがどんな状態だったのか何となくわかるし。それに、ユウは、ゆっくりだけどかならず返事を返してきた」


 その時のことを私も思い出す。初めて声をかけられて焦って、緊張して、震えが止まらない手で必死で返事を返していた。


「数分に一回ポンって現れるメッセージに、最初は気まぐれで返してた。でも、徐々に返事が来るのが楽しみになっていった」

「ゆっくりだったのに?」

「うん。ゆっくりでも、たどたどしくても、ユウの返信には毎回どれだけナイライが楽しいか、どれだけヴァイス様が好きか、どれだけ夢中になっているかが詰まっていたから」


 気がついたらロープのことも忘れてやり取りに夢中になってた、とルイさんは笑った。私なんかの返事を、そんな風に受け取ってくれてたなんて。


「そうしてやり取りをしてるうちに、ぼくは思ったんだ。この子、凄く楽しそうに推しのことを話すな。ぼくはまだ、こんなふうに楽しめたことがない。ナイライは好きだったけど、こんな風に心の底から楽しんでいたかと言ったら、多分違う。・・・・・・この子のように、心の底から楽しんでみたいと、そう思った」

「ルイさん・・・・・・」

「ロープはその日に捨てた。ぼくは、ユウに命を救われたんだ」


 だからな、とルイさんは続けた。


「ぼくは、何をしても足りないくらい、ユウに感謝してるんだよ。あれから、ぼくはナイライを本当に好きになった。ヴァイス様を好きになれて、推し活も楽しくなった。それは、ユウがいたから」

「私・・・・・・」

「どれだけ落ち込んでも、辛くても、ユウと推しの話をしてると楽しい気持ちになれて、もっと楽しみたいって気持ちになって、ぼくはこの世界に留まれた。ユウがぼくを慕ってくれるようになってからは、余計にこの子を悲しませてはいけないって思った。ぼくを好いて褒めてくれる君に、見合うようなぼくでいたいと思うようになったんだ」


 そう言って笑うルイさんは、とても晴れやかな顔をしていた。

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