47.ルイさん①
『ゆう、どうした!? 何があっら!?』
すぐに既読がついて、ルイさんが返信が返ってきた。名前変換できてないし、誤字をしている。きっと慌てているのだろう。
それに申し訳なく思いながらも、スマホに指を滑らせた。
『先輩が、自分は私が思ってるような人じゃないって言われて。今まで私に関わってきたのはただの自己満足だって』
『は? なんだそれ』
『私、それは違うって思ったのに、何も言えなくて、逃げ出してきちゃった』
どうしよう、と改めて思う。どうしよう、逃げてきちゃった。
『もうダメだよ。私、きっと先輩を傷つけた。違うって言わなきゃいけなかったのに、何も言えなかった。私は、先輩に救われたのに』
『ユウ』
『私、本当にダメだ。もうどうしたらいいのかわからないよ』
『ユウ落ち着け! 一旦黙れ!!』
ルイさんの制止に、私の指がビクリと止まる。ルイさんはハッキリした喋り方をする人だけど、こんなふうに鋭く言われるのは初めてだった。
ルイさんは私の動きが止まったのを確認したのか、『悪い』と言った。
『キツい言い方して悪かった。でもこう言ってでも止めないと、ユウがどんどん沈んでく気がした』
『ルイさん・・・・・・』
『なあ、ユウ、今どこにいる?』
突然の質問に、え、となる。えっと・・・・・・ここは、どこだろう?
『知らない住宅街・・・・・・』
『最寄り駅は? そこに行く時、どの駅で降りた?』
ルイさんが私の所在を聞いてくるなんて初めてだ。危機感がないと怒られることを覚悟した上で、オタメイトの最寄り駅の駅名と、そこからどれだけ離れたか分からない旨を打って送信した。
『思ったより近いな。わかった、今からそっちに行く。30分・・・・・・いや、10分待ってろ。すぐに向かう』
・・・・・・。
えっ!?
『ルイさん、来るの!?』
『ダメか』
『ダメじゃないけど、私に会いたくないんじゃなかったの!?』
前に会いたいなと話した時に『ダメ』と言われたことを思い出す。てっきり、会うことなんてないと思ってたのに。
『会いたくないというか・・・・・・あー、会うつもりはなかったけど、今はそれどころじゃないだろ。悲しんでる友達放っておちおち家にいれるか』
会うつもりはなかったのに、私の為に駆けつけてくれるんだ。私の周りの人達は、本当に優しすぎる。
『ユウ、どっか喫茶店入ってろ。んで、店名教えてくれ。すぐに行く』
『わ、わかった』
とはいえ、この辺りに土地勘はない。ネットで近くの喫茶店を調べて、ナビの指示に従って歩いていく。
数分歩いてたどり着いたのは、マンションの1階にある小さな喫茶店だった。
オシャレなドアのガラスに「Glueck」と書いてあるのを確認してからドアを開けて中に入ると、コーヒーのいい香りがして、少し落ち着いた。
「いらっしゃいませ。おひとりですか?」
恐らく七十歳くらいの、穏やかな雰囲気の上品な女性が出迎えてくれる。
「あっ、はい・・・・・・えっと、あとで、もう1人、来ます・・・・・・」
「待ち合わせですね。かしこまりました。こちらへどうぞ」
多分いまの私は顔がめちゃくちゃなのに、女性は何も言わずに一番端っこの目立たない席に案内してくれた。その心遣いがとても有難い。
「ご注文お決まりになりましたら、そのベルを鳴らしてください」
そう言って女性が指さした先には、ハンドベルがあった。お店の雰囲気を壊さず、更に声を出すのが苦手な私のような人にも配慮されているシステムだ。
「はい、ありがとう、ございます」
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
女性がお冷を置いて去ったのを見届け、スマホの画面を点灯させる。ルイさんとのメッセージ画面を開いて、お店の名前を送信するとわかった、という返事が来た。
ふう、とひとつ息を吐いて、水を口に含む。喉がカラカラだった。顔も熱い。多分メイクも崩れているし、メルちゃんには悪いけれど化粧は落としてしまおう。
席を立ち、化粧室に入って鏡を見ると、想像以上に私は酷い顔をしていた。こんな顔で入ってきた客を見ても全く動じなかった店員さん、凄い。手のひらに水を貯めて顔にかけると冷たい水が火照った顔を冷やしてくれた。
ペーパーで顔を拭き、化粧室を出て席に座ってメニューを見始めたところで、お店のドアが開く音がした。
「いた! ユウ!」
慣れたハンドルネームを呼ばれ、顔を上げる。上げて、ルイさんの姿を見て、え、と固まった。
「る、ルイさん・・・・・・?」
そこに立っていたのは酷く息を切らしている、黒いフードを被ってマスクをした──女性だった。




