37.これが世にいう恋バナとかいうやつですか?!
翌日、大学。
講義の終了をおじいちゃん先生が告げたところで、私はさっさと教材をカバンに詰めて足早に講堂を出た。
いつもならそーっと、誰の邪魔にもならないように気をつけるのに、今日は違う。
だって、約束しているから!
「あー! ゆいっちー!」
校舎内一階にある第三食堂に足を踏み入れると、メルちゃんの声が聞こえた。えっどこ!? と思ってキョロキョロしていると、後ろから突撃された。痛い。
「め、メルさ、ちゃん」
「今メルさんって言いかけた?」
「あっ、はい。ごめんなさい」
「あはは! いーよいーよ! ゆっくり慣れてこ!」
「メル、あんた急に突撃すんのやめな? 危ないよ」
メルちゃんの後ろからゆずちんが顔を出した。今日は後ろで髪を一括りにしている。大人っぽくて格好いい・・・・・・!
「こ、こんにちはっ」
「こんにちは。突撃、痛くなかった?」
「大丈夫、でしたっ!」
そう、とゆずちんが小さく笑う。こういう格好いいタイプ、憧れる。でもメルちゃんみたいに可愛いタイプもいいなあ・・・・・・!
「さっくんは〜?」
「まだ来てないんじゃない? 先に席取って食べてよ」
「じゃあ、私、席取ってる、ね。二人は、先に買って、きて」
「え、マジ? いいの?」
「も、もちろん!」
「ゆいっちの分も買ってきたげよーか?」
「だ、大丈夫! お腹ペコペコ、じゃないし、あとで買う、から」
「そう? じゃあ、お願いします」
一旦2人と別れ、四人で座れそうな席を探す。こういうのも凄く新鮮だ。私は基本的に一人ご飯だったし、一人で食堂も気まずくて、来たことなんて入学してすぐの一回のみだった。以来、ずっと構内のどこか人が少ないところで購買のパンを食べたりしていた。
だから四人で座れる場所を探す席探しも、席取りも全然嫌じゃなかった。鼻歌すら歌いたくなってくる。
丁度よく、窓際の四人がけの席が空いたのでそこに座る。商品受け取り場所の方を見ると、ゆずちんが見えた。
そのまま目で追って、二人がこちらに向かってきたところでおずおずと手を挙げた。
「ゆいっちー! めっちゃいい席取ってんじゃーん!」
「ありがとね」
「これくらい、お易い、御用ですっ」
「おまたー」
「お、朔〜」
ちょうどさっくんが合流し、せっかくだからと二人でご飯を買いに行くことになった。学食、ドキドキする!
「昨日はありがとね」
「いえ、とんでもないです」
学食のメニューを見ながらそう返事をする。学食、意外と種類るんだな。うーん、どれにしよう。
「もしかして、学食初心者?」
「は、はい! よく、わかりまし、たね」
「めっちゃ真剣だから」
「種類多くて・・・・・・何かオススメとか、ある、かな?」
「辛いのが大丈夫なら麻婆丼。苦手ならトンテキかな」
「じゃあ、トンテキ、で!」
食券機の前に立ち、お金を入れて心の中でトンテキトンテキと念じながら、ボタンを選んで、えいっと押した。
「めっちゃぎゅーってすんじゃん」
「そう、ですか?」
「気合い入ってた。優依って面白いね」
「そうかな!?」
面白いと言われたのなんて2回目だ。私ってそんな愉快なタイプじゃないのになと首を捻る。それにさっくんが「天然か」と笑った。・・・・・・笑うんだ!?
ビックリしながら食券を出し、ご飯のいい香りを嗅ぎながら待つ。学食、憧れてたから嬉しい。
「トンテキ、お待ちー」
「ありがとう、ございます」
「ラーメンの兄ちゃんはご飯サービスしておいたよ! いっぱい食べな!」
「あざます」
さっくんはどうやら常連らしい。慣れた手つきでラーメンとご飯が乗ったトレイを持って席に向かう。私はそのあとに着いて転ばないように慎重に歩いた。
「あ、きたきたー!」
「待ってて、くれたんですか!?」
「もちろん。みんなで食べよう」
メルちゃんとゆずちんは私たちが来るまで箸を付けずに待っていてくれたようだ。嬉しいような申し訳ないような気持ちを抱きつつ、急いで席に座った。
「いただきまーす!」
「い、いただきます」
トンテキをそろりと口に運ぶ。わあ、美味しい! 少しこってりしてるのに、後味がスッキリしていて食べやすい。甘みもあって、ご飯に合う。これが学食で出てくるなんて、凄すぎる。
「そーだ。ペットボトルさっくんから受け取ったよー! 昨日MINEでも言ったけど、改めてありがとうね!」
「いえ、とんでもない! こちらこそ、写真ありがとう」
「裏から取ってきてくれたんでしょ。ありがと。あたし、写真撮るの下手でごめんね」
「いえいえ、嬉しかったです」
そんな話をしながらご飯を食べる。ああ、推しの話を友達としながら食べるご飯、美味しい!
「じゃ、僕先生に呼び出されてるから」
「さっくん、何悪いことしたのー?!」
「はっちゃけて呼ばれるのはメルだけだ。一緒にすんな」
「呼び出されたことないもーん!」
さっくんはご飯を食べ追えるなり、それじゃと去っていってしまった。ううん、中々ヴァイス様を語る機会が無いなあ。
「さっくん、ゆいっちのことスッカリ気に入っちゃったみたいだねー」
不意にメルちゃんが言ったそのセリフに、お茶が変なところに入った。ゴホゲホッ。今なんて?
