38.三好さんの様子が少しおかしい気がします。
それから、時間はどうするとか、ていうかどこ集合するとかそういう話をした後、それぞれ講義で解散した。同じ講義だったら良かったんだけど、私は文系で二人は理系の講義を取っているそうだ。理系は苦手だからどう頑張っても合わせられない。無念。
「その分たくさん遊ぼうね!」と別れ際に言ってくれたメルちゃんの優しさが心に沁みる。本当にいい友達出来たなあ。
今日もそんなウキウキの気分でコンビニに入り、カウンターを抜けて事務所に入る。友達は出来ないだろうし、出来ることが想像できないと思ってたけど、友達っていいな。考えるだけで嬉しくなる。
「おはようございます」
ガラッと事務所のドアを開けると、三好さんが「おはよう」とパソコンを見ながら返してくれた。いつも通りの声色、いつも通りのイントネーション。でも、何か違和感を感じて、首を傾げた。・・・・・・気のせいかな。
「あの、三好さん」
「ん?」
「昨日の告知、ゴルトさんでしたね」
「ああ。ガチャね! 困るよね、連続ガチャ」
あははと三好さんが笑う。いつも通りの笑顔。なのに、違和感を拭いきれないのはなんでだろう。
「三好さん・・・・・・少しお疲れ気味ですか?」
「え? なんで?」
「いえ、その、少し元気がないかなと」
「そうかな!? いや実は寝不足でさ。心配かけてごめんね」
「そうだったんですね。もしお辛かったらいつでも仰ってください」
「ん。ありがとー」
そう言って、三好さんはスマホを取り出した。そっか、寝不足。以前イベント走っていて寝不足になっていた時に陽キャパワーが一割減になっていたから、違和感の正体はきっとそれだろう。
──本当に?
そう思うのに、何かが胸に引っかかる感覚がする。なんだろう。わからない。うーん。
「・・・・・・ねえ、影原さん」
「は、はいっ」
「今度の土曜日、空いてる? バイト休みだったよね?」
「えっ」
突然の質問に、心臓が跳ねる。土曜日!? 土曜日は、メルちゃんとゆずちんとショッピングモールへ行く日だ。残念だけど、二人との約束が優先だ。今回は断らなくては。
「すみません、その日は友達との約束が・・・・・・」
「あ、そうなの? そっか。じゃ、忘れて」
三好さんはそう言って、スマホを見た。んん、やっぱりなんか、変な感じがする。でも、何かわからない。んんんー。
「そろそろ行こうか」
十七時になり、三好さんが立ち上がる。それに続いて立ち上がり、店舗へ出た。
「俺、まず店内清掃してくるね」
「は、はい!」
昼勤さんと交代し、三好さんが素早く清掃に入ってくれる。残された私はこの間はレジを見ながらおでんの追加仕込みをする。うーん、大根増やした方がいいかな。卵も・・・・・・。
そう考えながら、ちらりと三好さんを見る。ううん。なんか、なんか変。なんだろう。
大根と卵の仕込みが終わったところで、今度はおにぎりが来るのでそれを検品して納品をしていく。並べる時もいつものように「ここ、こっちの方が」とか話すけれど、話し方も表情も同じなのに、何かが違う気がした。
結局、それは終業の時間まで変わることはなく、私はモヤモヤしたまま仕事を終えることになった。
──うーん。本当にわからない。やっぱり三好さんが言うように、寝不足なんだろうなあ。本人がそう言ってるんだし、疑う余地なんてない。なのに、なんでこんなにモヤモヤするんだろう。
「影原さん、お疲れさま」
三好さんがあとから事務所に入ってきて、労ってくれる。それにお疲れ様ですと言いながらタイムカードの前をどいた。
「今日は暇だったねー」
タイムカードを押しながら三好さんが笑って言う。やっぱりいつも通りだ。
「そうですね」
「トラブルもなかったし、平穏そのもの。素晴らしい!」
そう言いながら荷物をまとめる三好さんを、じっと見た。なんだろう。違和感。違和感、違和感。
「あれ、影原さん帰らないの?」
「えっ、か、帰ります!」
「だよね。じゃ、おつかれー気をつけて帰るんだよ」
じゃーねーと後ろ手を振る三好さんを見送りながら、少し考える。そして、はっと気がついた。
──三好さん、今日私の事一回も見てなかった・・・・・・?
三好さんは比較的、人のことを見ながら話してくれるタイプだ。スマホが鳴っているのにも関わらず机の上に置いて話をしたり、おにぎりの棚決めのときも、帰り際もいつも私を見て話してくれて、私が困ったり焦っているとすぐに気がついてくれる。
それは、私がここに入った時からずっとそうだった。仲良くなってからとかじゃなく、ずっとそうだったのに、今日は三好さんは私の方を全く見もしなかった。
違和感の正体はこれだ、とようやく思い当たった。思い当たったのと同時に、どうして? という疑問が心に宿る。どうして、全く見もしなかったんだろう。
見て欲しいという願望があるわけじゃない。私はまだ変われていないし、三好さんに見合ってる人になんてなれてない。だから、私を見てとも、こっちだけ見ていてとも思わない。
でも、やっぱり寂しいし、不安になる。どうしようという気持ちでいっぱいになってしまう。
──きら、われた?
理由はわからない。けれど、それしか理由は思い当たらなかった。三好さんに、嫌われたかもしれない。どうしよう。なんでだろう。私は、何をした?
私は、三好さんに嫌われてしまったんだろうか。




