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29.住む世界が違いすぎませんか!?


「はー・・・・・・」

「影原さん、お疲れ様。レジ立て込んだね〜」

「お疲れ様です。三好さんのレジ、早いですね。助かりました」

「丁寧に素早く! が俺の信条だからね!」


 へへーんと言いながら得意げにブイサインをする三好さんに、小さく笑う。

 一緒にオタメイトへ行ってから数日が過ぎた。その前から三好さんとはお話しやすいなと思っていたが、あれから特に話しやすくなった気がする。

 冗談を言ったからかも知れないし、家のことを話したからかもしれないし、ナンパから助けて貰ったからかもしれない。

 ハッキリとした理由はわからないけれど、でもとにかく、あんまり言葉を切らずに話せるようになったし、割と自然と話せている気がする。


「あ、影原さん。肩にテープついてる」

「っ、にょあ!?」


 肩に伸びてきた三好さんの手にビックリして、よくわからない声が出た。それにクックと笑いながらも三好さんはテープを取ってくれた。

 ううう、こういうのは慣れないな。それどころか日に日にダメになっていってるまである。なんか薬とかあればいいのに。恋は病とかいうのに、なんで薬がないんだ! まったく!!


「すみません、変な声出して・・・・・・」

「いやいや。面白いからいいよ」

「面白・・・・・・」

「嘘。突然手を伸ばした俺が悪いから気にしないで。逆にごめんね?」


 そう言いながら手をヒラヒラとさせる三好さんに、なぜか心の中で優しいな! もう! とキレた。情が行方不明すぎる。

 にしても、あんなにキラキラしていて遠い存在と思っていた三好さんが今ではこんなに近くにいて、現実世界では一番、ネットの世界まで入れてもルイさんと同じくらい、話しやすい人になってるなんて。

 事実は小説よりも奇なり。現実は二次元よりも不可測なり、だ。


「こ、コロッケ揚げてきますね!」

「うん、おねがい〜! 俺は前だししてくるね!」


 その場から逃げるように、そして連打して数を稼ぐ系のイベントでスマホを連打する時の音並みに凄い音を立てる心臓の音を誤魔化すように、私はカウンターの横にある揚げ場に入った。

 深呼吸をして気持ちを落ち着けてから、何故か「失礼します」と言いながら冷凍庫を開けてコロッケを取り出した。ああ、冷たい。私も熱くなった顔を冷凍庫に突っ込みたい。そんなことしたら大炎上間違いなしだし、そもそも三好さんに見られたりしたら激ヤバすぎる。もういっそコロッケになりた・・・・・・。


「いらっしゃいませー」


 思考がよくわからない方向へ行ったところで、入店音と三好さんの挨拶と賑やかな声が聞こえてきた。慌てて揚げ場の中から「い、いらっしゃいませー」と言い、コロッケをフライヤーのカゴの中に入れて、浮かないように抑えをセットして、フライヤーの六分のボタンを押した。

 これでフライヤーはきっちり六分後に勝手に上がってきてくれる。ボタン間違えなければミスって丸焦げなんてことにならないし、なんて素晴らしい機械だろう。家にも欲しいレベルだ。置く場所ないけど。


 そうして慌てて揚げ場からカウンターに戻ったところで、賑やかな声の中に三好さんも混ざっていることに気がついた。

 三好さんと、知らない男性が一人、女性がニ人。計五人がお菓子コーナーで何やら楽しそうにしていた。多分全員同年代。というか多分他の感じだと、三好さんの友達なんだろう。


「てかほんとに、なんで来てんだよ。二駅ぐらい離れてるだろ」


 三好さんがお菓子を整えながら呆れたように言う。それに、女性二人が「「えー!」」と不満そうな声をだした。


「あきらんのバイトを応援しようと思って来たのにーそんな言い方ひどーい」

「うちらの好意を無下にするわけー?」

「いや絶対違うだろ」

「バレた?」

「バレたバレた」

「ほんとは近くに来たから遊びにきただけでーす」

「いえーい!」

「そんなことだろうと思った」


 その光景を見て、私は硬直した。

 三好さんに今話しかけている女性二人は、パッチリとした目に綺麗なメイクを施し、長い髪の毛は綺麗にセットされ、服も露出多めで派手だけど、彼女たちに似合っている。

 そして、一緒にいる男性も今どきの・・・・・・ほら、なんていうんだろう。モード系? っていうのかな。わからないけれど何かオシャレな服を着て、髪の毛も刈り上げの多分今流行っている髪型になっている。


 まあつまり、一言でまとめると。


「キラキラ・・・・・・」


 あまりのキラキラさに思わず言葉が漏れた。それくらいキラキラしているし、あと楽しそうだ。三好さんってあんな風に意地悪そうな顔したり、笑ったりするんだ。

 なんか、凄く、私と話してる時と違う。話し方も、表情も。


 三好さんの今までの話し方や言った言葉が嘘だとはまったく思わない。三好さんの目にはいつも嘘がなかったから。

 でも、これで思ってしまった。


 三好さんは、やっぱり私とは住む世界が違うんだ。


 三好さんがいるのは、キラキラ眩しくて、明るい場所だ。

 私は、ナイライに助けて貰ってその世界に近づくことは出来ても、入れはしない。眩しすぎて。


 多分三好さんの友達の方たちは、少ししたらお菓子をたくさん買って「今からカラオケ行くんだーいいだろー!」とバイト中の三好さんに自慢をして帰って行った。


「ごめんね影原さん。あの人ら、大学の友達で。やかましかったよね」


 そう声をかけてくれる三好さんはいつもの優しい表情と落ち着いた声色で、それに少しだけ寂しく感じた。


「いえ、全然。楽しそうな方たち、でしたね」

「そう?」

「はい。あ、えと、コロッケ揚がったので取りに行ってきます」

「お願いー!」


 三好さんには、さっきみたいなキラキラな女の子たちが似合っている。

 私みたいな影の塊は、期待すらしてはいけないと、改めて思った。


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