35.友達ができたんです!
次の日、三限目の講義が終わって席を立つ。歩きながらスマホをカバンから取り出し、電源をつけると『ナイライ推し!』のグループトークにいくつかメッセージが入っていた。
『ゆいっち、今日会えないね〜! 寂しー!』
『昨日会ってたし、夜めちゃくちゃメッセージやりとりしてたでしょうが』
『昨日は昨日! 今日は今日なの! ゆいっちー!!』
『なあ、ナイライのコンビニコラボ限定ジュースの情報見た?』
『見た! 今日からでしょー? 楽しみ!』
『探しに行かなくちゃだね』
『ねぇねぇ、ゆいっちも探すの?』
何故か最後に私に話題が振られている。そういえばコンビニコラボジュースの情報あったな、と思い出す。こういう物品系は買えないからあまり情報を見ないようにしているから忘れていた。
『あの、私、すみません。その、家庭の事情で、物系のは買えなくて・・・・・・』
盛り上がりを削ぐようなことを言っている罪悪感と、推しに貢献できない罪悪感に駆られながら返信を打った。ああ、申し訳ない。色々と。突っ込まれたらなんて答えよう・・・・・・。
『えっそうなの!? じゃあ、私買ったら画像送る〜!』
『あたしも。金欠だからシュヴァルツだけになっちゃうけど』
『僕も送る』
『そもそもあるかなー!』
しかしすぐに三人からそんな罪悪感など不要だと言わんばかりの返事が返ってきた。うう、優しさが心に沁みる。
『てことで、ジュースは私たちに任せて、ゆいっちはバイト頑張ってね!』
『はい。ありがとう』
『てか、なんのバイトしてるの?』
『コンビニ店員です』
『じゃあ、ジュース見れる可能性あるな』
『でも画像は送るー!』
『もしシュヴァルツ見かけたら教えて』
『ロートさんも!』
『はい!』
そこで一度会話が途切れた。スマホをカバンの中に戻し、歩き始める。スキップをしたい気分だったけれど、さすがに浮きすぎるよなと思って脳内でスキップしながらコンビニへと向かった。
***
「おはようございます」
事務所のドアをガラリと開けると、三好さんが「おはよー!」と元気に挨拶をしてくれた。そういえば、三好さんっていつも来ると既にいるけど、何時に来てるんだろう。不思議だ。
「あれ、影原さん、なんかいいことあった?」
「へ?」
「雰囲気がいつもより柔らかい気がするんだけど」
気のせいかな、なんて三好さんが言う。ええ、凄い。エスパー!?
「はい。実は、友達ができたんです」
「友達?」
「って、普通はこれくらい、なんてことないんでしょうけれど・・・・・・」
三好さんからしたらなんて低レベルな話、な話である。友達できて喜ぶなんて小学生か。みたいな。
でも、三好さんは直ぐに「おおっ!」と顔を輝かせた。
「大学でできたの?」
「はい」
「へえ、どんな人?」
「ナイライが好きな人達で・・・・・・あ、三人、なんですけど」
「へえー! やったじゃん!」
あれ、三好さん、凄い喜んでくれてる。まるで、自分のことみたいに。もしくは、保育園児の娘に友達が出来た時の母親みたいに。・・・・・・本当にそういう感覚だったらどうしよう!? 三好さんは好きな人なのに、お母さん感覚は困る!!
「ん、今度は難しい顔してるけどどした?」
「いえ、なんでもありません・・・・・・」
「そう? まあ、何にしても良かったね。どうやって知り合ったの?」
「カバンにロートさんのぬいのストラップつけてる人に、声をかけたんです」
「影原さんが?」
「はい」
それに、三好さんが「凄い!」「頑張ったじゃん!」と反応してくれる。・・・・・・やっぱりこれ、お母さんの反応だ!! どうしよう!?
これはあとでルイさんに相談案件だ、と思ったが、よく考えたら昨日ルイさんに報告した時も『頑張ったじゃないか。褒めてあげよう』と言われて『世の中のお父さんかな?』と返したら『そうだな(笑) お父さんと呼んでくれ』と言われたことを思い出した。
そんなルイさんにこれを相談したら『お父さん二号だな』って言われそう。いや絶対言う。お父さん二号は一号より困る。やめよう。
「影原さん?」
「が、頑張りましたっ!」
「うん。良かったね」
そんな父性に溢れた優しい笑みを向けないでください!! 心折れそう!!!
「あの、バイト・・・・・・出ましょうか」
「そうだね。今日もゆったり頑張ろ!」
はあ。幸先、いいのか悪いのかわかりません。