「ちょ、大丈夫?」
「だ、大丈夫。え、気に、入り?」
「うん。さっくん、ああやって初めての人と話したりするの珍しいの。ま、私も最初からあーだったけどね!」
「それはメルがしつこかったからでしょ」
「しつこいって言わないで!?」
へえ、そうなんだと落ち着いてお茶を飲み直しながら思う。それはちょっと嬉しいかも。
「ゆいっちのこと好きになっちゃったりしてー」
「それは・・・・・・ゆいっちのこと守らなきゃ」
「ゆずちんのそれウケる。さっくん悪者みたいになってる」
いや話暴走しすぎ!!
「それは、無くない、ですか」
「えー、わかんないよ? さっくん、落ち着いてる方がタイプそうだし」
「同担だしね」
「ねー! もしそうなったら本当にどうしようっ」
多分メルちゃんは恋バナみたいなのが好きなのだろう。きゃーっ! とはしゃいでいる。可愛い。可愛いけど、話の内容は。
「どうする、ゆいっち!」
「え、っと、それは・・・・・・」
「それは!?」
「・・・・・・こま、るかも」
「えっ、そうなの?!」
「その心は?」
「えっ、あ、そう、ですね。その、友達、としては、嬉しいけど・・・・・・あっ、そういう、話?」
「いや、普通に恋愛的なやつ!」
「なら、今は、ちょっと・・・・・・」
三好さんの顔が思い浮かぶ。ようやく三好さんへの好意に気がついて、それを自分で受け入れて頑張ろうと思って頑張っているところだ。今は到底、他の人のことなんて考えられそうにもない。だから、他の恋愛話みたいなのは、今は困る。
「えっ、もしかして、彼氏いるとか?」
「いえ、彼氏は・・・・・・」
「じゃあ、好きな人?!」
「・・・・・・はぃ」
小さな声でそう答えると、メルちゃんがキャー!! と叫んだ。ビックリした。
「えっ、どんな人!?」
「あたしも気になる」
「ど、どんな・・・・・・ええと、バイト先の、先輩、です」
「年上!?」
「・・・・・・うん」
「ふぁー! めっちゃいいー!」
メルちゃんが足をばたつかせ、ゆずちんが「ほぉー」と言った。わ、私今、恋バナして
る? ・・・・・・してるな!? うわーっ!!
「顔真っ赤だ」
「ねえねえ、他には他には?!」
「メル、あんまり困らせない」
「ゆずちんは気になんないの?」
「気になるし、聞きたいけど」
なるんかい。私の味方どこ?
「あ、明るくて、人気者で、優しい人、です」
「チートじゃん!」
「え、もしかしてオタク要素もある?」
「あ、ある・・・・・・ナイライ好きで・・・・・・」
「パーフェクトがすぎる」
えーいいなー恋とかいいなーとメルちゃんが楽しそうにする。ゆずちんも何だか楽しそうだ。・・・・・・なんか私も楽しくなってきた。
「私、その人と見合うように、なりたくて。変わりたくて」
「えーっ、めっちゃいいじゃん!」
「可愛い・・・・・・」
「か、可愛くないですっ」
「ゆいっち可愛いってー! 好きな人の為に変わろうなんて・・・・・・健気で可愛いっ! 応援するよ!」
二人に可愛い可愛いと言われ、困惑する。絶対二人の方が可愛いし綺麗なのに。おかしいな。
「あの、それで」
「うんっ!」
「なになに?」
「お2人に、力を借りたくて」
「ちから? いいよ!」
「まだ内容言ってませんが!?」
「友達の頼みならいくらでも貸すよー!」
メルちゃんが屈託ない笑顔でそういう。やっぱりメルちゃんの方が可愛い! 可愛いけど、借金の連帯保証人とか気をつけて欲しい!!
「で、力って?」
「あの、私ファッションとかオシャレとかわからなくて・・・・・・」
「ほう」
「だから、二人にオシャレを伝授してもらいたくて・・・・・・!」
お願います! と頭を下げる。2人ともオシャレだし、私よりずっと色んなことを知っているだろう。どんな服がいいんじゃないかとかそういう情報だけでもいいから、知りたかった。
「なーんだ。真剣な顔して言うから何かと思ったじゃんー! いいよ、今度一緒にショッピングモール行こ!」
「ゆいっち、予定いつ空いてる? バイト休みいつ?」
「へっ、あ、えと、今度の土曜休み、だけど」
「じゃあ、土曜日いこ! ゆいっち着せ替えしよ!」
「こら、人を着せ替え人形みたいに言わないの。ゆいっち、それで大丈夫?」
「は、はい! えっ」
私は心底ビックリしていた。え、ショッピングモール!? 土曜日!? それってつまり。
「一緒に買いに行ってくれるんですか!?」
「え、もち! 嫌だった?」
「とんでもない! まさか、一緒にお出かけしてくれるなんて思ってなくて、ビックリして」
「行くよー! あそぼあそぼ!」
「一番の目的はゆいっちの服だからね」
「わかってるー!」
凄い。夢みたいだ。
こうして、友達との初のショッピングモールが決定したのでした。




