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30.なんだかとても運がいいです。

投稿予約ミスで昨日の分が今日更新になっていました。

(ノ∀`)アチャー


 暑かった季節は終わり、涼しい風が吹く。

 足元にカサリとぶつかる落ち葉に、すっかり秋になったことを知らされる。


「・・・・・・うう、寒い・・・・・・」


 温度感を見誤ってしまったようだ。薄手の上着では少し寒くて、体を震わせた。コンビニまであと少し。中に入れば暖かい、はずだ。多分。暖かいと信じたい。寒い。

 赤信号で止まったのをいい機会に、スマホをちらっと見た。スマホのロック画面はオタメイトの階段にいたヴァイス様、待ち受けはナイライコーナーになっている。ああ、寒くてもヴァイス様は相変わらず格好いい。優しい微笑みは、まるで私のような下賎な者すらも包み込んでくれているようで、その包まれ感に寒さも和らぐ。ヴァイス様、暖房器具いらずのイケメン!!


 心がすっかり温まったところで、信号が青に変わった。慌ててスマホをカバンの中に戻し、コンビニに向かって歩き出した。


 

「おはよう、ございます」

「影原さんー! おはよー!」


 事務所に入ると、いつも通り三好さんが笑顔で迎えてくれる。その片手にはスマホが握られていて、挨拶が終わるのと同時にすごい速さで文字を入力し始めた。うおお、凄い。あれが慣れし者のメッセージ入力速度か。私のスピードなんてあれの十分の一にも満たない。友達が多い人、凄い。


「ふー、よし」


 少しして、三好さんがスマホを机の上に置いた。まだ鳴ってるっぽいけどもういいのかな。


「ねえちょっと聞いてよ影原さん。今さ、ナイライで季節限定ガチャやってるじゃん?」

「ああ、はい。エデルのガチャですよね。大人っぽい秋の装いが格好いい・・・・・・」

「そうそう。あれ、俺めちゃくちゃ引いてるんだけど、見事にゴルトさんすり抜けまくっててさー。ズィルバーさん三人くらい来てるの。ほら見て」

「本当ですね」


 三好さんが慣れた手つきでナイライを起動させ、カード一覧を見せてくれる。見事にズィルバーさんだらけだ。あるある。


「ズィルバーさんのゴルトさんガード発動してますね」

「そうなんだよー! このゴルトさんめっちゃ欲しいのに!」


 この赤っぽい衣装すっごい似合うのにー大人っぽいのめちゃくちゃいいのにーとぼやく三好さんを見て、すぐに目をそらす。必要以上に近づきすぎてはいけない。遠くから見て話しているくらいが丁度いい。これくらいで私は満足するべきなのだから。


「そうだ。影原さん、ちょっと引いてみてよ」

「えっ、私ですか?」

「うん。ほら、推しセンサーとか言うじゃん。俺、これ以上引いても来ない気しかしないし、影原さんが引いたら来るかも!」

「私、そんな運良くないですよ?」

「何も考えなくていいから! 出なくても問題ないし、あとガチで今日の影原さんなら出る気がする!」

「んええ・・・・・・」


 何、今日の私なら、って。私、もしかして今日光り輝いてたりする? 背後にヴァイス様()が降臨してたりする? だとしたら私も見たい。んんん。まあ三好さんがいいならいいか・・・・・・。


「わかりました・・・・・・」

「よろしく! 出なくても本当に気にしなくていいから!」

「わ、わかりました!」


 そう言いながら引いたガチャは、エデル予告を発動し、金予告を発動して。

 そして、見事ゴルトさんを引き当てたのだった。


 ・・・・・・マジで今日の私、背後にヴァイス()様いるかもしれない。


***


 バイトが終わり、夜勤のオーナーと店長に挨拶をしてから事務所に入る。

 タイムカードを押しながら、今日の出来事を振り返る。


 今日の私、ガチめに運が良かった。

 強面のお客様は全員タイミングよく三好さんが相手をしてくれたし(三好さんはいつも通り難なく接客をしていた)、お菓子の納品は美味しそうなチョコレートが沢山入ってきていて、思わずいくつか買ってしまった。あとナイライウエハースの追加納品で目の保養をさせてもらえたし、そういえばジュースも美味しそうなものが入ってきていた。帰りに買おうかな。

 とまあ、人からしてみたら大したことないかもしれないけれど、私からしたらワクワクすることが沢山あって、運が良かった。本当に今日はヴァイス神がついているのかもしれない。いや、ついてる。これは確実についてる。後でお布施しないと。


