36.コンビニバイトはこんな感じです。
コンビニ業務は意外とやる作業が多い。納品、品出し、カウンター前フライケース内の補充、店内清掃、トイレ清掃、棚のホコリ取り、売れ残った本の返品作業、売れた商品の棚の整理(前だし)、時々エラーを起こす機械類の修理、タバコやペットボトル飲料の補充、フライヤーの清掃。などなど。
今の時期だとおでんと中華まんの補充や管理もある。
それらをレジを見ながら二人で作業分担してこなしていく。お客様が来なくてレジをやることが少ない時は意外と時間が余ることもある。納品がない日などは尚更。
だが、時々混んでいて時間がかかる時は十分の休憩も返上して作業することもある。
そして、今日がそうだった。
「二十時半・・・・・・」
「何も出来てないね・・・・・・」
お客様が沢山来て下さり、忙しかったのはまだ良いとしよう。揚げ物を沢山買ってくださって、フライヤーが中々開かないほど揚げ物をしまくったのも、全然いい。
でも、こういう時のコピー機の複雑な紙詰まりとコーヒーマシンのよくわからないエラーはやめてくれ!! と心底叫びたくなる。さっきなんて三好さん、コーヒーマシンに向かって「ねえ、わざと? わざと今へそ曲げてるの?」って言ってた。機械に話しかけてた。でもそうなるのがわかるくらい、色々と重なりすぎた。本当に故障はやめて頂きたい。
そんな訳で、あと終業まで一時間半しかないのに先程挙げた作業が何も出来ていなかった。かろうじて邪魔になるからとお菓子の納品物を棚に収めた程度。終わった。
「私、飲料の補充してきますね」
「もうスカスカだもんね・・・・・・おっけ。品出しと前出しと清掃とレジは任せて。フライヤーは最悪、夜勤さんに頼めばいいから」
「すみま、ありがとうございます、お願いします。戻ってきたら本の返品しますね」
「りょー」
休む暇なんてない。すぐに動き出し、少しでも作業を進める。バックヤードに入って、用意された上着を羽織って冷蔵室の中に入る。
ペットボトルや缶の飲料ケースの裏側は大きな冷蔵庫になっており、スタッフはその空間に保管されているペットボトルを裏から補充していく。タイミングが悪いと飲料を取るお客様をビックリさせてしまうので、ガラスの向こう側を見ながら、慎重に。
「寒・・・・・・」
冷蔵庫の中に入っているようなものなので、中はとても寒い。かじかむ手でダンボールを降ろしたり上げたり開けたりしながら素早く補充していく。意外と重労働だ。
「あ」
サクサク補充をしていた手が止まる。手に持ったペットボトルのラベルにはヴァイス様が印字されていた。・・・・・・これだ! ナイライコラボのジュース!! うわあ、ジュースを飲むヴァイス様もイケメン!
──さっくんに連絡したいけど、今はなあ・・・・・・。
仕方ないから終わったら連絡しよう。ロートさんとシュヴァルツさんもいるから、メルちゃんとゆずちんにも。
──ふふ。こうやって考えられるのも幸せだなあ。
そんなことを思いながら、棚にジュースを入れた。
「飲料補充終わりました」
冷蔵庫から出て、上着を脱いでバックヤードから出ると三好さんがちょうど品出しを終わらせたところだった。
「お疲れ。寒かったでしょ」
「ナイライコラボジュースを見たので温かくなりました」
「やば、上着いらずじゃん」
すげーと三好さんが笑う。それに笑い返していると、入店音が店内に響いた。
「い、いらっしゃいませ!」
レジに行こうとする三好さんに「私が行きます」と行って、レジに向かう。入ってきたのは、黒髪の若い男性だった。・・・・・・って。
「あ、優依」
「さっくんさ・・・・・・さっくん!」
「別にさっくんさんでもいーよ」
まだ慣れないだろうしね、とさっくんが無表情に言う。ううん、まだ考えてる事はわかりにくいし出会って二日目だけど、いい人なのはMINEやメルちゃんとゆずちんの反応でわかる。何より、同担で意外と語ってくれるタイプだ。早く仲良くなれるといいんだけどなあ。
「バイト先のコンビニってここだったんだ」
「あ、そう、なの。さっくん、は、ヴァイス様を、探しに・・・・・・?」
「そう。いる?」
「いる、よ! ちょうど、さっき見つけて、終わったら、連絡、しようと、思ってて」
「そう。良かった。ここまで全滅だったんだよね」
そんなに!? とビックリする。こういうグッズは買ったことがないから、そんなに競争率が高いとは知らなかった。ナイライ、人気だ・・・・・・!
「あ、奥の方に、あるから、私、取ってくる」
「いいの? ありがと」
「あの、出来れば、メルちゃんとゆずちんに、推しあるよって連絡、お願いしても」
「二人も残ってんだ。おっけー連絡・・・・・・てか僕が買ってくよ。どうせ明日あの二人、買えなかったって嘆くだろうし」
「そう、なの?」
「運悪いんだよあの二人。いつもタイミング悪いらしくて推し見つけらんないし、ガチャもいつも僕が引いてる」
「アハハ・・・・・・」
じゃあ、売れちゃう前に取ってくるねともう一度冷蔵室に行き、ヴァイス様とロートさんとシュヴァルツさんのペットボトルを抱えて戻った。
「はいっ」
「ありがと。助かった。会計お願いしていい?」
さっくんが持っているカゴにジュースを入れる。カゴの中にはウエハースが既に入っていた。やっぱ買うよね、それ。
「ここ、ナイライちゃんとあるんだね。やっぱ優依が?」
レジに商品を入力していると、さっくんが財布を用意しながらそう言った。
「う、ううん。先輩が・・・・・・」
「先輩?」
「ゴルトさん推しの、先輩がいて・・・・・・あれ、どこにいるかな・・・・・・」
「へえ。宜しく伝えておいて」
会計の金額を伝えると、さっくんはピッタリ支払ってマイバックに商品を詰めた。しっかりマイバック持ち歩くタイプの人なんだ。ちょっと意外。
「じゃ、仕事中にごめん。あとでMINEする」
「うっ、うん、また!」
邪魔にならないようになのか、さっくんはサッサと帰って行った。ふう。まさかさっくんが来るなんて。ビックリした。
「今の、友達?」
「わっ!?」
フライヤー室からひょっこり現れた三好さんに、肩がビクッと跳ね上がる。ビックリした。
「そ、そこにいらしたんですね」
「洗い物してた〜」
「ああっ、ありがとうございます! 今のは、友達です。同じヴァイス様推しで・・・・・・」
「へえ」
そう呟いたあと、三好さんが何かをぽつりと言った。なんて言っているのかわからなくて聞き返したけれど「ん? 何が?」とはぐらかされてしまった。
「じゃ、俺引き続き洗い物してるから」
「お、お願いします。私は返本してますね」
思えば、この時から違和感があったのに、この時の私は気がつくことが出来なかった。




