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5.めちゃくちゃ話しかけてくるのですが、誰か助けてください。


 ふう、と呼吸をひとつ。中々ドアを開けない私に昼勤さん達がどうしたの? みたいな視線を送ってくるのを感じつつ、事務所のドアを開けた。


「あ、おはよう」


 そこには既に三好さんの姿があった。いつも早いな、この人。パタン。


「ちょ、なんで閉めた!?」


 中から三好さんの声が聞こえてきた。何でと言われても、私にもわからない。何となく三好さんの姿を見た瞬間、閉じてしまった。

 すみませんと思いながらもドアノブを握りしめる。昨日あれだけルイさんにエールを送ってもらったのに、やっぱりダメだ。

 いよいよ昼勤さんの人達が心配そうにこちらを見てきた。

 いや違うんです、三好さんが悪いわけじゃないんです、という気持ちでそちらを見て小さく首を振ってみせると、昼勤さん達はほっとした顔をした。


 改めて、ドアノブをゆっくりと捻る。大丈夫。嫌われていたとしても、ルイさんがいる。大丈夫。大丈夫。


 えい、とドアノブを捻ってドアを押し開けると、何か大きいものにぶつかった。


「わぷっ」

「おわっ!」


 自分のものでは無い驚いたような声に、更に驚く。

 何事かと思って見あげると、ぶつかったのはものでは無く、三好さんだった。


 うわあああ!?


「ビックリした。影原さん、怪我ない?」


 テンパった私の頭の中を何故か「ぶつかるとか、三次元だ!」という感想が過ぎった。二次元に慣れすぎである。

 驚きとテンパリで多分数拍、そのまま固まっていた私を三好さんが「影原さん? まさか怪我した? 大丈夫?」と心配した。その声にハッと我に返る。危ない、今どっかに行こうとしてた。


「だ、大丈夫ですっ! 怪我ないです! すみませんでした! ぶつかったのは私の方なのでお気になさらず。それよりも三好さんこそお怪我ありませんでしたでしょうか」


 慌てて三好さんから離れ、早口で言いながら頭を下げる。

 どうしよう、怒られる。ドアを閉めた挙句、ぶつかるとか怒られる案件に決まっている。ただでさえこの間の対応の関係でどうしようって思っていたのに、更に問題を起こしてしまった。ああ助けて神様ヴァイス様・・・・・・。


「ふっ、はははっ」


 そんな私の脳内反省会とは裏腹に、聞こえてきたのは三好さんの笑い声だった。え、なんで? と顔を上げると、三好さんは「ごめんごめん」と笑いながら言った。


「影原さんってそんなふうにも話せるんだ。ちょっと意外でビックリした」

「えっ、あっ」


 慌てすぎていつもの脳内早語りの勢いでまくし立ててしまった事に、この時やっと気がついた。ああ、引かれたかな。この職場にいれなくなったりしたらどうしよう。


「俺も怪我ないから大丈夫だよ。気にしないで」


 そんな私の心配をよそに、三好さんはカラッとそう言って事務所にの定位置であるパソコンの前の椅子に戻って行った。

 あれ、怒ってない・・・・・・?


「あの、」

「それより、昨日あれからナイトライブについて調べたんだ」


 だから今日影原さんが来るの待ってた、という言葉を聞きながら、私はフリーズをした。思考停止。・・・・・・え、今なんて?


「影原さん好きじゃないのかも知れないけど、絵柄が格好良かったから気になっちゃって。昨日見てたのはヴァイスさん?」


 ・・・・・・。


「何故」


 暫く思考停止して、やっと出た言葉がそれだった。


「凄く気になっちゃって。結構キャラ沢山いるんだね。全員絵柄が良いの凄いね」


 いや、その何故、では無い。

 私の何故は、何故三好さんからヴァイス様の名前が飛び出しているのか、という意味の何故、だ。


 まっっっ、え?


 調べた? 三好さんが? ナイトライブを?

 あんなイケメンしか出てこない乙女ゲームという謳い文句がついた(実際は乙女ゲームではないであろう)ゲームを??

 しかも絵柄を褒めていらっしゃるときた。そうでしょうそうでしょう。全員ビジュアルがいいんですよ。私の最推しはヴァイス様ですけど、全員格好いいんですよ。


 じゃなくてっっ!


「アプリゲームなんだね。面白いの?」


 興味を持たれてしまった。つまりこれは、話をしなければいけない流れ、ということになる。

 ここで普通の人なら布教チャーンス! となるだろう。興味を持っている相手ほど絶好の布教相手なんて居ない。ここぞとばかりに魅力を語って沼に引きずりこんで差し上げるべきだ。


 そう頭ではわかっているし、ヴァイス様の名前が出てきた時点で語りたい欲は限界突破しようとしていた。

 だけど私は語れないオタク。そう。この状況ですら語れないオタクである。これが本物の(?)語れないオタクだ。


「ええと、」


 ああ。だからオタクを隠してきたのに。語る必要が無いように。語れなくて、自分が苦しまずに済むように。


「た、太鼓の鉄人が好きな人は好きだと思いますっ!」


 ・・・・・・。


 何それ(セルフツッコミ)。


「へえ、そうなんだ」


 ほら、三好さんも興味なくしてきてるよ。いやこの場合、これはいい事なのかも。これで、三好さんもきっとナイライの話をすることもなくなるはず。


 これで、いい。


「えと、タイムカード、押しても、いいですか」

「あ、どうぞ」


 すかさず話題を変えて、タイムカードを押す。胸の奥に少し穴が空いたように感じるのは、きっと気のせいだ。

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