「お疲れ、影原さん」

「お疲れ様です」


 三好さんが少し遅れて事務所に入ってきた。三好さんはタイムカードを押したあと、帰り支度をする私を見て「ん?」と言った。


「影原さん、ちょっとワクワクしてる?」

「え、あ、はい。少し」

「いい事あった?」

「はい。美味しいチョコレート買えましたし、仕事中にナイライで目の保養も出来ましたし、それに今からジュースを買って帰るんです」

「おお、良かったね」

「私、今日何かいいことしたのかなって気持ちになってきました。何かあったかな・・・・・・」


 そう言うと、三好さんは少しだけ目を見開いて「え、マジで言ってる?」と言った。


「へ?」

「あ、その感じ、マジだ」

「え、えと、何の話ですか?」

「じゃあ、俺からお知らせしちゃお。RIMEでメッセージ送るね」


 三好さんは一体なんの話しをしているんだろう? 全然話の意図も流れも汲み取れない。今日・・・・・・何かあったっけ。ヴァイス様記念日とか? いや、絶対に違う。そんな日あったら、私は確実に休みを取っている。ていうかそんな日を私が作りたい。

 でも、それじゃ何が・・・・・・? と考えてる間に、スマホが鳴った。慌ててスマホのロックを外して三好さんからのメッセージを開き、内容を見て、思わず「えっ」と言った。


 スマホの画面には、「ハッピーバースデー」の文字と、オタメイト限定で配布されていたヴァイス様の画像。


「今日十月三十日は、影原さんの誕生日でしょ?」

「えええっ!?」

「忘れてた?」

「忘れてました!!」

「マジか〜!」


 ウケる、と三好さんが笑い出す。それに釣られて私も笑った。


「いやすみません。誕生日なんてルイさん以外誰にも祝ってもらうことなくて、完全に忘れてました」

「そうなんだ。今回はルイさんからお祝いきてないの?」

「今見たらDMついてたので、恐らく来ています」

「えっ、見た方がいいんじゃない?!」

「帰ってからにします。歩きスマホしてるんじゃないかって心配されるので」

「なるほど」


 それにしても、三好さんはなんで私の誕生日を知っていたんだろう。それに、この画像。欲しくても手に入らないと思っていた画像だ。どうしてこれを。


「この間店長が履歴書の整理してたから、その時に聞いたんだ。影原さんって誕生日いつなんですかって。勝手に聞いてごめんね」

「いえ、全然。嬉しかったです」

「なら良かった。その画像は、この間オタメイト行った時にキャンペーンにエントリーして貰ったやつだよ。ほら、五百円毎にランダムで限定待ち受け画像貰えるやつ」

「ああ! あの時に!」

「出るか不安だったけど、無事に出てよかったよ〜!」


 だからあの時、めちゃくちゃ買い物をしていたのか、と合点した。買えば買うほど確率は上がる。散財をさせてしまったかもしれないけれど、多分それを謝罪するのを、優しい三好さんは求めていない。それよりも。


「あの、ありがとうございます。待ち受け、とても嬉しいです」

「どういたしまして!」


 素直にお礼を言うと、三好さんはとても嬉しそうに笑った。・・・・・・ああ、こういうところ好きだな。こういう、寄り添って、私のことを考えてくれて、私のお礼にとても嬉しそうな顔をしてくれるところ。


 ・・・・・・もし。もしも、もっと近づけられたら。


 そんな気持ちが、体の底からマグマみたいに押し寄せてくる。もっとこんな三好さんを見ることが出来るんだろうか。三好さんの喜ぶことを知れて、三好さんが私を喜ばせてくれるように、私も三好さんを喜ばせることが出来るようになるんだろうか。

 もっと、もっともっと。


 ・・・・・・私って、こんなワガママだったかな。


 近づいてはいけないと思いながらも、三好さんには私みたいなのよりも、キラキラした女の子が似合うと分かっていても。

 やっぱりもっと近づきたい、なんて。強欲なことを思うなんて。


「改めて、お誕生日おめでとう。影原さん。いい一年になるといいね!」


 本当はもっと、三好さんの笑顔を見ていたいって思ってしまうなんて。


「あ、ありがとうございます!」


 私らしくない。全然私らしくない。

 けど、少しくらい、たまにはワガママになっても・・・・・・。


 ・・・・・・。よし。


 私、影原優依。誕生日が来て二十歳になりたてほやほや。

 生まれて初めて、自分勝手な決心をしました。


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